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バイソウルの一人  作者: わたしだ


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鐘の鳴る街(11-3)

 「あ?」


 「あ?」


 「あ?」


 「あ?」


 男たちが睨みながら首を傾げる間に、ジェルソ達の纏うローブのふわっと舞い上がった裾が落ち着いた。


 「あ? じゃなくて。その本、返してもらうね」


 さしていた指を収めてジェルソは「ほら」と手のひらを前に出した。


 「いや、渡さねーけど。というかなんなんだよお前」


 「だから、僕は君たちにその本を返しにもらいに来たんだ」


 「それは無理な相談だな」


 はげ頭が手をひらひらさせながら言った。


 「どうして?」


 「どうしても何もないんだよ。俺らはこの本売って大金をいただくんだ。そんでこんな山奥での暮らしからおさらばするんだよ」


 ガタイの良い男が話している間に、細身の男が壁にかかっていた銃を手に取りジェルソ達へと向けていた。


 「本の持ち主の友達だか何だか知らねえが、こいつは返すわけにはいかねえんだ」


 ガタイの良い男の右の口角が髭と共に目尻にぐっと近づいた。


 「大方、あのガキから聞いてどうにかここにたどり着いたんだろうが…。あいつ俺らのことを話したらどうなるのか、言い聞かせたつもりだったがわかっていなかったようだな」


 「また別の仕事も頼もうと思ってたんだがなあ」


 「クヒヒヒ」と男たちの笑い声がこだまする。それと共に吹き付けた風で小屋は軋み、甲高い音を鳴らす。


 「まずはお前からだな」


 ガタイの良い男の言葉に合わせて、細身の男の指が引き金にかかった。銃口は確実にジェルソ達の頭を捉え、細身の男がその引き金を引こうとした——、その時——。


 「ちょっと待って」


 ジェルソが大きな声で割って入った。


 それに対しガタイの良い男は余裕そうな笑みを浮かべる。 


 「なんだ? 命乞いか?」


 「違うんだ。そのさ…。本当に申し訳ないんだけど…」


 ジェルソは「実は…」と一度目を伏せてから続けた。


 「実はその本の表紙、赤くないんだ」


 真剣なまなざしで男たちに訴えるジェルソ。小屋の中はしんと静まり返った。


 そして男たちは各々顔を見合わせる。


 小屋に巻き付いた蔦を、一匹の小さい毛虫がのそのそと屋根の方へと上っていた。


 「プハッ」


 はげ頭の男が吹き出した。


 「ガハハハッ」


 続くように男たち全員が吹き出したかと思えば、腹を抱えてしゃがれ声で笑い始めた。


 「おま、お前大丈夫か?」


 「何を言い出すかと思えば。命乞いでも、もっといい言葉があっただろ」


 「あかっ。赤くないとか。馬鹿じゃねえのか?」


 細身の男も例にもれず腹を抱えて笑って、ジェルソ達に向いていた銃口は床へと外れていた。


 「本当なんだって。その本は君たちにとっては価値のないものなんだよ」


 「お前なあ。全く、これのどこが赤以外の色なんだよ——」


 と一番若い男がその開かれた本をゆっくりと閉じると全員の視線がそこに集まった。そして固まった。


 「なっ」


 男たち四人は、目を見開いていた。はげ頭は目をこすって何度も瞬きしたが、それでもその表情は変わらなかった。


 「あ、青い」


 はげ頭の言う通り。四人の男たちの視線の先、閉じられた本の表紙は青色であった。


 「ね、赤くないでしょ?」


 「どういうことだ。確かに赤かったはず…」


 ガタイの良い男が手に取って本の隅々まで目を凝らして確認したが、「あ、青いぞこれ」と口から漏らしただけだった。


 「青い表紙なら君たちには必要なくなったでしょ? だから返してよその本」


 ジェルソ達はまた手のひらを前に出した。


 「あ、ああ。すまなかった。返すよ」


 ガタイの良い男はそう言いながら立ち上がると、手に持った青い表紙の本を差し出されたジェルソ達の手のひらの上に置いた。その重みで二人(一人)の細い腕が僅かに沈んだ。


 ジェルソ達は渡された本を抱えると、そのまま一礼して小屋の外へと一歩踏み出した。


 「それでは」


 とジェルソ達が戸をゆっくりと閉めようとしたその時、その戸はピタッと静止した。


 「いや、逃がさねえからな」


 ガタイの良い男がジェルソ達とは反対側から戸を押さえていた。


 「やれっ」 


 「バンッ」


 ガタイの良い男のしゃがみながらの叫び。それに応えたのは、銃声——、ではなくリオネの声だった。


 「パリィィンッ」と次に響いたのはいくつもの瓶が割れる音。僅かな陽光に反射する破片と共に、中身の液体が飛び散りながら気化した。


 「ドサドサッドサッ」


 小屋の床が音を立ててわずかに揺れた。同時に小屋の戸が強く閉められた。


 「おいっ、どうし…た…」


 「ドサッ」


 一つ遅れたタイミングでまた床が音を立ててわずかに振動した。


 「まあ、本当は赤いんですけどね」


 ジェルソ達は屋根のようになった木の枝の下、手に持った本に目をやった。


 そこにある本の表紙は——、赤かった。


 「ジェル。あの人たちどうする?」


 「どうせすぐ起きないだろうし、後で捕まえてもらおっか」


 「オッケー」


 それだけ言葉を交わすと二人(一人)は回れ左をして一歩踏み出すと山を下り始めた。


 ジェルソ達の背中の小屋からは、静かな山に小さくいびきの音が漏れ出ていた。

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