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バイソウルの一人  作者: わたしだ


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鐘の鳴る街(5)

 三人(二人)学校前の坂を下っていく。日が沈みかけている状況で、林に囲まれた坂はやはり薄暗く、地面に転がる石が見えるかどうかという程であった。そんな中をどちらも体を上下に揺らして、三人の足はゆっくりと動いていた。


 「ねえ、君っていじm—」


 ジェルソが言った瞬間、自身の左腕が思い切り自分の頬を殴った。


 そのゴンッという鈍い音にプラウは目を丸くして二人の方を見上げた。


 「だ、大丈夫ですか…?」


 「ああ、うん。ごめんごめん。偶に誤動作するんだぼくの体」


 「大丈夫だから」といいながら、ジェルソ達の目は薄っすら潤んでいて、その左の頬をさすっていた。


 「それなら良かったですけど…」と不思議そうな顔をしてからプラウは続けた。


 「ところで、何か言おうとしてました?」


 彼女の問いにジェルソはすぐに返そうと口が開き始めていたのだが、自分の左手の爪が掌に食い込むほどに強く握られて開こうとした口が一度閉じられた。そして一呼吸をおいてからジェルソ達はゆっくりと口を開いた。


 「いや、さっき紙のこと聞こうとしてたから、気になってるのかなって思って」


 「ああ、そのことですか」


 言いながらプラウは優しい笑顔で俯いた。


 「そうですね。確かに気になってはいますが…」


 少し言いよどんだ彼女の言葉の続きをジェルソは待った。

 ジェルソ達とプラウの足音が交互に静かな林のアーチへと散っていく—。


 「まあでも、聞いてもよく分からないと思うので大丈夫ですよ」


 十歩進んでプラウは続きを言葉にした。その声ははきはきとしていて、真っすぐ二人の耳へと届いた。

だがジェルソ達に向けられた顔だけは暗がりの中に紛れていた。


 「そっか。まあでも多分聞けばわかると—」


 ジェルソが口を開くと、またも左手が強く握られた。不自然に止まった言葉だったがそこからジェルソは無理やり繋げた。 


 「思うけど。まあ、大丈夫ならいいか」


 最後「あはは」と愛想笑いを付け足して、ジェルソ達の握られた左の拳はゆっくりとほどかれた。


 そんな話をしている間に三人は坂を下り終えて、街を横切る道に出た。木々のアーチを抜けると日はもう近くの稜線のみを際立たせるだけで、空は既に黒になけなしの青があるかという位。星もまばらにその存在を現し始めていた。


 それでも、三人が坂を下った先の道から続く複数の通りからは、街灯だろうか明かりが漏れ出て規則的に円く地面を映し出していた。


 「君の家はどっちにあるの?」


 「こっちですけど。ここまでで大丈夫です」


 そうしてプラウ指さす方角は、ジェルソ達の泊まる宿と別の通りであった。


 「いや、家まで送るよ。夜道は結構危ないからね」


 ジェルソ達はなりかけの夜空に勝る漆黒の髪を涼やかな夜風になびかせながら「任せて」と自分の胸をトンと叩いた。


 「でも…」とプラウは申し訳なさそうにその綺麗に生えそろった眉をハの字にしたが、ジェルソ達はにっこりと笑って、もう既に一歩プラウの指さした方へと踏み出していた。


 そうしてまた三人、足並みそろえてそれでも足音は交互に鳴って明るい場所へと誘われて行った。


 三人入った通りは宿の通りと比べると広くはなかったが、その両端には街灯のみならず多くの家が建ち並び、そこから漏れた明かりも街を照らしていた。それら灯りはどれも太陽よりも暖かいもので、柔らかく世界を包んでいた。


 「いいね。夜なのに明るくて」


 ジェルソの言葉にプラウは「ん?」と首を傾げた。


 「あーっと。そっか、いや、実は僕普段はもう少し暗い所にいてさ。街灯とかないから外が明るいのって全然見たことが無くて」


 「そうなんですね。それは大変そう」


 「まあでも、僕にはこれがあるし」


 そう言ってジェルソは右手の人差し指をはじくようにぴんと立てた。するとその先に、白く淡く光る球がぷかぷかと浮かび上がった。


 その輝きにプラウの青の瞳も宝石の如く光を放った。


 「綺麗…。魔法ですか?」


 「そう。見せびらかすようなものではないけど—、いいでしょ」


 ジェルソが自慢げに言いながら伸ばした指でポンと空を叩くとその光の玉は残像焼き付けて消え去った。


 「いいですね。私も早く使えるようになりたいです」


 「おっ、それは頑張らないとだね」


 「はい」


 とプラウがジェルソ達に微笑んだところで、三人が歩くすぐ前の戸が軋む音を立てながら開いた。中からはより明るいそれでも優しい光を背に、髪を後ろで結んだ女が出て来た。


 彼女はこれから買い物に出かけるのか手には網目が緩くなったカゴ提げていた。

 そして女は、戸を閉じてプラウのことが目に入るや否やその最近でき始めたような口元のしわを深めて笑いながら口を開いた。


 「あらこんばんは、プラウちゃん。こんな時間まで何していたの?」


 「こんばんは。図書館で本を読んでいました」


 話しかけられてプラウとジェルソ達は足を止めた。


 「あら、勉強熱心で偉いわね。お父さんも鼻が高いでしょう」


 「いえ、もっと頑張らないと」


 「あらそう? でも体調だけは気を付けてね」


 「はい」


 「突然呼び止めちゃってごめんね。それじゃ」


 そうして女は去り際「お父さんによろしくね」と言い残してジェルソ達の背中へと歩いて行った。

プラウは一礼して、三人また歩き始めた。


 「あの人は?」とジェルソが聞いたその時—。


 「プラウ様っ」


 二人歩く少し先でまた、今度は深みのある男の声がプラウの名を呼んだ。


 その声を辿るように三人向くと、そこから、小奇麗な黒いジャケットに蝶ネクタイを結んだ老爺が白髪ゆらして駆け寄ってきていた。そして口元が隠れるほどの、それでも綺麗に整えられた白いひげを上下に動かして老爺は話す。


 「プラウ様。申し訳ありません、迎えが遅れてしまいました」


 「いえ、大丈夫。この方が送ってくださったから」


 そう言ってプラウはジェルソ達の方に手を向けた


 「あ、はい。偶然図書館にいたので」


 「それはどうも、ありがとうございます」


 老爺は深々と礼をした。


 「何かお礼でも」


 「いえ、そんな。大したことはしていないので。プラウさんが無事に家に帰れればそれで…」


 老爺は一度頭を上げてから、潰れかけたその瞳をいっぱいに広げてジェルソ達を真っすぐ見つめ、もう一度深々と礼をした。


 「ありがとうございました」


 ジェルソ達は「いえ」とにっこり笑うと、「それじゃあ」と言ってプラウの方に小さく手を振った。

 プラウもにっこりとわらうと「ありがとうございました」と控えめな声で礼をした。


 そうしてジェルソ達は体を翻すと、宿の方へと歩いて行った。


 「プラウ様、行きましょう」


 プラウは軽く頷くと老爺と共に街の奥へと歩いて行った。


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