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バイソウルの一人  作者: わたしだ


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35/62

青を探しに(1)

「んー、やっぱり違うなあ」


 山間部にある小さな部屋の中、ブルートはキャンバスを前に腕を組んでいた。目元まで伸びたクセ毛の割れ目から覗かせる目の下には微かにクマがある。そんな瞳が映し出していたのは、他色ある中で、ぱっくりと切り取られたように白いままでいる湖だった。


 ただ、湖の奥側の隅は、十近い種類の青色がに比較できるよう段々となって僅かに塗られていた。


 ブルートはそこにもう一つ筆を乗せる——。

 それでも、彼はどうも納得のいかないのか唇を尖らせた。


 「これも違うか」


 ブルートが唸りながら悩むように俯いたところで、梯子がギシギシと音を立てた。


 「おはようございます」


 乱れた黒の長髪。それでも、はっきりとした声。


 リオネ達が慎重に梯子を下って起きて来た。


 「ああ、おはよう」


 ブルートは挨拶を返すと、窓辺を眺め見た。


 舞い込む鳥の羽音と柔らかい朝日。点いたままの照明も相まって部屋は一段と明るい。


 「もう朝か…」


 ブルートはそう静かに呟いた。


 「本当に朝まで描いてたんですね」


 リオネ達は髪を手でとかしながら「どんな感じですか?」とブルートの背中から絵を覗き込んだ。


 「おお。あと湖だけですね」


 「そうなんだ」


 「じゃあもうすぐ完成だ」


 「うん。そうしたいんだけど…」


 ブルートはそこで言い淀む。


 「どうかしたんですか?」


 「いや、まあ。なかなかいい青色が見つからなくてね」


 「いい青。ですか?」


 「そう。いい青」


 リオネ達はまじまじと絵を見つめた。それから彼の手元にあるパレットへと目を移して、また絵の湖を眺めて一言。


 「難しいんですね。絵って」


 「ああ。そうかもしれないなあ」


 そう答えながらブルートはため息を一つ吐くと、のけぞるように天を仰ぎ見た。


 澄んだ朝の空気の中、彼の溜め息はその周辺に地を這い漂う…。


 「あの、ところで——」


 じっと絵を見つめながらリオネが口を開いた。


 「ここでいういい青って、どんな青なんですか?」


 その問いに、ブルートは体をのけぞらせたまま、上目にして考え始めた。


 そして、「んー」と二回ほど唸ったところで、「あっ」と声を漏らすと反った体を勢いよく起こした。その表情は明らか何か思いついたように目を見開いていた。


 「あれならいける」


 「何か思いついたんですか?」


 訊かれたブルートは、コクリと頷いた。


 「水蒼岩の欠片」


 ポンと置かれた単語に、リオネ達は初め「へー」と頷いた。が——。


 「それじゃあ。採りに行ってくるよ」


 そんな彼の言葉に、リオネ達は「へ!?」と小屋に響くような声を発して、驚いた表情で彼を見た。


 「あの、採りに行くって…」


 「なかなか出回っていないからなあ。だから自分で採りに行くんだよ」


 そのブルートの返答に、リオネ達は苦笑いを浮かべる。


 「あの、どうして出回っていないかは…」


 「確か、水蒼岩のある洞窟には凶暴な主がいるんだっけ?」


 「おっしゃる通りで」  


 リオネ達は頷きながら続けた。


 「それで、採りに行くとは?」


 「ん? どういうことだい?」


 「襲われたら——というか襲われると思うんですけど。どうするんですか…?」


 「ん? 大丈夫だよ。多分。逃げられる」


 その答えにリオネ達は額に手を当てた。


 「あの、絶対にやめた方がいいと思いますよ」


 その言葉はどうやら右から左へと抜けている様で、ブルートは問答の内に出かける準備が整っていた。


「あの、聞いていますか?」


「ああ。じゃあ、行ってくるね」


 そうして、ブルートが扉に手をかけたところで「ちょっと待ってください」とリオネが落ち着いた、それでも芯のある声で呼び止めた。


 「どうしたんだい?」


 そう振り返ったブルートの視線の先、リオネ達は細くした目と軽く瞑った口を綺麗に平行にして穏やかな面持ちで、静かに口を開いた。


 「私も行きます」


 それに対してブルートは不思議そうな表情を浮かべた。


 「そりゃあ、人出が多いほうがいいけど…」


 ブルートがそう言い切るか否かで、その目がぱっと開かれた。


 「君、魔法が使えるのか」


 そう驚いた様子の彼の視線の先では、リオネ達が指先に水の玉をぷかぷかと従えていた。


 「はい。なので、是非お手伝いさせてください」


 それはそれは満面の笑みを浮かべて、リオネ達は頷いた。


 「よし、じゃあ出発だ!」


 見た目に似つかわしくない無邪気さで、右腕を突き上げて、ブルートは元気に外へと飛び出した。


 「ねえリオ」


 「こうしないと、あの人一人で行って往生だよ」


 「うん。そうだね」


 リオネとジェルソは静かに言葉を交わした。


 「行かないのかい?」


 開いた扉の先でブルートが声をかける。


 「今行きます」


 それに対して二人(一人)は命一杯の笑顔で応えた。


 リオネ達が扉をくぐった先、突然吹いた冷たい風は、湿り気を持って小道の脇に伸びる葉を大きく揺らした。

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