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バイソウルの一人  作者: わたしだ


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画家のパトロン(3)

 食事場、台所、書庫に音楽部屋。屋敷の各部屋は、華美まではいかないが、高貴さの伺える様相をしていた。また、リオネ達が廊下ですれ違う人も、メイド服や背広に袖を通し、乱れのない風貌の者ばかりだった。


 そんな中で、リオネ達が三階の部屋を見ている時に、明らか他とは違い、純朴な姿をした青年がその横を通り過ぎた。


 「こんにちは」


 リオネ達の挨拶に、その青年は会釈だけして廊下を歩いて行った。


 「今の方は?」


 「音楽家の人だよ。ピアノ弾くのが上手なんだあ」


 「そんな方まで‥‥。やっぱりすごい家だ」


 雨音響く廊下に、敷かれた絨毯は三人(二人)の足音を吸い込む。


 「そうだ。最後に見て欲しいものがあるんだあ」


 ブルートはそう言うと、とある一室へとリオネ達を案内した。

 三階の角部屋、そのドアノブを捻ると、中はカーテンが閉め切られており、ほとんど暗闇となっていた。


 「‥‥ここは?」


 と、リオネが尋ねた時だった。


 パッと照明が点き明るくなると、「わぁ」とリオネ達の口から声が漏れた。


 ——壁一面を彩る絵画。


 何枚もの絵が壁に掛けられ、その色味を主張していた。


 「もしかしてこれって‥‥」


 「うん。全部僕が描いた絵なんだ」


 風景画に肖像画、さらには抽象的なものまで。そこに飾られた絵はブルートという画家の価値を容易に現わしている。


 リオネ達は、眼前に広がった世界にただ没頭していた。一枚一枚に目を通して、言葉無くただじっとそれぞれの絵を隅々まで瞳に収めていた。


 そんなリオネ達を見て、「そんなに丁寧に見られると、なんだかこっ恥ずかしいなあ」と、ブルートは頭を搔いた。


 そうしてリオネ達が見ていた中、とある絵の前でその首が傾いた。


 「どうかしたのかい?」


 それに気が付いたブルートが尋ねると、リオネ達は「んー」と顎に手を当ててから口を開いた。


 「なんか、この絵だけ雰囲気が違うというか‥‥。そんな気がするんですよね」


 「どれだい?」とブルートもその絵を見ると、「ああ、これか」と彼は納得した様に微笑んだ。


 「これは、僕が小さい頃に描いた絵なんだ。画家になるきっかけって言ってもいいんだけど」


 こちらを見つめる大きな細長い瞳孔。その周りは赤黒く硬そうな鱗の様なもので覆われて——。


 額縁に収められた三十センチ四方の画用紙一杯に描かれたそれは、禍々しさと共に、どこか哀愁漂うものだった。


 「小さい頃ですか」


 「うん」


 「ちなみに何が描かれてるんですか?」


 「サラマンダーの目だよ」


 ブルートは優しく目を細めて、懐かしむように微笑んだ。


 「僕、小さい頃にすごく大きなサラマンダーを見たんだあ。

 とにかくその瞳に釘付けになった。怖かったし、驚いたけど‥‥。それ以上に綺麗だって思ったんだあ。それで居ても立っても居られなくなって、家に帰ってすぐに紙とペンを持ったよ」


 「よく逃げられましたね」


 「追っかけて来なかったからね。こいつ、優しい奴なんだよ」


 「そんな風には見えませんけど‥‥」


 サラマンダーと目を合わせて、リオネ達はまた首を傾げた。


 「まあ、どう見えるかは人それぞれだからね」


 そう言ってブルートは笑うと、「それよりもほら、こっちの絵も見てよ」とまた別の絵を指さした。リオネ達もそれに従う。


 楽しそうでいる三人(二人)に反して、雨は止む気配もなくその勢いを増していた。

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