青を探しに(6)
リオネ達はガリガリと道路整備をするロッキータいる広間へと一歩踏み出した。
ブルートはその背中にピッタリついて歩く。
一歩間違えれば食われる緊張感の中、落ち着いた呼吸で着実に二人(三人)は進む。
「ガツンッ」
二人(三人)入ってすぐ、右の壁伝いを進んでいたところで、その前方十メートル程のところで、ロッキータが壁面に衝突した。
岩と下顎から頭の激突——そこで微かに火花が散る。
それでもリオネ達もブルートも冷静に臆することなく前に進んだ。
地道に歩を進めるリオネ達。そして——、
(リオ)
(うん。そろそろだね)
リオネ達が、ロッキータの動きを確認すると、それは丁度反対側の壁にぶつかって折り返してくる頃だった。そしてその先は両者がばったりかち合う交差点。
リオネ達は一度やり過ごそうと、その場で足を止めた。
「あ」
ただし一つ、二人には失念していたことがあった。
ロッキータに気を取られてだろう——背後から迫りくる一つの影に…。
「危なぃ!——」
「ガァアツンッッ」
ブルートの叫びをかき消す轟音。
宙に舞うのは火花とランプと——、黒く細い毛先。それは煌びやかにパラパラと空中で踊って、重力を思い出したように収まりにゆく。
「ザザーッ」
何かが地を滑る音がした後、その広間の中で動く影は一つだけとなった。
その影——気配は相も変わらず動き回って、騒音をまき散らしながら岩を飲み込み壁に衝突している。
ただ暗闇の中で。
「リオネさ——」
「動かないでっ」
上ずりかけの男の声に被せて、女性の澄んだ静かな叫びがまた一つ動き出そうとした影を止める。
「大丈夫ですから」
「本当かい?」
「はい。どうにか避けました。それより、危ないので明かりをつけるまでその場にいてください」
そんなやり取りをする二人—その耳には、「ガツンッ」「ガツンッ」と破壊の音が近く遠くを行ったり来たり。
「よし、点いた」
柔らかな朱色の灯火。暗い洞窟にまた、明かりが取り戻された。
立ち上がり、ロングスカートの埃をぱっぱと払ってから、片ひものカバンをかけ直す黒髪の女—リオネ達。優しく照らし出されたその姿を、くせ毛の間から覗かせた瞳で認めた男—ブルートはほっと溜息をついた。
「よかったあ。僕、人殺しになっちゃったかと思ったあ」
胸でせき止められていた息が、決壊に乗じて流れ出てくるように安堵の言葉がブルートの口から漏れた。
「私もお星さまになるかと思いましたよ」
リオネ達はすっきりした笑顔でいた。が、「ただ」と声色を冷たく変えて続けた。
「背中について来いっていうのは、私の背中に張り付く位近くで着いて来いって意味ではありませんからね」
二人(三人)の近くでまた火花が散った。
「はい。ごめんなさい」
ブルートは俯きながら、その瞳をクセ毛の中に隠して頷いた。
「わかったなら、行きましょう。いいですか? 私の少し後ろを歩いてついてきてくださいね」
そう言ってリオネ達は歩き始めた。
ブルートは、言われた通り、一歩分か二歩分ほど離れてリオネ達の後ろをついて歩いた。そしてその幅は、三歩、四歩と離れていき、最終的には十歩ほど離れた位置でブルートはリオネ達の背中に従っていた。
時折、ロッキータをやり過ごしながらリオネ達は進む。そして——。
「ふー。ゴールですよブルートさん」
「そうかあ。よかった」
いつの間にかブルートの二歩前には額を拭いな振り返るリオネ達の姿。加えてリオネ達の背中には広間から通じる三つの内の一つの通路があった。
ブルートは何度かロッキータに視線を持っていかれながらも、しっかりとリオネ達についていけていたようだった。
「さて、もうひと踏ん張り頑張りましょう」
「うん。そうだね」
リオネ達の胸に掲げられた握りこぶしに呼応するように、ブルートは凛々しく頷いた。
リオネ達とブルートは、広間からすれば狭くなった凸凹の通路を歩き始めた。
そうして少しして、二人(三人)の目の前にはまた、例の蜘蛛が三匹幅を利かせていた。対してリオネ達はまた例の如く静かにその頭を打ち抜く。
残るのは僅かに痙攣する蜘蛛たち。
「さて、進みましょうか」
そう言ってリオネ達は、その蜘蛛の屍を跨いだ。
「君は一体誰だい?」
突然ブルートが眉間にしわを寄せて、リオネ達に投げかけた。
「どうしたんですか急に」
リオネ達は苦笑いに応える。
「君は、リオネさんなのかい?」
「そうですけど」
「本当に?」
「…はい」
リオネ達は怪訝そうに頷く。
「あの…」
「じゃあどうして、蜘蛛の死体を跨いだんだい? これまではそんなことしていなかったのに」
「それは——」
「それにさっきと、歩き方がちょっと違う気がする」
「さっき転んじゃったので…」
「んー。だとしても変な気がするなあ」
「何言ってるんですか。気のせいですよ」
笑うリオネ達。
「いや、なんていうか違う気がする」
「違う?」
「今の君には、二面性…。というかどこかちぐはぐさが全く無いように見えるよ」
ブルートのその言葉に、リオネ達の笑顔が強張った。
「ねえ。君は本当にリオネさんなのかい?」
「ポチャ…ポ…ポチャン」とおどけた笑い声のように、雫が天井から不規則に少しの沈黙の間に落ちていく。
そして、それと重なるように、強張っていたリオネ達の口角がぐっと目尻に近づき、気味の悪い笑顔を作り出した。
「そうですね。私は——」




