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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

その重巡洋艦は何を望むのか

作者: 北国月光

拙作 かの戦艦は満ち足りているか

https://ncode.syosetu.com/n2533is/

の続編を書いていたらいつの間にか時系列が逆になってました。合わせて読んでくださると嬉しいです。

1949年12月18日 重巡洋艦"たかお"は、国民党軍向けの各種兵器を積んだ輸送船3隻を引き連れて東シナ海を航行していた。


彼女は輸送船の護衛も兼ねて台湾に向かい、賠償艦として中華民国海軍に引き渡される予定だった。


彼女が故郷を離れるのが、太平洋戦争が終戦して4年も経つ今頃になったのには理由があった。


それは、ほぼほぼ決まりかけていた賠償艦の割り当てを無に帰す勢いでGHQが成立させた日本海軍の再建計画において、中華民国向けの賠償艦としていた駆逐艦"雪風" "宵月" の2隻を日本海軍所属とした事を知った中華民国政府が、GHQに抗議したためだった。


GHQとしては、ただでさえ戦没艦の多い艦隊型駆逐艦の生き残りを新生日本海軍から取り上げたくはなかったのだ。


そこで白羽の矢が立ったのが旧帝国海軍の重巡洋艦"高雄"であった。彼女は大戦末期に潜水艦の魚雷によって大破し、シンガポールでイギリスに接収されていた。

その後は自沈処分の時を待つのみであった彼女を日本本土に回航、修理の後に、先述した駆逐艦の代わりに中華民国に引き渡すことで合意したのだった。


日本海軍としても、既に戦艦"長門"と航空母艦"葛城" "笠置"を改装の後就役させることが決まっていたため、これ以上の大型艦の保有は予算、人員共に厳しかったのか、この提案に表立った異論は出なかった。


1つ大きな問題点があるとすれば、魚雷によって切断にまで至った艦尾の修理に想定以上の工数がかかってしまったことだろう。呉で行われた改装、修理は暗黙のうちに航空母艦"葛城"を優先して進められたこともそれに拍車をかけた。

結局、国民党軍が大陸から弾き出され、台湾へと撤退する1949年の末になってようやく一応の完成を見たのであった。


"たかお"(便宜上、日本海軍の艦艇として登録されているため平仮名に改称している)の艦長を務める志水定樹大佐は艦橋の窓の外を舞う対潜哨戒機について複雑な思いを抱いていた。


沖縄より飛び立ったそれは、彼にとって見慣れた機種ではない。懐かしの九六式陸攻でも、大戦末期に登場した東海でもなかった。だいたい、アメリカ合衆国の意向もあってか、日本空軍は旧帝国軍機を殆ど運用していない。


「おお、空軍所属のネプチューンですか。いいものを見ました」


航海長を務める然内康少佐がそう呟く。実質的に副長も兼ねる彼と志水は旧帝国海軍時代からの付き合いだったから、口調は軽い。


「航海長、そんなに珍しいのか?」


「ええ、空軍向けの機体が納入され初めたのが今年の5月、戦力化が相成ったのは秋の初め頃ですから。まだ数も揃ってないはずです」


「そうか。有難いことだな」


「はい。全くです」


胴体の日の丸を誰かに見せつけるように飛ぶP-2 ネプチューンは、"たかお"と共に異国の地に骨を埋めるつもりの志水大佐を始めたとした一部の乗員にとって、日本からの餞のように思えた。


未だ片手の指で数えられる程度しか在籍は確認されていないが、中国人民解放軍海軍は潜水艦を保有していて、時たま中華民国の船を襲っていたからだ。

昨月の半ばに起きた、台湾へと撤退する将兵が海峡の藻屑となった出来事も記憶に新しい。


弱体であった、というよりほぼ存在しなかった、中国人民解放軍における海軍を創造したのは、ソビエト連邦だと言ってよかった。彼らは第二次国共内戦が始まった頃、駆逐艦2隻、魚雷艇14艇、潜水艦4隻を軍事顧問団と共に中国共産党に供与したのである。

また、日本がGHQにより戦艦"長門" 航空母艦"葛城" "笠置"等を修理の後再就役させたことを知ると、戦艦すら回航する姿勢を見せたが、人民解放軍海軍の教育現状を思い出したのか、流石に撤回していた。


弛緩していた艦橋の空気を張りつめたものに変えたのは、無線機を扱う下士官の声だった。余程慌てているのか声が少し上ずっている。


「空軍の哨戒機より入電です。まずいことになりました」


「構わん。言ってみろ」


「読み上げます。貴艦ノ北微東21浬二人民解放軍海軍ラシキ艦隊ヲ発見。軽巡1駆逐2、時速21ノット」


「なんだと!?」


「哨戒機は燃料限界により接触の継続を断念。退避中とのこと」


糞、定時哨戒にしては速力が速すぎる。こちらの航海計画を知っていたに違いない。

どこから情報が漏れたのだろうか。軍内にやつらのシンパでもいるのか?

いや、そんな事を考えている暇は無い。"たかお"はともかく輸送船はじきに追いつかれてしまう。


「輸送船の指揮役…第2びぜん丸の船長に全速で台湾へ向かえと伝えろ。それから基隆(キールン)に言って護衛艦を出してもらえ。彼らにしても輸送船を失う訳にはいかないはずだ」


そもそも、やつらはどこまで知っているのか?輸送船に護衛の軍艦が、それも高雄型重巡洋艦がついていることまでは知らないのではないか?


「いいか、中国のアカどもが保持する大型艦艇はせいぜい国民党軍からぶんどった軽巡"黄河(ホワンホー)"ぐらいであとはソ連に恵んでもらった鞍山(アンシャン)級駆逐艦だけだ。哨戒機からの情報は真実だとみていい。こっちが格上だと気づいたら尻尾まくって逃げ始めるはずさ。だいたい、いくらアカどもに後先考える頭が付いていないとはいえ、中立国のフネに殴りかかってくるとは思えん」


やや楽観的に過ぎる発言であったが、志水の内心に余裕は無かった。中華民国海軍に軍事顧問や教官として残る1割程度を除いた残りの9割は実質的な新兵と言って差し支えない。日本海軍は"たかお"の台湾行きと訓練航海を兼ねるつもりだった。


何より、人員が不足しているため、5基備える20サンチ連装砲こそ全基に砲員が配置されているが、4基の12.7サンチ連装高角砲のうち3基には砲員を配置出来ていない。"黄河(アリシューザ級)"の主砲は15.2cm連装砲が3基、鞍山級(グネフヌイ級)は13cm単装砲が4基。性能では勝っているが、手数で押される心配があった。


それに拍車をかけたのは、"たかお"の改装計画における中華民国からの要求だった。誘爆による危険性を考慮したのか、それとも魚雷が高価だった故か、雷装を廃し、通信・指揮機能を強化する…つまり旗艦としての能力にリソースを割り振る形になった事で、必然的に攻撃の手札は減少している。


とはいえ、このまま真っ直ぐ基隆を目指すだけではいけない。時間を稼ぐため、そして自らの存在を敵に知らせるために敵に近づくより選択肢はなかった。


「面舵一杯。敵艦隊に接近する。総員戦闘配置」


「面舵一杯」「総員戦闘配置」


緊張に満ちた時間を5分ほど過ごし、志水も気が焦れて来たころ、伝声管から報告が上がる。


「敵艦隊見ゆ。軽巡らしき先頭艦の後ろに駆逐艦らしき2隻の単縦陣。報告通りです」


「敵先頭艦より発光信号!国民党軍へ兵器を密輸する輸送船団に告ぐ。直ちに停船の後武装解除して投降せよ。さもなくば撃沈する。以上です」


「我が護衛する輸送船は日本船籍であって、正当な権利を有する中華民国への貿易船である。停船は承諾できない。そう送れ」


「返答無し。敵艦隊、速度増します」


やつら、本当にやる気なのか?特徴的な上部構造物で本艦が高雄型だと気づくのは容易だろうに。


「右砲戦用意。目標敵先頭艦。」


こちらが格上だと気づいているだろうに、突っ込んでくるとは。アカの連中といえど、海軍魂は共通なのか。


「速度増せ。第五戦速」 「速度増します。第五戦速」


いや、違うはずだ。政治将校のせいか。共産党への忠誠さえあれば戦闘に勝てると信じきっている彼らのせいで突撃以外の選択肢を選べないのだろう。気の毒だとは思わないが。


「我、中華民国海軍巡洋艦"カオシュン"中共軍と見られる艦隊からの攻撃を受け、艦長の判断により反撃する。1344 」


「奴らが撃ち始めたら基隆とやつらに聞こえるようにそう発信しろ」


「艦長、書類上本艦はまだ日本海軍の所属でありまして…」


「航海長、そんなことは分かっている。だが、日本に要らぬ火の粉を齎す訳にはいかん。おい、通信士!責任は俺が取るからそう発信しろ、いいな!」


その刹那、敵艦隊が一斉に煌めいた。

連中の備砲では届くかすら怪しい距離だと言うのに。せっかちなことだ。まぁ、先手を取るというのが心理的に重要なのは承知しているが。


「距離約2万。敵艦発砲」


「交互射撃、撃ち方初め!」


"たかお"はその瞬間を待ちわびていたようだった。4年ぶりに放たれた20サンチ砲弾が空を駆ける。初弾であるし、交戦距離はようやく想定距離を割った頃だから、命中を期待することは出来ないが、相手に「撃たれている」という焦りを抱かせることは出来る。


程なくして"たかお"前方500m程にいくつか水柱が立ち上がる。


「敵艦の射撃、全て近弾。本艦に影響ありません」


「よろしい」


さて、次はこちらの弾が届く頃だ。初弾命中など期待出来そうもないが、


「弾着今。遠、遠、遠、遠、近!只今の射撃、敵先頭艦を夾叉」


「でかした!斉射急げ!」


志水がそう叫ぶと同時に彼女の主砲が再び火を噴いた。

砲弾が届くまで約20秒。半分が過ぎた頃で"たかお"の前方に発生した水柱は先ほどのそれより距離が近づいているが、志水は意識的に気付かないふりをした。


「第1斉射、弾着今」


「敵先頭艦に命中弾!」


歓喜の声が響く艦橋の空気を割るように、双眼鏡を構える下士官が続ける。


「敵先頭艦に命中2、いずれも艦中央部」


「火災発生、速度落ちます」


「目標を敵二番艦へ変更。次弾急げ!」


志水は伝声管へ向かって叫ぶと、窓の外を見やった。

煙を上げて燃えている巡洋艦が肉眼でも見える。


とはいえ、敵艦に命中弾を与える幸運に預かる権利を持つのははなにも志水ら"たかお"の乗員達のみであるはずはなかった。

駆逐艦"鞍山"が放った13cm砲弾が"たかお"に命中したのは、"たかお"が次弾を放ってから6秒ほど後の事だった。


「被害知らせ!」


「艦前方に被弾。損害軽微。本艦戦闘航海に支障なし」


「よろしい」


とはいっても、この辺りが潮時なのではなかろうか。

"たかお"に与えられている任務はあくまでも台湾まで輸送艦をエスコートすることであって、アカの艦隊を撃滅することではないからだ。


「敵二番艦前部に命中弾1!」


つんのめるように速力を落とした敵駆逐艦を避けるように、敵三番艦は転舵を始めていた。先ほど見張り員から、"黄河"が傾斜角度を高めている事が報告されていたから、そちらの救援に向かうのではなかろうか。


「敵艦隊の組織的抵抗は終了したと認む。救護も必要なさそうだ。取舵一杯。厄介な航空機が出てこないうちに台湾へ向かおうじゃないか」


「取舵一杯。台湾へ向います」


通信士の報告によれば、押っ取り刀で基隆から出撃してきた駆逐艦"衡陽(ホンヤン)"(旧 "楓")と輸送船団は無事に合流、基隆へ到着したらしい。

少し遅れたが、"たかお"も無事、基隆へ到着することができた。


「しかし艦長、譲渡後の艦名なんてよくご存知でしたね」


戦時中であるから質素なものではあったが、しめやかに行われた引渡しの式典を終え、中華民国海軍の施設へと向かう道すがら、然内は志水にそう問いかける。


「ん?俺の願望を言ったまでだ。だいたい、高雄市は京都の高雄から名前を取ったんだから、こうなるべきなんじゃあないか?」


中華民国海軍 巡洋艦"高雄(カオシュン)"が第一艦隊の旗艦に指定されるのは、その翌日の事であった。

この世界では軽巡洋艦"黄河"は49年の3月20日に自沈する運命から逃れています。

何もかも上手く行き過ぎてる感が否めないですが、私の文章力ではこれが限界でした

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