少女と雨——赤の雨傘
雲行きの怪しくなってきた空の下、森の中を二つの人影が進む。
「あなたも可哀そうにね。あんな乱暴な妹を持って」
「‥‥そうですね」
「あなただけ我慢して。あの子はわがままに、自由に生きている‥‥。何と酷いことかしら」
根元から毛先にかけて、黒から赤へとグラデーションのかかった長髪を垂らして、不健康とも見えるほどの真っ白な肌をした女が、視線を下げ少女へと語る。
「“お役目だから仕方がない”、“この国の人のために”、“あなたにしかできないの”。——って周りの大人たちも言うんでしょう?
‥‥わかる。わかるわっ。今あなたの思っていることがっ。憎いでしょう、どうして私だけって思うでしょう」
強まった語気に、少女は黙ったままでいた。それに対し女はさらに畳みかける。
「いいのよ、そんな風にに思っても。だっておかしいものそんなこと——。そう、おかしいわよね。あなただけそうだなんて。間違っているわよね‥‥、そんなこと」
そして女は、艶やかな髪を耳に掛けると、「でも——」と続けた。
「でもね、もう大丈夫よ。これからあなたは自由になるの。そのお役目から解放されるのよ」
その言葉に少女はコクリと頷いた。少女の長髪は、頷いてもその顔を隠すことは許さなかった。正面、ぱっくりとセンターで分けられた髪から覗く表情は、無であった。
彼女の首元に掛けられたネックレスは、金であるのに煌びやかな色味を失って、ただ曇天となりつつある空を写し鈍く光る。
「ほら、もうすぐ。もうすぐあなたは、あの忌々しい奴らから解放されるっ」
少女の何かを煽るように、女は目を見開いて語りかけ続けた。
二人はどんどんとその足を森深くに進め、たどり着いた先は——、大きな岩窟の前だった。
「‥‥ここが?」
「ええ。ここに入れば、あなたはお役目から解放されるのよ」
少女の喉が僅かに動いた。そうして、「ほら」と女に促されるままに、少女はその暗闇へと一歩踏み出した。
一歩、二歩、恐る恐る少女の足が進み、その姿が完全に暗闇へと飲み込まれた‥‥。その時だった——、
「ガァンッ!」という大きな音と共に、「キャッ」と甲高い少女の悲鳴が暗闇の内に響いた。
岩窟が、これもまた大きな岩で蓋をされた。
遮断された外と内——。
するとすぐに、重たい空からポチャリ、雨粒が滴り落ちた。
木の葉で弾けた一粒を皮切りに、天気は崩れ、もう周囲は土砂降りとなっていた。
「アハハハハハハハッ」
響く雨音の中、高笑いがこだまする。
異様なまでに釣り上がった口角で、女は鮮血の赤色をした傘を差して、一人森を戻っていった。




