青を探しに(5)
言われた通り、ブルートはぴったりとリオネ達の後ろについて歩き始めた。今度はキョロキョロとあちこち見ることなく、リオネ達の真後ろを歩幅まで合わせて、足音を重ねて、同じ腕の振りで—リオネ達の髪に触れそうなほどにぴったりと、彼は歩いている。
「あの、ブルートさん…」
リオネ達は直ぐ後ろにある気配に苦笑いしながら振り向こうとした。が、突然足を止めると進行方向を睨みつけた。
不意にリオネ達が止まったため、再びブルートはぶつかり「いたた」と声を上げた。
「急に止まると危ないよ。…また蜘蛛?」
そう言いながらブルートは前方に目をやった。
洞窟の中——これまでは通路であったようなそれが、その先は一つの広間のようになっていてランプがうっすらとそこを映し出し、さらにその奥—三つの通路がぼんやりと続いていた。
「今度はこいつか」
小さく呟いたリオネ。
二人(三人の)視線の先にはリオネ達とブルートともう一つ、水滴以外に動いているものがいた。
「ガリガリガリガリガリッ」
突然そのものは地面のごつごつとした岩を砕きながら、二十平方メートル程の広間を風切る勢いで縦横無尽に駆け巡り始めた。
砕く——と言っても、その粉々となった岩々はどこかへ飛んでいくでも後に残るでもなく、消え去っている。否、そのものの体内へと運ばれている。
「あれは?」
そう尋ねたブルートに、リオネは答える。
「ロッキータ。ダンゴムシです」
二人が瞳を動かしながら捉えるそのものは、無数の足に、種子のような曲線的背を持つ、体長一メートル程の、一見すればただのダンゴムシ。だが——。
「ただし、このダンゴムシは岩を食べます」
金属ヘラのように平たくなった下顎。それは勢いよく直進する最中、岩盤を削り取ってロッキータが過ぎ去って後方は凹凸がなだらかになっていた。
「岩を食べる…。おいしいのかな?」
「どうなんでしょうね」
「食べてみようかなあ」
そう言ってブルートは足元に落ちていた小指の爪程の小石を拾い上げると、口の中へ放り込んだ。
ガリッと小気味良い音がしてすぐ、「ぺっ」と湿った小石が彼の口から吐き出された。未だ「ガリガリガリガリガリッ」と岩の削れる音が響く中に、こつんと軽い音が混じる。
「美味しかったですか?」
「全然。君は食べないほうがいいよ」
「安心してください。食べませんから」
正に苦虫を噛み潰した様な表情で「ぺっぺっ」と唾を吐きだすブルートに、リオネ達はロッキータを眺めるだけでいた。
そんな二人のやり取りの間でも、ロッキータは広間を駆け巡り、壁に体をぶつけ、上手く転がって反転するとまた駆けはじめ、岩を削っては口に運んでいた。
「あいつ、よく岩食べられるなあ」
そんなロッキータを見て、ブルートは感心しながら頷いていた。
何度転んでも立ち上がり、また前進する。そして体に刻まれるすり傷。
「ところであいつは倒さないの?」
「そうですね。あの様子だとまだ小さいですし、倒さない方がいいかもしれませんね」
「あれで小さいのかい?」
「はい。あいつ、大きくなるともっと体が岩みたいにごつごつとして固くなっていますから。そうなると丸まったまま転がって無差別に突っ込んできます」
「それは怖いなあ」
「まあ、それと。あいつのお陰で洞窟の足元が平らになって歩きやすくなったりもしますから」
「そっかぁ。じゃあ良い奴でもあるのか」
そう腕を組んでもう一度感心した様に頷いたブルートは、その広間へと一歩踏み出そうとしたところで留まった。
「おっと。君の後ろをついていかなきゃだった」
「覚えていただいていて何よりですが…」
リオネ達は顎に手を当てて俯いた。
「さて、この中をどう通っていきましょうか」
考えるリオネ達を見て、ブルートは首を傾げた。
「そんなに難しいことかな?」
「何か良い案でもあるんですか?」
「このまま先の通路まで突っ切ればいいよ。さすがに向こうも僕たちが通れば気を遣ってくれんじゃないかな」
「そうしてくれると簡単ですが…」
そう言うとリオネ達ロッキータに目で追った。そして突起した岩を砕き食べるロッキータに二人(一人)は苦笑を浮かべる。
「…そうすると多分、餌になりますね」
「そっかー」
そう言うと傾げていた首をまた反対方向に傾けて、ブルートはロッキータを目で追い始めた。
(僕の光—は使えない。というか意味ないし)
(そうだよね。)
(まあ、僕たちだけならどうにでもなるけど…)
ジェルソ達はブルートの方をじっと見た。
(僕、この人連れて水蒼岩の欠片を採って帰れる気がしないよ)
(私もそう思うけど。どうにかするしかないでしょ)
(ブルートさん置いて僕たちだけで来ればよかったね)
(そんなことできたと思う?)
リオネ達は今にも天地がひっくり返りそうなほどに、腕を組んだまま体ごと首を傾げて唸っているブルートの姿を見ると、目を閉じ微笑んだ。
(無理だね)
「そうかっ」
突然にそう声を響かせたのはブルートだった。
同時にランプの炎は大きく乱れる——。
「どうしたんですか?」
「そうだよそうだよ。うんうん」
ブルートはいつの間にか体勢を戻しており、ただ自分で納得するように頷いていた。
「あの…」
「あいつ、さっきから同じところしか通っていないんだ」
「え?」
リオネ達はそれを確かめるようにじっくりと、動き回るロッキータを目で追ったが——。
「ほんとうですかそれ」
「本当だよ。んーとそうだなあ…。あっ、壁。あいつがぶつかっている壁に注目してみてよ」
リオネ達はまた確かめるようにロッキータを目で追った。
その二人(三人)の背後では、天井からゆっくりと雫が垂れ落ち、筋を作って彼らの足元へと流れゆく。
「…ほんとだ。同じ場所にぶつかってる」
「でしょ?」
「これなら、壁伝いに行ってタイミングを合わせれば抜けられます」
「よしきたっ」
リオネ達の大きく開かれた瞳には、純真無垢に手を叩く無精ひげの男が映っていた。
「よく気付きましたね」
その言葉に「へへっ」とブルートはハットの上から頭をかいて笑った。
それに微笑み返してからリオネ達は、緩んだ口に軽く力を入れて瞑ると、視線をロッキータのいる広間に戻した。そして一つ息を吐いて——、
「それでは、行きます。ついてきてください」
「おうっ」




