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ナナイロをまとうもの  作者: 緋那真意
第四章 水の盟約
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五十一.泥払い

 少女は次の展開へ移る前に呼吸を整え直していた。先程工匠から指摘された通り、些細な失敗であっても全体の破局に繋がりかねない。これまでの過程についても細心の注意を払っていたが、今度は自身でも元々限定的にしか制御出来ない要素を用いる。不安が無いとはとても言えなかった。

 しかし、それを打ち消すように届く背後からの眼差しと意志が背中を押してくれる。


(ありがとうございます義父さま……そうですね、ご心配は無用です)


 そう、想いを返していた。別に失敗を恐れない訳では無い。失敗したらしたで自分の役割はそこで終わりだとも思う。


(……体のナナイロを削っている以上、どのみちわたしには後がないですし)


 七色に染まっていた髪の色は、レディの体内に蓄えられた七素の影響を強く受けていることを表していた。その力をあえて偏らせ発現させることででいの力を貫き、自身と桐乃の身体状態を同期させている。危険なやり方なのは承知であり、泰輝はともかく陽向が事前にそれを聞いていたら間違いなく制止していたに違いない。


(あ……痛っ! ……流石に泥の塊を一部とはいえ体に迎え入れるのはきついですか……!)


 本来なら到底受け入れられない異物の存在に身体が悲鳴を上げた。桐乃に貸している火と木の空きを泥が見逃してくれるはずもなく、治療の妨害をしつつレディの身体へと侵食を仕掛けてくる。

 赤と緑に染められていた髪の色が一部黒へと変色していくのを見て、流石に危険を感じたのか防人が「無理はよせ」と忠告した。


「身を切る覚悟は認めるが、それでお前が代わりに倒れたら本末転倒だ」

「私が駄目でもあなたに引き継げるなら意味はあります」

「……宇野殿や川津殿への手前もある。今更だろうが助太刀いたそう」


 そう言い、防人は懐から短刀を取り出す。しかし、鞘から抜かれたはずの刃が見えない。レディの表情はそれを見て更に険しくなった。


「『空』を斬る刃……それを持っておいて、なお私を試すつもりだったんですか?」

「そう取られても仕方はないが、俺にとっても何度も使える代物ではなくてな」

「……でしょうね」


 二人のやり取りを聞いていた泰輝は、ここまでの彼の立ち回りや不自然なまでの消極的姿勢について、ようやく合点にいく理由にたどりつく。


「防人殿、お主の狙いは泥の根源か?」

「それもあるが……一番の目的は事実を故意に隠蔽している輩だ」

「……白華……」

「それ以上の説明は後回しだ。人を侵す泥をえぐり出す!」


 告げると同時に手は動いていた。振るわれた不可視の刃が桐乃を呪縛していた紐状の泥を全てなぎ切り、それらが再生するより早く擬胴もどきの本体へと突き立てられる。

 その瞬間、桐乃の口から弱々しい声がこぼれ出し、擬胴もどきの方からも不気味なうめき声がどこからともなく響いてきた。


「お師さま……」

「ギィィ、ギィィ、ギィィィィィ……!」

「泰輝さま!」

「任せろ!」


 レディの声に間髪入れず応じ、泰輝は桐乃を強引に擬胴もどきから引き剥がし川津と陽向へ託すと、自身も抜刀する。その刀身には紅い光が宿っていた。


「ギィィィィィ!」

「失せよ! 古き泥!」


 火の力を帯びた刃を振り下ろす。真胴より小型とはいえ人より数尺も大きな物体に対し、人の刀で斬りかかるというのは本来なら愚行としか言えないが、今は違う。

 擬胴もどきの装甲が飴のように溶けて切り裂かれ、がらんどうの中身があらわになった。それでも諦め悪く再生し無防備なレディに触手を伸ばそうとするが、それを読んでいた防人が不可視の刃を再度振るい退ける。


「……終わりだ!」

「ギィィ、ギィィ、アマミ……フジ、ワレ、ノ……!」

「分かってますよ……これで終わらせるつもりもないですから」


 レディの醒めた声が終わりを告げ、泥はどこへともなく消えていった。


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