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バイソウルの一人  作者: わたしだ


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あめあめぬるぬる(2)

 暫くの間リオネ達は呆気に取られていたが、「ヒヒィーン」という馬の嘶きにはっと我に返った。


 その嘶きは、今横たわっている馬のものではなく、別のもの——、

 跳ね上がった前足を収めパタパタと地を踏んで、リオネ達の傍らに停まった馬。その背中にはキャビンが繋がり、落ち着いた茶色に金の装飾が施された箱を雨粒が流れゆく。


 そして、車輪の回転が落ち着いてすぐドアが開くと、すうっと陰から真紅が覗いた。


 「あなたのお転婆も、こういう時には役立つわね」


 真っ赤のドレスに身を包み、肩から垂れる長髪は金色にその毛先が緩く巻かれて——、

 馬車から降り立ったのは、これもまた一人の少女だった。


 雨に打たれることも、ドレスの裾が泥に汚れることも気に留めず、彼女は僅かに顎を上ずらせてリオネ達の前に歩み寄った。


 その姿は、灰色の世界にただ一つ映えて存在感を放っている。


 「お嬢様、傘くらい——」


 「リュー、治してあげて」


 追って出て来たメイド服姿の女に、赤いドレスの少女は芯ある声で言った。その青い瞳に映るのは、苦しそうに横たわる馬の姿だった。


 「はい」


 短く返して、メイドのリューは開いた傘を少女に渡すと、呻き声を上げる馬の前に膝を折りたたんだ。そして、両手を前に出すと微かに息を吐きだした。


 伴って、柔らかな光が彼女の手から馬へと渡りその体を包み込む‥‥。


 未だ止まぬ雨は木々の葉に突き刺さるように降り注いでいた。


 「これで大丈夫です」


 ゆっくりと立ち上がってそう言うと、リューは濡れたメイド服の泥を払った。


 確かに、震えていた馬の脚には力が戻っており、馬はその場で思い切り踏ん張るとグッとひとりでに立ち上がった。


 それを見て優しく微笑むと、赤いドレスの少女は「さてと」とブルートの方を見て続けた。


 「久しぶりね。ブルート」


 「はい。アインフェルナ様」


 ブルートは笑顔で返すと、手に持った絵をばっと前に出した。


 「お嬢様、絵が描けたんだあ」


 「ようやくね」


 「うん。だから早く見て欲しいんだ」


 「‥‥そう」とアインフェルナは辺りの惨状を腰に手を当て見渡してから、「でも」と続けた。


 「まずはこれをどうにかしないと」


 「そうかあ」


 ブルートもまた、辺りを見渡して頷いた。


 「ねえヴァンダ、その蛙の処理をお願い。それと、それが終わったらあそこに転がっている荷台をこの子に繋いで」


 「はい」と元気に応えて二つ縛りの少女——ヴァンダは道に転がる自身より二回りも大きい蛙の死骸を安々と持ち上げた。垂れる血と粘液を浴びながら、彼女は「そーっれっ」と思い切り死骸を森の方へと投げやった。


 一匹飛んで行ってすぐ、二匹、そして半身ずつとなった三匹目と続いて蛙は放物線を描いて木々の狭間に落ちていった。


 「‥‥斬新」


 リオネ達は苦笑を浮かべてそれを見ていた。


 そして、蛙が飛んでいっている間にもヴァンダは倒れた馬車の荷台を起こし、馬の前へと引っ張ってきていた。最後、伸びきった金具をぐっと押し戻して、彼女は荷台を馬へと繋いだ。


 「できましたっ」


 空を覆いつくす暗い雨雲に反して、はつらつとした声でヴァンダは言った。


 それに対し「上出来よ」とアインフェルナは頷いた。


 「リューは、この馬車をお願い。後の人はこっちに乗ってちょうだい」


 アインフェルナはそう言うと、「ほら」と屈んだままでいたリオネ達に手を差し伸べた。


 「ありがとうございます」


 その手を取り立ち上がると、リオネ達は綺麗な馬車へと乗り込んだ。続いてブルート、そして気を失った男をリューが乗せると、最後にアインフェルナが座席に腰を下ろしてドアが閉められた。


 「出して」


 その言葉に合わせて、パチンと鞭が打たれた。伴って、二台の馬車が走り出す。そしてその前を、大斧を傘代わりにして、ヴァンダが泥を跳ね飛ばしながら走っていった。

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