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バイソウルの一人  作者: わたしだ


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33/62

画家と湖(3)

 再度鉛筆の走る音と微かの波音がゆったりと流れ始めた。


 太陽は次第にその傾きを強め時間は確実に過ぎていった。その間、ただずっとリオネ達は湖を眺め、男は風景を描き上げていく——。


 だんだんとはっきりとしてきた絵の全体像。そこには水面揺れる湖とその向こうに広がる森を背景に、その中心、柔らかな輪郭で岩に腰かけながらそれを眺めるリオネ達の背中が現実以上にぽつりと描かれていた。

 加えて、鳥が一羽その羽を一つ落として、上空からリオネ達に舞い降りる様子がそこにはあった。


 「うん。いい感じだ」


 ブルートはそう頷くと、「今日はこの辺で終わりにするよ。ありがとう」とキャンバスをイーゼルから外した。


 その言葉にリオネ達はゆっくりと岩から立ち上がると、いかにも楽しみそうな笑みを浮かべて一歩二歩とブルートに歩み寄った。


 「どんな感じか見せてもらっても?」


 「ああ。どうぞ」


 そうしてブルートが見やすいように傾けたところにリオネ達は絵を覗き見た。


 「おー」と感嘆の声を漏らした二人(一人)だったが、少しして首を傾げた。


 「あれ、色付けないんですか?」


 リオネ達の言うように、その絵は線画の段階で止まっており、ただ白の上に黒い線が形を成しているだけだった。


 「ああ。色は帰ってから付けるよ」


 「そうなんですか」


 今度は反対側に首を傾げて腑に落ちない様子のリオネ達を見て男は口を開く。


 「最近はさ、ほら。カメラとか出てきて、ただそのまま風景を絵にかくくらいなら写真でいいらしいからねえ。パトロンにもそうじゃない絵を描いてくれって言われているし」


 「パトロン?」


 リオネ達が浮かべた疑問符に、ブルートは優しく答える。


 「ああ、えっと。僕の支援者って言えばいいかな。そう言う人をパトロンていうんだよ。まあ、絵を買ってくれる人」


 「なるほど。それでいない鳥も描いていると」


 「そうそう。色もこの場に倣えじゃなくてっていう感じだから」


 「そういうことなんですね」


 リオネ達は「それは難しそうですね」と納得したように頷いていた。


 「まあねえ」とブルートはイーゼルを折りたたむと、画材をまとめて近くに置いてあった取っ手の付いた木箱の様なものに入れた。


 「こんな時間になるまで付き合ってもらってごめん。良かったら、というか是非僕の家に止まっていってよ。ここから近いんだ」


 「えっと…」


 いつの間にか太陽もその光に朱色を帯びて湖から反射するそれもどこか角の取れたものとなっていた。


 少し考えるようにしたリオネ達。それでも、その右手が軽く握られると、すぐにブルートの方へ視線を戻して微笑んだ。


 「すみません。お邪魔します」


 ブルートはその言葉を待っていましたと言わんばかり、大きく頷くと「じゃあ帰ろうか」とリオネ達を連れて先刻通ってきた細い道へと歩き始めた。

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