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バイソウルの一人  作者: わたしだ


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嵐と少女(1)

 「外の様子は?」


 「まだ大丈夫なようです。ただ、いつ獣たちが湧き出てくるか‥‥」


 「交通路で偶に遭遇する者もいて、商人たちの間では既に噂が立ち始めております」


 「ですので、念のため少数の兵を獣討伐と警備に向かわせております」


 「‥‥そう」


 流し目に青の瞳が窓を滑る雨粒を追う。対面する男三人は、悩ましい様子で視線を落としていた。その内二人の男は背広の襟にバッジを付け、もう一人の男は筋肉質の体をして、真っ黒の軍服に袖を通していた。ただ、メイドのリューだけは無表情に、椅子に座るアインフェルナの横に立っていた。


 「あの子の方は?」


 アインフェルナの問いに白髪の男が首を横に振った。


 「まだ見つかっておりません‥‥」


 「そうよね」


 派手な柄絨毯に反して、重たい空気——。

 淀むその場に眼鏡の男からため息が漏れた‥‥。ただ、それを断ち切るように、「パンッ」と小さな手が叩かれた。そして次には、はきはきとした声が執務室に響いた。


 「あの子の捜索はとにかく続けないとね。それと、獣対策も強化しておきましょう。もしもの時に備えておいて頂戴。あとは司書様にもこのことをお伝えして——」


 「あ、あの‥‥」


 割って入った、眼鏡をかけた男に、アインフェルナは「何?」と視線を向けた。


 「その、司書様なのですが‥‥」


 「どうかしたの?」


 「実は、一昨日からツーリアの方へ出かけられておりまして‥‥」


 「なら、早く伝令を——」


 「それが、一応のため昨日中に伝えに行かせたのですが‥‥」


 男はどこか言いずらそうに続けた。


 「“そのくらい自分でどうにかしなさい”と‥‥」


 「そう。わかったわ」と落ち着いた様子でアインフェルナは応えた。が——、

 「あのクソババア‥‥」

 小さく漏らしたその言葉は、幸いにも雨音にかき消されていた。


 「アインフェルナ様? どうかなさいましたか?」


 眼鏡の男に声をかけられて、はっとしたようにアインフェルナは噛んでいた唇を緩めた。


 「ごめんなさい」


 「い、いえ」


 眼鏡の男は、一度咳払いをすると「それから」と続けた。


 「それから、民衆への説明はどういたしましょうか」


 「‥‥そうね。それも考えないとよね」


 アインフェルナは顎に手を当てた。緩く巻かれた金の髪が微かに揺れる——。


 「そちらでは、どう考えているの?」


 彼女の問いに、眼鏡の男は、

 「まだ伝えないようにしようとは思っております。下手に混乱を招くのは余りよろしくないかと‥‥。それに——」

 と言って途中で切った。そして、控えめに向けられた男の目には、華奢な少女の姿。


 「大丈夫よ」


 向けられた目に、アインフェルナは優しい微笑みで返した。


 「その時は私に任せて」


 「‥‥申し訳ありません」


 「謝らないで。そのためにいるのだから」


 アインフェルナはさらりと髪を手で流した。その姿は堂々としたものだった。


 「さて、それじゃあ、話し合いは一旦ここまでとしましょう。これ以上は動かないと何も始まらないわ」


 その言葉に、男三人は頷くと「失礼します」と部屋を後にした。


 「リュー。疲れた」


 「紅茶をお持ちしますか?」


 「ううん。ぎゅーして」


 見上げる瞳は先程までの緊張感はなく、僅かに幼さを覗かせていた。それに応えるよう、ため息交じりにリューはアインフェルナの顔を懐へと招き入れた。


 少しの間、雨音だけがやけに広い執務室を埋めた‥‥。


 「苦しい」


 「はいはい」


 胸元から離れたアインフェルナの表情はキリッと大人びたものに戻っていた。


 「そういえばお客人は?」


 「ああ、リオネ様なら今朝方、食事を済ませた後に街へ行かれましたよ」


 「‥‥そう」


 アインフェルナはゆっくりと立ち上がると、窓辺に寄った。


 「できれば晴れた日に見てもらいたかったけれど」


 彼女の吐息が窓を曇らせる。

 窓外に続く街並みは未だ雨空の下にあり、冷ややかな中にそれでも活気を保っていた。

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