ライラの日常
ピクピクと尖った鼻が動く。
店のカウンターに両肘をつき手の甲に顎を乗せて、その赤く細長い瞳孔は店先を眺めていた。
薄暗い中、妙に鮮やかな色味でいる建物達。
その間をビューと冷たい風が過ぎたかと思えば、重たくどんよりとした雲から一粒水滴が落ちて来た。それは、二粒、三粒と水玉模様を残してゆき——、
「降って来たか‥‥」
素材屋に響く雨音。
赤いショート髪の女——ライラは指を「パチン」と鳴らした。すると、その指先に小さな蒼い火の玉が浮かんだ。
暗くなった店内に、灯る一つの明かり。
ライラが指を軽く振ると、その炎は六つに分かれ両壁に掛けられた燭台へと飛んだ。そして蝋燭の先に留まると、そこに朱色の炎が灯った。そうしてライラがもう一度指を鳴らすと、浮かんだ蒼の炎はぱっと消え、蝋燭の柔らかな明かりが店内を照らした。
「あいつら今、どこだろうな」
そう言うとライラは大きく伸びをした。その口からは自然と欠伸が漏れ、尖った八重歯が光る。
その時、「カランカラン」と店の戸が開いた。
「いらっしゃい‥‥ってお前か」
「お前かとは何だ。客だぞ客」
隆々とした筋肉を白の半袖から覗かせて——、入って生きたのは肉屋の男だった。
「つまんなそうにしてたから、遊びに来てやったぞ」
どかどかとカウンターの前まで歩いて、肉屋は笑顔にそう言った。
「それは客とは言わねえよ」
「まあ、そんなことはどうでもいい」
「どうでもいいって——」
「どうせあの子のこと考えてたんだろ?」
肉屋の問いに、ライラは「ああ。まあな」と直ぐに答えた。
「珍しく素直だな」
「冷やかしなら帰れ」
「届け物しに来たんだよ」
「届け物‥‥?」
首を傾げたライラの前、カウンターに「ほらよ」と肉屋は紙袋を置いた。
「何だこれは」
「肉だ」
「頼んでないが」
「まあ、これでも食って元気出せよ」
「別に私は元気——」
「じゃあな」
自分勝手なままに、肉屋は店を後にした。
「全くなんなんだあいつは」
その整った眉をひそめてその背を見送ると、ライラは紙袋を漁った。そして中に入っていた生の骨付き肉にそのままかぶりついた。
五回程咀嚼したのちに、喉が動く。
「あいつら、ちゃんと飯食ってるかな‥‥」
そう呟いて、ライラはただぼーっと何もない天井を見つめた‥‥。
「カランカラン」
また開いた扉。
「いらっしゃ——」
「そういや、さっきの代金貰うの忘れてたわ」
「二度と来るなっ」
ライラは残りの肉をからめとるようにかぶりつくと、残った骨を思い切り肉屋に投げつけた。
彼の頭に骨が当たって、「コーン」と良い音が雨音の中に紛れていった。




