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バイソウルの一人  作者: わたしだ


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51/62

『湖畔に座る女』

 「よし。これで‥‥」


 透明感孕む深い青が、キャンバスから離れた筆先に少し残っている。


 深緑に囲われ、大空の下に広がる大きな湖。そして、それを湖畔の岩に腰かけ眺める一人の女。こちらに背を向けた彼女の上空、白い鳥は便箋とばかりに羽を一枚落として、差す光に従い、その元に舞い降りようとしている。


 青を求める冒険の翌朝、ブルートの絵が完成した。


 「おはようございます」


 眠気眼に寝癖で跳ねた黒髪。リオネ達があくびを噛み締めながら起きて来た。


 「おはよう」


 「まだ描いてたんですね」


 「ああ。でも、今丁度完成したんだぁ」


 ブルートの言葉に、しょぼしょぼとしていたリオネ達の黒い瞳がぱっと開かれた。

 そして、パタパタと駆け寄ると、「ほら」と促すブルートの横に立ち、二人(一人)は絵と対峙した。


 雨音響く部屋の中、白の照明が照らす湖畔の風景——。


 リオネ達は絵を見つめたままに、ただ固まっていた。

 見開かれた目も、吸ったままの息もそのままに、その体はただの器の様で——、二人は眼前の絵に吸い込まれていた。


 しばらくして、風が窓を揺らしたところでようやく「綺麗だ」とその紅い口から言葉が漏れた。


 「ありがとう。そんな真剣に見てくれて僕もうれしいよ」


 「いえ。こちらこそありがとうございます。この絵を見たら、昨日の苦労なんてお釣りが返ってくるどころじゃないですよ」


 未だ、絵に目を奪われながらにリオネはそう言った。


 「そんなに褒めてもらえると嬉しいなあ」


 そう照れくさそうにブルートは笑った。


 「やっぱり、水蒼岩の色って凄いんですね」


 「そうだよお。他のものと調和が違うからね」


 描かれた湖は確かに絵の中で最も大きく描かれている。ただそれだけに目を向ければ、あたかも主役の様に引き込まれるのだが、一つ視点を引いてみると、一つのわき役に回り、女の背中という主役を引き立てている。


 「なるほど‥‥」とリオネ達が静かに頷いたのに対し、「ただ——」とブルートは腕を組むと首を傾げた。


 「ただ、なんか前に使った水蒼岩の欠片と色味が違う気がするんだよなあ」


 「そうなんですか?」


 「うん。どことなく雰囲気が違うんだ」


 そう言ってから、ブルートは「でも」と組んでいた腕をほどいて続けた。


 「今回のモノのほうがいい色だよ」


 ブルートは微笑むと、「本当に色々とお世話になったね。ありがとう」と感謝を添えた。

 それに対しリオネ達はようやく絵から目を離すと、ブルートの方を見て「どういたしまして」と笑みを浮かべた。


 そんな二人を労うように、森の木々の葉は打ちつけられる雨にパチパチと音を鳴らしていた。

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