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バイソウルの一人  作者: わたしだ


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34/62

ブルートのアトリエ

 「ここが僕の家だよ。ほら、好きにくつろいでよ」


 ブルートがドアを開けてすぐ、そこに広がっていた世界は—ロフト付きのこじんまりとした部屋だった。隅には戸棚と、その他画材であろうものが置かれたカウンターがあった。床は所々に赤や黄色と言った乾いた絵具の跡が水玉模様に散乱していた。


 「お邪魔します」


 控えめに自分よりも一段と背の高い入り口をくぐるように、リオネ達はブルートの家へと入った。


 外は薄暗くなってきていたが、部屋の中は照明の白く淡い光で照らされていた。


 その照明をリオネ達はまじまじと見つめた。


 「これ、光系統のやつですよね? 火じゃなくて」


 「ん? どういうこと?」


 既にイーゼルを立て絵を描く準備をしていたブルートは、生返事に首を傾げた。


 「えっと。この照明です。だいたいは火系統の魔道具が多いんですけど…。これ、色合い的に光系統のやつなんじゃ——」


 そこでリオネ達は言葉を切って、苦笑いを浮かべた。


 「あの、聞いてます?」


 二人(一人)の視線の先ではブルートがカウンターで何やら黙々と作業をしていた。先程までは身に着けていなかった紺色の前掛けを背中で結んで手を動かす彼。


 少量の色が付いた粉の上に僅か粘度ある液体が垂れ落ち、それがコテによってぐるぐると混ぜられる。そして融合してできたのは緑色の塊。それを筆ですくってブルートは自分の肌にチョンと付けた。するとブルートは微かに頷いてまた別の色の粉を取り出した。


 そんなブルートの背中しか見えないリオネ達は、何も返答しない彼にため息を一つ吐いて、照明の下に置かれた四角の木製テーブルにカバンを置いた。そして椅子に腰を掛けると、囁き声で会話し始めた。


 「ねえ、ジェル。あの人大丈夫かな?」


 「うん。大丈夫だと思う。悪い人ではないでしょ」


 「それは同感だけど…」


 そう言いながらリオネ達の目は作業するブルートの背中へと向く。彼は同じ作業を丁寧に繰り返していた。


 「まあ、確かにブルートさん、結構変な人だよね」


 「ん? 呼んだかい?」


 「あ、いえ。なんでも…」


 誤魔化すようなリオネ達が気になったのか、ブルートはのめり込んでいた作業の手を止ると、じっとリオネ達を見つめた。


 それによって、リオネ達の視線はあちこちに向いたが、すぐに笑って口を開いた。


 「照明っ。この照明、白色ってなかなか見ないですよね」


 微かに口元に力みを含んだ笑顔のリオネ達だったが、ブルートは「そうなのかなあ」と照明の方を仰ぎ見た。そして、「ああ、まあでも」と続けた。


 「まあ確かに。少し前まではオレンジっぽい色をした照明だったんだけど。それだと夜に色を付けてたら、思ったものと違ちゃって。だからそれをパトロンに言ったんだよ。そしたら彼女、この照明をくれたんだよね」


 その言葉にリオネ達は「なるほど、そうなんですね」と頷いた。


 「これ、そんなに珍しいの?」


 「そうですね。珍しいというか、高価なものですよ。庶民には手が出しずらいくらいには」


 「はえー」とブルートは声を漏らしてから「そんなものだったなんて知らなかったなあ」と呟いた。


 そして三人(二人)は柔らかにそれでも明るく部屋を照らす照明をぼんやりと眺める。


 風が吹いていないのか、森の木々は暗闇の中微動だにせず眠り始めたようだった。


 「あ、そうだ。僕今日このまま一晩中絵を描くから、夕飯はそっちの戸棚にパンとか入っているから好きに食べて。寝床は—、ロフトのベッドを使ってよ」


 リオネ達がコクリと頷いたのを確認すると、ブルートはまた二人に背を向けて作業に戻った。


 「リオ」


 「そうだねジェル」


 二人はどこか悟ったように目と口をつむって頷くと、立ち上がり先程ブルートが指さした戸棚の方へと向かった。そこから漁るように丸いパンを一つとりだすと、リオネ達はまた椅子に腰かけてそれを頬張った。


 片頬を膨らませてもぐもぐ咀嚼をしながら二人はブルートが作業するのを眺めていた。リオネ達がパンを食べ終えた頃にはブルートはとうとう絵に色を付け始めていた。


 相も変わらず殺意孕む眼差しで、ブルートはキャンバスと向き合う。


 その姿をリオネ達は途中しょぼしょぼとした目を擦りがらも静かに見ていた。

 ただ、さすがに眠気が襲ってきたのか、あくびを噛み締めると、リオネ達は「お先に寝ますね」とブルートに一声かけた。


 もう返答は期待していないのか、リオネ達は言い終わってすぐにロフトへとかけられた梯子を上りベッドに潜った。そして壁際に向きフードを深くかぶると—、少しして微かの寝息が二人の口から漏れ出始めた。


 森もリオネ達も眠りにつく中、ブルートの筆は止まることなく動き続けていた。

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