青を探しに(7)
「よし、着いた」
ロッキータが動き回る広間を抜け、三つの内一つの通路へと入ったところで、リオネ達は体を翻してブルートへと笑顔を向けた。
「ブルートさんのお陰でどうにか抜けられました」
そんなリオネ達の二歩後ろでブルートは微笑み返した。
「無事に出られて良かったよ」
「無事…。まあ、そうですね…」
リオネ達は苦笑いしながらも、また真面目な瞳に戻して続けた。
「一段落とはいえまだ先も続くので、これからも気を引き締めていきましょう」
「そうだね」
リオネ達とブルートは互いに頷き合うと、続く通路を進んで行った。
奥へと向かうリオネ達の額には汗がにじみ始め、ランプに灯る火は先刻までよりもどこか細々と燃えていた。
それに伴って、広く騒がしかった場からすれば、狭く静かな通路が余計に圧迫感を孕んでいる様で―—、それでもリオネ達の瞳はぱっちりと開かれ、その黒と青のグラデーションには洞窟の輪郭が柔らかな朱色と共に投影されている。
「やっぱり、まだ先は長いのかい?」
ブルートが尋ねると、リオネ達は半身に振り返って頷いた。
「そうですね。まだもう少しあります」
「そうかぁ」
どこか煮え切らない反応のブルートに、リオネ達は首を傾げた。
「あの…。どうかしましたか?」
「いやあ、その…」
ブルートの額にも汗が滲んでおり、加えて足をもぞもぞとし始めた。そんな様子の彼にリオネ達は眉をひそめる。
「どこか、体調でも悪いんですか?」
「体調が悪いというか…」
「いうか?」
リオネ達にじっと見られながら、挙動不審なブルートだったが、彼は一度二人(一人)から俯きながら視線を外すと、クセ毛から上目に頬を赤らめながら口を開いた。
「あの…。催しちゃって…」
「あー。なるほど」
相槌と同時に、リオネ達はランプを差し出すと、逆の手で通路少し後方の隅を指さした。
ブルートはランプを受け取ってから、「その、見ないでね」と一言残して、隅の方へ内股に駆けて行った。そして、ズボンを下ろしてから、リオネ達に向けて「耳も塞いでてっ」と声を響かせた。
「はーい」
リオネ達は下から飛び出た突起に腰かけて、頬杖を突きながら片手をひらひらと振った。
「あの人に恥じらいとかあったんだ」
両耳を手で覆ったリオネ達の口から小さくそんな言葉が漏れた。
静かでいた洞窟に、雫どころか、流れ落ちる滝が岩打つような“快音”が弾けていく。
「意外とデリカシーあるんだね」
「なんかもっと別の部分で気を遣ってほしさはあるけど…」
「確かに」
ランプの灯りによって壁に放物線の影が浮かび上がる。
ジェルソとリオネは初め塞いでいた手を少ししてから外すと、流れる“快音”を背景に耳から手を外して囁き声で話し始めた。
「結構長いね」
「確かに。来る前から我慢してたのかも」
「勢いで出発しちゃったもんね」
「あー。そっか。行く暇なかったのか」
リオネ達の後ろの“快音”に波の様な強弱が付き始めた。
「にしてもさっきの。僕笑いそうになったよ」
「私も。あんなに恥ずかしがるなんてね」
「あの…。催しちゃって…。って——」
ジェルの声真似と共に、二人(一人)の手が股に持っていかれて、体は悶える振りをする。
僅か周囲に反射した明かりで照らされたその顔—紅潮した頬、ハの字の眉に上目遣いで、瞳は潤む…。
「ブハッ」とリオネ達の口から我慢しきれなかったものが吹き出された。
「ちょっ。ちょっとジェル。笑わせないでよ」
「似てなかった?」
「大げさにしすぎっ」
息切らすように涙目になりながら、それでも声を荒げないように二人は陰で笑っていた。
その間も“快音”は途切れることなく流れ続けるどころか音量が増している。
「ねえジェル。にしても長いと思わない?」
「そうだね。さすがに溜まりすぎだと思う」
「うん」
「というか、なんか音凄くなってない?」
「それは…。確かにそうかも」
その違和感をもって、リオネ達は恐る恐る後ろを振り返った。
そこにいたのは——。
「ジェル」
「うん」
振り向いてすぐ、その姿を認めてリオネ達の下唇が噛まれた。
「一番面倒な奴のお出ましだ」
しかめた顔の先、二人の目に映っていたのは、煌々と照るランプの横—粘性を持った薄水色の液体がアーチ状になって、永久機関のようにぐるぐると、その身を地面に打ちつけているところだった。




