画家のパトロン(2)
「それじゃあ、屋敷を案内するよ」
「ちょっと待ってもらってもいいですか」
アインフェルナが退室してすぐ、ブルートがソファから立ち上がったのに対し、リオネ達はどっと全身の力が抜け落ちたように、ソファへともたれかかった。
それを見てブルートは「たくさん歩いて疲れたもんなあ」と呟いた。
「まあ、それもそうですけど‥‥」
「なんだい? ほかに何か——」と、ブルートが首を傾げると、リオネ達の口から大きなため息が漏れた。そのまま二人(一人)は豪奢な照明ぶら下がる天井を仰ぎ見た。
「ブルートさんて、すごい画家だったんですね」
「どうしたんだい? 急に」
「心の準備が欲しかったって話ですよ」
「心の準備?」
「そうです」とリオネ達は勢いをつけて反った体を戻した。
「まさか、ブルートさんの雇い主が、かの“テンプエスタ家”だったとは、驚きですよ」
その言葉に、ブルートはどこか不思議そうな表情を浮かべた。
「そんなすごい家なのかい?」
「知らないんですか?」
「まあ、一応貴族とは聞いていたけど‥‥。でも、アインフェルナ様は“今じゃただの没落しきったド底辺の一般市民”って言ってたよ」
それを聞いてリオネ達はブルートを見上げ含みある笑みを浮かべた。
「とても謙遜される方なんですね」
「いやあ、そんなことないと思うけどなあ」
雨粒が伝う大窓の向こう、薄暗く灰色の世界には、所狭しと石造りの建物が建ち並ぶ。
——まさに都市。
広大な土地。隅々まで張り巡らされた通り。雨水に洗われる石畳の上は出店巡る多くの人で栄えている。時折大きくそびえるのは図書館や商会館などの建造物。
そして、その町並みの一辺に、一本の連絡橋が川を渡り、反対岸は国境となっている。
リオネ達は、偶々通りすがったブルートのパトロンの馬車に乗せられリブラまでたどり着いていた。
「——さてと。ブルートさん、屋敷の案内をお願いします」
「おっ。準備はいいかい?」
リオネ達はこくりと頷いてから立ち上がると、側に置いてあったカバンを肩にかけた。
「それじゃあ、着いてきて」
そうしてブルートとリオネ達が出た廊下は長く、赤の絨毯が端から端まで敷かれていた。
「それなりに広いから迷子にならないようにしてね」
「‥‥ブルートさんに言われたくはないです」
「それじゃあ、まずは今日君が泊まる部屋から案内しようか」
「お願いします」
リオネ達は、ブルートに従って一つ階を上り、その一室にカバンを置くとそのまま広い屋敷の中を見て回った。




