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バイソウルの一人  作者: わたしだ


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鐘の鳴る街(4)

 「呪いの本を置いているなんてどんな図書館かと思えば、ちゃんと学校から盗ってきたものだなんて。悪いことはしない方がいいぞ」


 「なんだよ、説教かよ」


 「まあね」


 目を瞑ってジェルソ達は頷く。


 「私たちがどんな本を読んでいようがあなたには関係ないでしょ?」


 「ただ読んでいただけならね」 


 瞑っていたうちの片目だけ開けて、ジェルソ達は三人組の方をじっと見て続けた。


 「うん。ただ読んでいただけなら、僕も特に止めなかったけど…。実際に使おうとしてたでしょ? 君たち」


 もう一言文句を言おうと前のめりになっていたくせ毛の少年の口は、はじめの子音まで出しかかって止まった。


 「ちゃんと見てたよ。君たちが何やらコソコソと陣を描いていたのを」


 「それは…」


 「呪いの行使は重罪だって知ってる?」


 三人とも口をつむって黙りこくった。彼らの長く伸びた影をジェルソ達はその両足で踏んでいた。


 「確かに呪いは条件が整えばだれでも簡単に使うことができるけど、どれだけ軽度なものでも絶対に使っちゃいけない」


 ジェルソ達は本の表紙をぱっとめくると、三人の眼前に突き付けた。


 「ほら、ちゃんとここの所読まないと。そういう風に書いてあるでしょ?」


 “呪いの行使は重罪となります。この本はあくまで呪術における陣や条件の観点から、それを魔術へと転用を目的とした趣旨で書いております。また、呪術に関しましては後述もしますが使用した際に術者への代償もございますのでくれぐれも使用することのないようにしてください”


 その本のはじめには、太く大きな文字でそう記されていた。


 「全く、面倒だからって読み飛ばすから君たちは危うく犯罪者に—」


 「うるさい! ネチネチ言ってないで早く俺たちを自警団にでもなんでも突き出せばいいだろっ」


 ジェルソの言葉に割り込んで、くせ毛の少年が叫んだ。そして、三人共々鋭い目つきで見上げながらジェルソ達を睨んでいた。拳がギュッと握られて、身を震わせて、鋭利な眼光が二人(一人)を刺していた。


 学校周りに茂った林は、朱色を纏う陽光によって作られた長い影を図書館に届きそうなほどに伸ばしていて、木の枝にとまった小鳥は辺りの暗さで道に迷ったのか、か細い声く鳴いていた。


 「そんな睨まなくても大丈夫。僕は別に君たちをどうこうとかはしないから」


 優しい声でジェルソ達は微笑んだのだが、未だに三人からは棘のような視線が飛ばされていた。


 「本当に、なにをするつもりもないよ。ただ、呪いは危ないんだってことを知って欲しくて…」


 「あっそ。それはどうもご忠告ありがとうございました」


 子供にすごまれて語尾がすくんだジェルソに、のっぽが吐き捨てると、三人は肩で風切りながら出口へと向かった。


 去り際、三人はプラウのことを一睨みしてから、「こんなボディガードまで頼んでいたとはな」とくせ毛が一言残して、ばたりとドアが閉められた。


 ジェルソ達はただその姿を目で追うことしかできなかった。


 また図書館に、静かなゆったりとした時間が流れ始めた———。


 「あの。ありがとうございました」


 そうお礼を言ったのはプラウだった。


 彼女はジェルソ達の前に立って、深々と頭を下げていた。


 「いやいや、頭を上げてよ。大変だったのは君なんだから」


 ジェルソに促されてすっと上がった彼女の顔—、全体的に丸みを帯びてかわいらしい。だが、先程まで詰められていたとは思えないほどに目元と口元は落ち着いて、さらに言えば余裕ささえ孕んでいるようだった。


 本来であればジェルソ達の肩口辺りまでの背丈なのだが、漂う雰囲気が下駄をはかせてそれはゆうにジェルソ達を追い越していた。


 「あ、あの…。どうぞお座りいただいて…」


 ジェルソも自分の方が小さな存在であると認識したのか、変に敬語が出ていた。


 「あ、はい。では、どうぞあなたも座ってください」


 ジェルソ達はぺこりと頭を下げると、プラウに示された彼女の向かい、窓側のイスへと腰を掛けた。そうしてジェルソ達がプラウの方を見ると、彼女は何事もなかったかのように先刻まで読んでいた本を開いていた。


 それに倣うように、ジェルソ達も手に持った本を開く—、呪いの本を。


 注意事項のページをさらっと飛ばして五枚ほどめくれば、そこには何やら円や四角といった複数の図形が組み合わさってできた絵と、その説明だろうか下側に文字が並べられていた。


 ジェルソ達がその後もパラパラページをめくっても同じようなページが並んでいるだけだった。そんな中で、ジェルソ達はあるページでめくる手を止めると、懐をもぞもぞと探り出して折りたたまれた紙を三枚取り出した。


 それを広げるとそこには本に描かれているものと同じような図形の集合体があった。しかし、紙に書かれていたものはどれも歪なバランスや線をしていて、本の整ったそれとは似てはいても異なるものであった。


 ジェルソ達は机の上に並べたその二つを交互に見て腕組みをしながら唸った。

 その唸りにプラウが本に落としていた視線を上らせた。そして彼女の目にも複数並べられた陣が目に入る。


 「それは…」とプラウが何か言おうとしたところで、図書館の入り口の戸が開いた。


 プラウとジェルソ達がそちらを向くと、そこには前掛けをした少し年を召したような女が立っていた。


 「あの、そろそろ閉めますけど…」


 少し間をおいて、その言葉がかみ砕かれたのか、ジェルソ達とプラウは立ち上がった。プラウはそのままに、そして二人(一人)は借りていた本を棚に戻すと、前掛けをした女に一礼をしてから図書館の外へと出た。


 完全に傾いた日は、既に林の中にその姿を半分以上隠していた。先に外にいたプラウは本の入った手提げバッグを後ろ手に持って軽くゆすっていた。


 「遅いし送るよ」

 ジェルソは何とはなしにプラウに言った。

 プラウは「お願いします」と礼をするとその小麦色の髪をするっと片耳にかけた。

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