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バイソウルの一人  作者: わたしだ


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蒼を採る戦い(2)

 黒のローブを纏った女と白色に鱗を纏った巨体は、蒼の証明の下に踊る。

 互いに水の弾丸を打ち合って——、方や岩場でステップを踏み、方や水中から跳ね上がる。


 ただ、不平等にもそこに差は生まれる。


 「―っ」


 荒く呼吸をして、ジェルソ達は自身の右肩に左手を添えた。


 柔らかな光に包まれて二人の傷ついた体が治癒していく。ただそれでも、息は切れたままにリオネ達は苦しそうな表情を浮かべていた。


 「まだまだっ」


 それでも二人は力強く踏ん張って高く飛び上がると、天へ昇らせた手のひらを全身使って振り下ろした。


 その後を追うように、十数個の水の弾が一直線に飛ぶ。その標的は——海王龍。


 降り注いだ水の弾に対抗して、その大きく開けられた口内に小さな水の弾が形成された。それはどんどんと膨らみ口に収まりきらなくなると——、次には勢いよく発射された。


 唸りを上げながら尾を引いて、向かい来るものは飲み込み突撃する。


 迫りくる砲弾に、リオネ達は「んっ」と声を漏らしながら思い切り歯を食いしばると、砲弾の下部に手の平を向けて水を噴射した。


 ぶつかり合う水と水。


 それによって、砲弾の軌道は僅か上に逸れた。また、その反動で上手く下方へ体を滑らせリオネ達は攻撃を透かし、岩場へと着地した。


 涼しいままの海王龍に、険しい表情のリオネ達。その戦いの様相は変わらない。


 「苦しそうだなあ」


 ブルートは心配そうにリオネ達を見つめていた。


 「君は先生なんだろう? 助けてあげないのかい?」


 その問いにケアルアは「ああ。そうだね」と静かに答えた。


 「冷たいなあ、君は」


 「信用していると言ってほしいな」


 「このままで大丈夫なのかい?」


 「大丈夫だよ、きっと」


 ケアルアはそう言うと流し目に続けた。


 「まあ、目的を履き違えてなければ…だけど」


 二人が見守る中、リオネ達がとった行動は——、


 (ジェル、あれやろう)


 (うん)


 水に飛び込む、だった。


 リオネ達は自らの手から水を噴射させ、その水圧で海王龍の周りを自在に泳ぎ回り始めた。海王龍はそれをどうにか尾ヒレで捉えようとするが、際のところでリオネ達は体を翻しそれをかわす。

 バシンバシンと水中を叩きつける巨大な鞭。そんなすぐ隣に迫る死をリオネ達は掻い潜る。


 そして、煮えを切らしたのか海王龍は思い切り尾ヒレを振り上げた。


 重心を崩したその体を覆うほどの水のカーテン——。挟んで向こう側を一つの影が昇っていく。そしてその影は、のけぞる海王龍の顔面の前で大きく左手を振りかぶった。

 訪れた好機——に思えたが。


 「ガチィン」


 細かく生えそった鋭い歯。体勢を崩しながらも、海王龍は無理やり頭を伸ばして水のカーテンごとその影を噛み砕いた…。


 「それをまってたんだよぉぉぉおおっ!!」


 光る刃渡り六十センチの刀身——。


 水中から虚像に噛み付いた海王龍の喉元目掛け、指二本の先に伸びる水の刃が突き刺さ———。


 「えっ」

 

 へし折れた刃——、渾身の一撃は無惨にも乳白色の肌の前に敗れた。

 そして、開かれた黒い瞳の隅に映ったのは、弾かれた弦のように溜まった力で解き放たれた尾ヒレだった。


 一瞬にして風を裂いて飛び、水面へと強烈に打ち付けられたリオネ達。

 上がった水飛沫は海王龍の目元にまで届いた。


 ただ水の流れ落ちる音のみが洞窟を埋める…。


 「ポチャン」


 水面から顔を出した白く細い左腕は、震えながらに岩場を掴んだ。

 肌に濡れ髪と服が吸い付き、浮かぶなだらかなシルエット。その小さくボロボロな体を精一杯に持ち上げて、リオネ達は岩場へと這いあがった。


 ズリズリとローブは岩に擦り付き、顎から雫が垂れ落ちる。


 伏すままに、リオネ達が力なく見上げると、そこには人間が蟻を踏み潰すように、蒼を透過した尾ヒレが用意されていた。


 「危な——」


 「バシィィィンッッ!!」


 ブルートの叫びを掻き消して砕け散る岩。上がった尾ひれの先はリオネ達諸共、跡形もなくなっていた。


 海王龍は崖上を一睨みした後、頭を出したままに、何事もなかったが如くその周囲を平然と泳ぎ始めた…。

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