鐘の鳴る街(12)
太陽はもう既に高い位置まで昇りこれから傾いていく準備をしていた。
「嘘をついたんですか?」
職員室に静かに響いた少女の声。彼女は青い瞳で目の前の黒髪の女に訴える。
「先生たちに言わないって約束しましたよね。なのにどうして伝わっているんですか」
「いやー。どうしてだろうね」
「さっき、オネストは自警団の方々に連れていかれましたよ」
「そうなんだ」
「あなたが去ってすぐでした。先生方がこちらに来たのは」
少女——プラウの言葉に、ジェルソ達はどこかどうでもいいように窓外を眺めていた。
「なんとも思わないんですか?」
「…そうだね。君との約束が結果的に破られてしまったことには申し訳なく思っているよ」
ジェルソはプラウの方に向き直ると頭を下げた。そして「ただ」と続ける。
「彼のやったことは悪いことではあったからね」
プラウはただ平然といるジェルソ達を見て、心なしか顔が力んでいるようだった。
「そうですか。わかりました」
差し込む陽光がソファに向かい合って座る二人の髪を煌びやかに照らしている。
「ね、ねえプラウさん。私今まで…」
「先生。私は大丈夫ですよ」
プラウが金髪の女——シェリーに向けたのは綺麗な笑顔だった。彼女の小麦色の髪は笑ったのに伴って微かに揺れた。
「私は…、私は大丈夫です」
「幸せだから?」
そう尋ねたのはジェルソだった。
ジェルソの突然の問いに、それでもプラウはゆっくりと首肯した。
「そっか…」
ジェルソ達は微笑んで「ねえ」と続けた。
「プラウって頭の上に鳥の糞が降ってきたらどう思う?」
「へ?」
プラウは何の文脈もないジェルソの問いに間抜けな声を出した。
「ど、どういうことですか?」
「いや、ただそのまま。鳥の糞が頭に落ちてきたらどう思う?」
真面目な顔で尋ねるジェルソにプラウは軽く眉をひそめながら口を開いた。
「…嫌、ですけど」
「そっか」
プラウの答えを聞いて、ジェルソ達は白い歯を見せてニカッと笑った。
そんなジェルソ達にプラウの眉はさらに中心へとより、首がいっぱいに傾く。
「…何ですか?」
「いや。良かったなって思って」
「何がですか?」
「ん? まずはそこからだなって思って」
「そこから?」
「そう。そこから」
そう言いながらジェルソ達は立ち上がった。そして「先生、少しお話いいですか」とシェリーに尋ねる。
「は、はい」
「じゃあ、プラウ。僕はこれで失礼するね」
「は、はあ」
そうしてジェルソ達は一歩踏み出すと、シェリーと共にドアの方へと向かった。戸を開いて廊下に出たジェルソは、最後体を翻すと一言——。
「飛んでいる鳥の下、歩くといいよ」
プラウはその言葉に「はあ」と頷くと、「あ、本、ありがとうございました」と立ち上がって一礼した。
ジェルソ達はそれに片手振って応えるとシェリーと共に職員室を後にした。
校庭の隅の花で蜜を吸っていた蝶は、図書館前の花壇、少し開いてきたつぼみの上で一休みしていた。




