青を探しに(11)
「あいつって、主ですか?」
「そう。今、雨降ってるから」
「来たときは晴れてましたけど」
「さっき降り始めた」
ケアルアの言う通り、リオネ達が洞窟に入って少ししてから、周辺の山には雨が降り始めていた。
「でも、ただの雨ならそこまで警戒する必要はないんじゃ」
「太陽が隠れちゃったんだよね」
「そんなの雨なら当たり前じゃないですか」
「そういうことではないんだよなー」
「なぞなぞでもしてます?」
「してないよ」
「じゃあ—」とリオネが話そうとしたところで、それをケアルアが手で止めた。
「とにかく、今のあいつは雨期のあいつと同等だよ。だから、彼を連れて行くのは危ないんじゃないかな」
ケアルアとリオネ達はブルートの方に視線を向けた。夢中に絵を描き続ける彼を見て、リオネ達は「ああ、なるほど」と得心するように頷いた。
「では、今日のところは諦めて帰ります」
「どうして?」
「どうしてって。ケアルア様が危ないっていうから」
「何言ってるんだ。それじゃ水蒼岩を採って帰れないじゃないか。欲しいんでしょ? 彼」
「そうですけど…。あ、もしかして手伝ってくれるんですか?」
「いや、そんなことしないよ」
輝いたリオネ達の瞳は一瞬でそのハイライトを失った。
「ねえジェル、この人は何が言いたいの?」
「多分僕らだけで水蒼岩を採って来いってことなんじゃない?」
「そんなわけ—」
「その通り! さすがだよジェルソ」
突然の大声にリオネ達の黒髪が微かに跳ねた。伴って、地面に置かれたランプの炎はひゅるひゅると小さくなった。
「その通りって。通常時ならまだしも、雨期の主とはさすがに—」
「ライラがいないと?」
ケアルアの挑発的な笑みに、バツ悪そうにリオネ達は頷いた。
「いつまでも親に甘えているようじゃ、君もまだ子供だねえ」
「全く」と左右に首を振りながらケアルアは続ける。
「かわいそうだなー、ブルート。せっかく頼りにしていたのに、それが全然怖気づいちゃってるもんなー」
黙って俯くリオネ達にケアルアはさらに畳みかける。
「僕の弟子でありながら。凶暴化したあいつを倒せない、ですか。これは師匠としては悲しいなあー」
煽るような語調にリオネ達の紅い唇が震えた。
「さあ、帰るなら—」
「…ます」
小さく漏れた声に、ケアルアは「ん?」と耳を立てた。
「やります」
真っすぐな言葉と目。リオネ達が向けたそれに、ケアルアは微笑んだ。それはさっきまでの悪気垣間見えるものではなかった。
「それじゃあ、卒業試験と行こうか」




