鐘の鳴る街(7ー1)
「カーン、カーン」
街中に溢れる澄んだ空気を鐘の音がゆったりと揺らす—。
青い空に点々と薄い雲が浮かんでいる、そんな下、丘上にある学校の一教室には三十人ほどの子供が自分の席についていた。教室自体はその三十人分の席が等間隔に埋まっており、子供たちは皆齢十を超えているくらいの背丈であった。
「はい、皆席についてください。出欠をとりますよ」
教壇に立つのは物腰優しい女教師。彼女はいつものように窓側の席から順々に出欠をとっていく。
「ミーアさん」
「はいっ」
名前を呼ばれた子供は元気に返事をしていく。
「ライトさん」
「はい」
「ナビアさん」
「はい」
そうやって教師が出欠をとり続けちょうど真ん中の列に差し掛かった時だった——。
「プラウさん」
「…」
教師がすっとその席を見ると、そこには誰も座っていなかった。
「珍しいですね。プラウさん、今日は欠席ですか…」
そうして教師は手元の紙にバツ印を付けた。
「では続いて—」
「バンッ—」
衝撃音が教室に走る。
「シェリー先生っ、大変です!」
シェリーが続く生徒の名を呼ぼうと開けた口が止まった。
突然勢いよく開かれた後ろ側の教室のドア。共に飛び込んできたのは細身で短髪の男教師だった。
その男は開いたドアに片手ついたままに、息を切らしていた。
「どうしたんですか、ジョン先生。そんなにあせ—」
「プラウさんが」
ジョンは整わない呼吸そのままに、シェリーの言葉に割って入った。
「プラウさんが、大変なんですっ」
彼の瞳はただとシェリーだけを捉えていた。
風に吹かれて学校周りの林はやけに騒がしい。
「―プラウさんがどうされたんですか?」
静かなシェリーの問いに、我に返ったのかジョンは教室を見回した。そのほとんどの子供達が黙って彼の方に注目していた。
「ああ、ごめんね皆。ちょっとシェリー先生をお借りするね」
ジョンは先程までのことを誤魔化すように笑うと、「シェリー先生」と真剣な目で彼女に手招きした。
「先生ちょっと急用ができたので席を外します。皆さん、私が戻って来るまでで自習をしていてください」
シェリーはそう言い残すと自身の金色の長い髪をたなびかせて教室を後にした。
彼女の退室後、静かだった教室は子供たちの話し声で埋まり始めた。
「一体どうしたんですか? ジョン先生」
「とりあえず養護室に行けばわかります」
「養護室?」と眉をひそめて早足に廊下を進むシェリー。
二人の姿は窓から隣の窓へと素早く移り変わっていた。
そしてジョンの足がとある部屋の前で止まった。従うようにシェリーもそこに立ち止まる—。
コンコンと二回ノックをすると、中から「はい」という女の声がした。
ジョンがゆっくりとドアを開くと、そこには、窓際、黒い長髪の女が椅子に腰かけていた。そしてその隣——。
「プラウさんっ」
シェリーが声を部屋に響かせながら駆け寄る。
そんな彼女のグレーの瞳に映ったのは、そのベッドで微かに寝息をたてる小麦色の髪をした少女の姿だった。




