蒼を採る戦い(1)
水蒼岩——それは海を写す青。
ケアルア洞窟と名の付く前、最奥に眠るその宝を求めて命を落とした者は少なくない。海の青を求めて今日も、無謀か否か一人の女がゆく。
そして、その前に立ちはだかるは・・・。
青黒く輝く鱗。それに覆われた背中を透明なヒレがうっすらと曲線をなぞる。乳白色の蛇腹を上まで辿れば——深層まで続く海をそのままはめ込んだ様な、蒼い瞳が世界を飲み込む。
うねりながら水上に持ち上げられた巨躯はそれでも半身。ゆらゆらと細いひげ二本を揺らして睥睨するその姿は、畏怖と絶望に値する。
「あれが?」
「そうだよ」
隣に立つブルートの問いに、ケアルアは眼下を眺めながら続けた。
「あれが、ここの主——海王龍さ」
壁沿い、規則的に背の高い石柱が並び、そこへ天井から水が流れ落ちる。また、天井や壁の一部は蒼く光を放ち、巨大な空間と湖を神秘的に照らし出していた。
その中で、海王龍の目は、一つの影を捉えていた。水上に頭を出す点々とした岩場を飛び渡るその影——。
ひらめく黒髪。そこから追って、流れる細い指先に従えた水の弾。
「先攻はもらうね—っと」
開かれた片目の先、放たれた弾は一文字に宙を割く。
「グヲァァァァァアアアアッッ!!」
轟く咆哮に降り注ぐ水滴——もとい、雨の矢。伴って、壁や天井の蒼はさらに広がり、その明るさを増す。外の雨もまた、一段と強くなった。
「相変わらず元気だなー」
水色の傘で自らとブルートを水の矢から防ぎながら、呑気にもケアルアは呟いた。
乳白色の腹部にできたかすり傷。それによって、リオネとジェルソ対海王龍の戦いの火蓋が切って落とされた。
降り注いだ水の矢を、リオネ達は水中へと飛び込んでやり過ごした。が、すぐに次弾—尾ヒレが二人を襲った。「バシャンッ!」と大きく上がった水飛沫と共にリオネ達も宙を舞う。険しく腹を抑えながらも、二人は直ぐに指を鳴らした。
「パチン」と高く響いた音は、同時に洞窟内を閃光で埋め尽くす。瞬きの激しい眩さに硬直した海王龍。反してリオネ達は、思い切り左手を振り払った。
白光に紛れ飛ぶ水の斬撃——。
「バシィンッッ」
蒼色を取り戻した世界。岩場に着地したリオネ達の視線の先には、無傷の海王龍の姿があった。その硬い尾ヒレを使い、海王龍は斬撃を振り払っていた。
「な、何があったんだ?」
一連の攻防を、通路から続く崖の上で見下ろしていたブルートは、ただ目を丸くしていた。
「今、真っ白に光って—。あれも魔法なのかい?」
「いや、魔道具なんじゃないかなー」
ケアルアの方は、暇つぶしに来た劇の客のようにぼうっとそれを眺めていた。
そしてまた、僅かな睨み合いの後始まった戦い。水飛沫が上がり、咆哮が轟き、閃光が瞬く。
「こんなに大変なんだなあ。水蒼岩の欠片を採るのは」
戦いに見入るブルートの口からそんな言葉が漏れた。ケアルアは、それに「そうなんだよ」と頷くと、水色に形だけついた目を細めて続けた。
「君には見ておいて欲しくてね」
ただ静かに頷いたブルートの瞳は、眼下の戦いに釘付けだった。




