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バイソウルの一人  作者: わたしだ


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52/62

ライラの日常

 ピクピクと尖った鼻が動く。

 店のカウンターに両肘をつき手の甲に顎を乗せて、その赤く細長い瞳孔は店先を眺めていた。


 薄暗い中、妙に鮮やかな色味でいる建物達。


 その間をビューと冷たい風が過ぎたかと思えば、重たくどんよりとした雲から一粒水滴が落ちて来た。それは、二粒、三粒と水玉模様を残してゆき——、


 「降って来たか‥‥」


 素材屋に響く雨音。

 赤いショート髪の女——ライラは指を「パチン」と鳴らした。すると、その指先に小さな蒼い火の玉が浮かんだ。


 暗くなった店内に、灯る一つの明かり。


 ライラが指を軽く振ると、その炎は六つに分かれ両壁に掛けられた燭台へと飛んだ。そして蝋燭の先に留まると、そこに朱色の炎が灯った。そうしてライラがもう一度指を鳴らすと、浮かんだ蒼の炎はぱっと消え、蝋燭の柔らかな明かりが店内を照らした。


 「あいつら今、どこだろうな」


 そう言うとライラは大きく伸びをした。その口からは自然と欠伸が漏れ、尖った八重歯が光る。

 その時、「カランカラン」と店の戸が開いた。



 「いらっしゃい‥‥ってお前か」


 「お前かとは何だ。客だぞ客」


 隆々とした筋肉を白の半袖から覗かせて——、入って生きたのは肉屋の男だった。


 「つまんなそうにしてたから、遊びに来てやったぞ」


 どかどかとカウンターの前まで歩いて、肉屋は笑顔にそう言った。


 「それは客とは言わねえよ」


 「まあ、そんなことはどうでもいい」


 「どうでもいいって——」


 「どうせあの子のこと考えてたんだろ?」


 肉屋の問いに、ライラは「ああ。まあな」と直ぐに答えた。


 「珍しく素直だな」


 「冷やかしなら帰れ」


 「届け物しに来たんだよ」


 「届け物‥‥?」


 首を傾げたライラの前、カウンターに「ほらよ」と肉屋は紙袋を置いた。


 「何だこれは」


 「肉だ」


 「頼んでないが」


 「まあ、これでも食って元気出せよ」


 「別に私は元気——」


 「じゃあな」


 自分勝手なままに、肉屋は店を後にした。


 「全くなんなんだあいつは」


 その整った眉をひそめてその背を見送ると、ライラは紙袋を漁った。そして中に入っていた生の骨付き肉にそのままかぶりついた。

 五回程咀嚼したのちに、喉が動く。


 「あいつら、ちゃんと飯食ってるかな‥‥」


 そう呟いて、ライラはただぼーっと何もない天井を見つめた‥‥。


 「カランカラン」


 また開いた扉。


 「いらっしゃ——」


 「そういや、さっきの代金貰うの忘れてたわ」


 「二度と来るなっ」


 ライラは残りの肉をからめとるようにかぶりつくと、残った骨を思い切り肉屋に投げつけた。


 彼の頭に骨が当たって、「コーン」と良い音が雨音の中に紛れていった。

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