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バイソウルの一人  作者: わたしだ


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37/62

青を探しに(3)

 暗闇を、赤い炎がゆらゆらとわずかに浮き沈みして奥へと進んでゆく。


 洞窟の中は、人が二人歩いてもまだ余裕がある程の幅で、リオネ達の足音に重なってぽたりぽたりと雫が地を打つ音が鳴り、時折、天井にとまっていたコウモリ達だろうか、黒に紛れたものが羽音を立てて飛び回っていた。


 「ここは、なんていうか不気味だなぁ」


 「そうですね」


 ぼんやりと照らされた二人の顔は対照的。不思議そうに口をぽかりと開けて辺りを見回すブルートに対して、リオネ達はじっと目を見開いて、慎重に歩を進めていた。


 そして、その頭上を目のないコウモリは音波を操り相も変わらず飛び回る——。


 ランプに灯る火は、心なしか点けた時よりも一回り小さくなっているようだった。


 そんな中、二人(三人)が緩やかなカーブを曲がり、の背に入り口の明かりすら見えなくなったところで、すっとリオネ達は足を止めて、ブルートを制止するように手を出した。


 彼女達の纏うローブの袖先が僅かに跳ねて、朱色に染まる壁の影が揺れる。


 あちらこちらを見回したまま歩いていたブルートは、その手に気付くことなく、見事に腹部をぶつけて立ち止まった。


 「いたた…。どうしたんだい、止まったりなんかして…」


 そう言いながらブルートは自分より小さいリオネ達の背中に対して首を傾げた。


 (リオ)


 (うん)


 そんな一つの呼応の後、ブルートを止めた右手をすっと上らせてリオネ達は人差し指を銃のように前方へと向けた。それと同時に、ぼんやりと照らされた洞窟が、その指先にできた金貨一枚ほどの大きさをした複数の球にそれぞれ小さく収まる——。


 「パン」


 静かな破裂音が散ると、次には「ドサドサドサッ」と雪崩れるように何かが地に伏す——落ちる音。


 「ん? なんだい今の音は」


 ブルートの疑問に応えるように、リオネ達はランプを前に突き出して高い位置に持っていった。すると——、


 蜘蛛。蜘蛛。蜘蛛…。


 前方には、散らばって五匹、体長一メートル弱の蜘蛛が力なくその足を折りたたんでいた。


 「あれは?」


 「面倒くさい蜘蛛です。ばれないうちにやらないと直ぐに仲間を呼ばれて大変なことになります」


 リオネ達は静かに答えるとまた慎重に歩き始めた。


 「ほお」と感嘆の声を漏らすと、ブルートは数歩遅れて蜘蛛の屍の合間を縫うリオネ達の背を追った。


 「君、詳しいんだね」


 「まあさっき言ったように、素材屋のお手伝いしてたので」


 「ああ、そっか」


 ケアルア洞窟までの道中を回想したのか、ブルートは少しの間右上に視線を向けてから、正面に戻して頷いた。


 「さっきの蜘蛛以外にもヤバイやつっているの?」


 「はい。この先まだいますね。なんならさっきの蜘蛛もいるかもしれません」


 「そっかあ。それは大変だ」


 呑気そうに呟いて、ブルートはまた辺りをキョロキョロと見回し始めた。


 後ろを振り返ればばそんな様子でいるブルートに、リオネ達は小さくため息をついてから口を開いた。


 「あの、他人事みたいに言ってますけど、ブルートさん、ここに一人で来ようとしていたんですよ。それも何も準備なしに」


 「ああ、確かに」とうわの空でいるブルート。


 そんな彼にリオネ達の口からはまたため息が漏れた。


 「あの——」


 リオネ達は眉をひそめてまた口を開いたのだが、そこから先言葉は続かなかった。

 ブルートの無垢な瞳がリオネ達の瞳とぶつかっていた。


 「でも、君がいる」


 にこやかに言ったブルートの言葉と共に、ランプの炎が一つ大きく揺れた。


 「全く答えになってませんよ」


 リオネ達は片頬を軽く膨らませて、明かりに照らされてもなお、背景に溶けそうなほどに黒い長髪を小さく跳ねさせながら、正面へと向き直った。

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