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バイソウルの一人  作者: わたしだ


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蒼を採る戦い(3)

 眼下の光景に、ブルートの足は直ぐに動いた。背負っていたリュックを放り投げて、崖から湖へと飛び込もうと一歩踏み出したところで、その手が引かれ彼は尻もちをついた。


 「何してるの。危ないでしょ」


 「早く助けに行かないとっ」


 引き留めるケアルアに、ブルートは必死に訴えた。


 「まだ間に合うっ」


 「君が行ってもどうにもならないでしょ」


 「——それはっ」と言葉を詰まらせて、それでもブルートは語気を強く続けた。


 「なら、君が助けに行ってくれればっ」


 「僕はあくまで中立だよ」


 「どうして——」


 「まあ、君もいい大人でしょ? 少しは若者の頑張りを見守ってみようよ」


 そう言って笑みを浮かべると、ケアルアは叩き割られた岩場——今は水しかないそこを眺め見た。


 ごつごつとした岩場の間にゆらゆらと揺れる黒の長髪。血の気の引いた肌から溶け昇る赤い血。

 細い体躯が水中を沈んでいく。


 (…ジェル)


 (…うん)


 力の抜けた細い指が弱々しくも弾かれると、体全体が優しい光に包まれた…。


 海王龍の尾ヒレに叩き潰される寸前、リオネ達は力を振り絞ってどうにか後方の水中へと身を投げていた。それでも、体には十分の負傷を追い、現状二人は湖の底へと沈んでいる。


 (もう治癒は使えないかも)


 (私は…。あと少しなら…)


 二人の体がゆっくりと沈みゆく上を、海王龍は優雅に泳いでいた。


 (どうしよう。このままいってもまた——)


 (ジェル。あれ)


 もう水底まですぐのところで、僅かに開かれたリオネ達の瞳にとあるものが映った。


 岩場と岩場の先、洞窟の壁にぽっかりと空いた横穴——。


 綺麗なアーチを描いたそこを目指して、リオネ達は懸命に泳いでいった。口からぷかぷかと息を漏らしながらも、二人はそのアーチをくぐった。


 続く先は、暗くジェルソ達は光の玉を従えて進んだ。


 そこは、これまでの通路と変わらぬ広さで、なだらかな上りが少し続いたのちに、今度は九十度縦に穴が続いていた。その壁に付けられた梯子に沿って、二人は息苦しそうに口を膨らませながらも泳ぎ進んだ。そして——、


 「プハァー。危なかった」


 ようやく空気を吸えた二人が出た場所は、相も変わらず洞窟だった。


 壁に囲われた背の低いドーム状の空間。その三分の一は水が足首の丈まで浸かり、陸に上がった先には一本の道が繋がっていた。


 重たい足取りで、ビタビタに濡れたローブの裾を引きずって、二人は水辺から上がるとそのまま仰向けに倒れ込んだ。


 「もう無理。あんなのどうしようもない」


 「リオが弱音吐くなんて珍しいね」


 「だって、強すぎでしょあいつ」


 妙に反響する声。濡れたリオネ達の背中から地面に水がじわじわと広がりゆく。


 「じゃあ諦める?」


 ジェルソの問いに、「んー」と唸りながらリオネ達の顔が歪んだ。


 「それはそれで…、なんか…」


 「違うよね」


 「んー」としばらく考えるようにしてから、「あーもうっ」とリオネ達は上体を起こした。


 「こうなったら、本当にあの”ヘンタイ教師”の水色を使ってもらおっ」


 「ははっ。確かに。筆ですくってそのまま塗っちゃえば…」


 と笑ったジェルソ達は、そこで「あ」と声を漏らした。


 「そうか」


 真剣な表情に移り変わった二人の声がそろう。


 「ねえジェル。私達の今回の目的って」


 「水蒼岩を採ること」


 「なら」


 「うん」


 二人は頷いてから立ち上がると、ぱっぱと濡れた尻を払ってから、一本だけ続く通路へと駆けだしていった。

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