鐘の鳴る街(10ー1)
「さてと、ここに来てもらったのは他でもない、君にお話を聞こうと思ってね」
ジェルソは役に入ったようにそう言いながら、腰まで伸びた黒い髪を揺らして三歩歩いて行ったり来たり。図書館の作る影を踏みながらジェルソ達は何度も踵を返す。
「な、なんなんだよっ。こんなことして許されると思ってんのか」
「それはこっちのセリフだけどね」
ジェルソ達は足を動かしたまま、その眼前に伏す少年を見下ろした。
その少年の手足は包帯でぐるぐると縛られていて、彼はどうにかもがいているのだが、そのくせ毛が振れるだけで拘束はほどけない。
「―っ。誰かっ!」
「おっと」
少年が叫んだ矢先、ジェルソ達はがっと近寄ると彼の口元を手でふさいだ。そして穏やかだったその表情が一変——、黒い瞳がキュッと縮まり、一点—研がれた刃のように眼光鋭く少年を睨んだ。
「おいおい、好き勝手口を開くなよ。一応立場ってものはあるからな」
さっきまでのおどけはどこかへ、ジェルソの声は低く凍てついたもの。それに応じるように木々の枝は風に身を震わせる。
睨まれた少年も細かく身も目も震わせて僅かに頷いた。
その構図は蛇に睨まれた蛙よりも差を突き付けていた。
「よし、わかったならいい子だ」
ジェルソ達は少年の口から手をはずすとまた右往左往歩き始めた。少年はと言うと「はぁっ、はぁっ」と浅く呼吸をしていた。
「とりあえず面倒だから単刀直入に言うね」
ジェルソは立ち止まってから右の人差し指を思い切り振りかぶって少年の方に向けた。ジェルソ達の纏うローブの袖がはためき音を鳴らす。
「プラウの大事な本を返してもらおうじゃあないかっ」
ジェルソの口から放たれた言葉は森の方へと吸い込まれて行った。
「ねぇ、本はどこにやったのかな?」
そんな彼の問いに少年は目を伏せて口を閉じた。
「ねえ、教えてくれないかな?」
今度、ジェルソは少年の前にしゃがんで問うが、少年は俯いたまま口を開かない。
「なんかさっきもこんな感じだったな。最近の子は話すのが苦手なのかな?」
呟きながらジェルソ達は立ち上がらる。と――、「ガンッ」と鈍い音が響いた。
「ちょ、リオッ——」
「ジェルソさんっ」
ジェルソの小さな叫びを飲み込むように、その後方から突然プラウが姿を現し、二人(一人)の方へと小麦色の髪を揺らして駆け寄った。彼女の現れた場には白い布がくしゃくしゃになって落ちていた。
「何しているんですか」
「いや、ごめん。足が滑ったというかなんというか…」
そうしてプラウとジェルソ達が見下ろした先、右頬を赤くはらした少年が「ぺっ」と血の混じった唾を吐きだしていた。
「だ、大丈夫? オネス——」
「うるせぇな。なんだよお前、復讐か?」
少年——オネストに寄り添うようにプラウはかがんでその頬に振れようとしたが、オネストはそれを振り払うように首を振った。
「人にやらせていい身分だな、さすがお嬢様は違うな」
口を噛み締めながらオネストは言った。
「違うの」
「何がどう違うんだ? 今朝の仕返しに来たんだろ?」
オネストの言葉にプラウは否定するよう首を振った。
「違うの、ただ私は本を返して欲しいの」
「そのために手足を縛って、さらには蹴ったってか? 復讐とどう違うんだよ」
「それは…」
「蹴ったことに関してはごめん。感情が高ぶっちゃった」
ジェルソはそう言いながら深々と頭を下げた。
「なんだよ。大の大人が謝るとか——」
「でも」とジェルソはオネストの言葉に割り込んで続けた。
「本がどこにあるのかは教えて欲しい」
ジェルソは真っすぐオネストを見つめた。すると見つめられたオネストは片方の口角だけ目じりに思い切り近づけて、笑いながら口を開いた。
「わかったよ。教えてやるよ」




