鐘の鳴る街(2)
「すみません、図書館てどこにありますか」
一階まで下りたジェルソ達は、カウンターの前に行くや否や受付の女に尋ねた。
「図書館なら、あそこの丘上の学校のすぐ横にあるよ」
言いながら女は右手を斜め前に突き出してその方を指さす。
「わかりました。ちょっとこれから出かけてきますね」
「はいよ」
「教えていただいてありがとうございました」
「では」とジェルソ達は踵を返そうと片足上げた。が―「ああ、そう言えば」と受付の女に呼び止められ、二人の足は空踏みし翻った上半身がまた彼女の方を向いた。
「お連れの人はいつ来るんだ?」
ジェルソ達は首を傾げる。
「ほら、もう一人泊まるんだろ?」
「あ、ああ。そうですね。えっと…。多分夜遅くになるかと」
「そうかい。わかったよ」
「はい。では、行ってきます」
そうしてまたジェル達が体を翻そうとすると、「今日はお客も少ないからゆっくりしていきな」と女はぎこちなくウィンクした。
「は、はあ」とジェルソ達は頭に疑問符を浮かべながら軽く会釈をすると、ベルを控えめにならして宿の外へと出た
「なんか勘違いされている気がする」
ジェルソがそう呟くと、二人は図書館のある丘上の学校へと歩き出した。
「さっきより人増えたね」
そんなジェルソの言葉に、二人の右手がギュッと握られる。
二人進む宿周辺の広い通りは、埋まらずとも行き交う人が互いに影を踏むくらいには盛り始めていた。にぎやかさを帯びたその通りを歩くほとんどの人たちは、男女関係なく動きやすそうな軽い服装をしており、着ているズボンや捲られた袖には土汚れがついていた。
肉屋、素材屋、八百屋、酒場など、多種多様に並ぶ店たちを横目に人と人の合間を縫って進む二人。真っ白の透き通った肌に汗がにじむころにはジェルソ達の目にさっきまで見えていた鐘の姿は入らなくなった。
その代わりに二人の眼前に広がったのは、まるで街を区切るように生い茂った林だった。その林の手前は横に一本道が通っており街の端から端までを繋いでいた。
「えっとー、どこから行けば…」とその横道をジェルソ達が歩いていると、林が途中でぽっかりと切れている場所があった。
「ここ上ればいいのかな」
「そうだと思うよ」
先程までのわずかな喧騒は二人の背中に、ほとんど人の見当たらない丘のふもと。そこから一本急な上り坂が左右木々のアーチに囲われていた。そしてその入り口には“学び舎”と記された看板に矢印が真っすぐ、そこにある学校の方を指し示しいていた。
ジェルソ達の足は流れのままにその坂道へと向いた。
今日一日歩いた疲れもあってか多少地面をこする音が多く全身を揺らして、それでも確かに一歩一歩踏みしめて進んでいく。そんな二人を応援するかのように涼やかな風が木々を揺らして緑の葉がサワサワと優しく音を立てていた。
「見えてきたね」
ジェルソ達が前傾になった背を真っすぐにただすと、坂道終わり際、その境からひょっこりと鐘のある櫓が顔を出していた。そして二人が近づいていくごとにその建物の姿が大きく鮮明になっていく―。
「到着っ」
肩が多少上がるくらいに息を切らして木のアーチを潜り抜けた二人を待ち構えていたのは、今度は鉄柵の門だった。ジェルソ達の背二つ分ほどの高さをしたそれは、両扉括り付けられた石柱を軸にぱっくりと口を開けていた。
そしてその門の向こう側、広い畑一枚分ほどのまっさらな土地を挟んで奥、ずっしりと重みある風貌でそびえ立つ石積み――。
「思ってたより大きいね」
周りを林に囲まれて、堂々と日の光を浴びる二階建て。町中にあった建物を五つ程並べた幅に規則正しく並ぶ窓ガラス。屋根は青く平たく伸びている中、一点だけがせりあがって、そこには青さび宿した鐘がつるされていた。
一見、自然の中に場違いのような大きさの無機質な人工物で浮いているように思えるが、色味が落ち着いているお陰かかえってその風景に紛れているようだった。
「これが学校というやつですね」
「もうみんな帰っちゃったのかな?」
ジェルソ達がじっと見つめても、ガラス越しに見える影はなかった。
「で、図書館は…」
と、ジェルソ達は左に視線を滑らせた。
学校の横に石造りの建物がもう一つ。そっちの方は学校と比べるとこじんまりとしていて一階建て、それでも学校と並び立っても違和感のない同じようなつくりとなっていた。
その窓の中には手前並べられた机のイスに座る人影がまちまちあった。
「多分あれだね」
「うん」
二人はずれたカバンの紐を肩にかけ直すと、図書館脇にある花壇に咲く今にも花開きそうなつぼみに目をやりながらその入口へと向かった。
二人がガチャっとノブをひねり中に入ると、その目に映ったのは外の淡色の世界から隔絶されたように、赤や黄色といった鮮やかな色の表紙であふれた空間だった。




