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ナナイロをまとうもの  作者: 緋那真意
第四章 水の盟約
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四十四.火種

 夕刻になり、泰輝と防人は揃って里周辺の巡回を開始する。他に自警団へ参加している住民たちは交代しながら内側の守りを固めていた。


「さて、賊共は現れるであろうか?」

「来ぬのならそれに越したことはないが、な」


 一言二言、と話しつつ目を光らせる。里の周囲は平坦な地形で街道も通っているせいか夜に近い時間ながらもまばらに旅姿の人間を見受けられた。


「そう言えば、防人どのは茶渡のご出身とのことだが、当地ではいかがお過ごしであられたのかな」

「お話するほどの事はありませぬよ。国同士の争いこそありませぬが、暮らすには痩せている土地柄ゆえ楽ではなかったですよ」

「なるほど」


 北の大地も山国も暮らすには楽などないか、と頷く泰輝に防人は「それがしには貴殿ほどの労苦はありませぬ」と返す。


「私が蒼司に入った頃は散々紅城の真胴者についてお聞きしておりましたが」

「はは、そういう話は盛りつけが大きくなりがちですから、あまり話を真に受け取られぬよう」

「そうですかな? それがしは不勉強ながらも、仇名が増えるのは身に堪えるものと理解しておりましたが」

「……なに、譲れぬものがある以上は避けては通れぬ道でござるよ」


 その問いに対しとっさに応じられず、やや抑えめに心境を語った。実際、蒼司の侵攻以来常に前線で戦い続けていた泰輝にとって相手からの敵意など気にしている余裕もなく、相手から忌者いみもの扱いされていることすら戦意を高めるための材料にしなければ戦い続けられなかったと思う。

 今でもその考えや手段に変わりはないものの、こうして客観的にことを指摘されてしまうと複雑な感情が湧き出すのを抑えきれない。


「心がお強い。その姿勢、見習いたいものです」

「そう言う防人どのこそ、何故に武者修行の旅などしているのか。お聞かせ願いたいものだが」

「茶渡ばかりにいては分からぬことも多い。不二各地を巡り、己の知見を広め闘技をより高みへ……特別な願いでもありますまい」


 実の話、擬胴の操縦だけではいささか物足りぬのですよ、とも付け加える。個の武を極めるという純粋な姿勢、求道者としての側面を見せた防人であったが、泰輝はそこに思考の隙間を感じ取っていた。

 単に武を磨くだけならば戦場に身を置く方策も考えられる。実際、紅城も蒼司も流れ者を戦力として募っており、蒼司領内を通っているのなら勧誘されたことも一度や二度ではないだろう。しかし、話や態度から察し得る限り彼からはそうした意欲が感じられない。戦いを嫌いながら一方で武の完成を目指すというのは、完全な矛盾とは言い切れないものの相当な遠回りであり、にわかには理解できない行動であった。

 なれば、と泰輝が更に思案を巡らせようとしたとき不意に警告音が操縦席に響き渡り、慌てて意識を引き戻す。擬胴らしき熱源反応が二体感知されていた。

 現在地は水盟の中心地に向かう街道からは外れた林の中であり、果取の里からもそう離れていない。


「来ましたな」

「断定は出来ぬが……日が沈む頃合いに擬胴を用いているとなれば注意を怠る訳にもいかぬか」


 二人はそれぞれの乗機の動きを止める。こちらも相手側に探知されているとして迫ってくるなら正面から相対し、そうでなければ相手を深追いせずに泳がせれば良い。

 探知図を見ていると相手も動きを止めて出方をうかがっているように見える。しばらくお互いに動かないまま時が過ぎていき、先に動き出したのは相手側であった。ゆっくりと接近してくる。


「さて、本当に仕掛けてくるかどうか」

「五分五分から一割ほど天秤は傾いておりますが、こちらは待つのみ」

「ふむ、構えぐらいはしておくべきです、か」


 防人が沙琉に槍を構えさせたのと同時に銃声が響き、飛んできた弾丸を回避した二人はそのまま迎撃態勢に移った。


「全く、せわしいものよ!」

「なに、この程度ならば余裕もある!」


 二人に焦りはない。初撃が単発であったことを踏まえるならそのままでは連射出来ないことを示している。しかし、動かなければ接近されてしまう以上狙いをつけるより先に仕切り直しで動かざるを得ないはずであった。

 案の定、相手は逡巡するようにのろのろと後退していく。予想を的中させた泰輝と防人は一気に間合いを詰めて相手を視認できる距離まで接近していった。

 捕まえられればそれで良し、逃がしたとしても相手の擬胴の記録を押さえておけば後々役立てることも出来る。

 相手もそれに気づいたのか、緩慢な動きから緊急回避に移行したが間に合わない。追いついた泰輝たちは相手の姿を視認した。


「あれは……」

静航せいこう、だと!?」


 銃を携えた青い機体に泰輝は目を疑う。名は体を表すの言葉通り、主に蒼司領内で普及している擬胴であり、泰輝は元より防人もよく知る機体だった。


「泰輝殿!」

「見逃す理由はない!」


 返事を返す前に泰輝は行動を仕掛けている。角翠で出せる限界速度で突進を仕掛け、回避しようとしていた相手の片足に素早く長巻を突き立てて動きを封じた。

 僚機の様子を見たもう片方は自身に向けられた沙琉の槍に対して、銃身を犠牲にして受け止めた末に形振り構わない乱暴な動きで後退していく。防人は深追いせず角翠に合流し、それと入れ替わりとなる格好で黒装束に身を包んだ女性が逃げていった擬胴の方へと駆け出していった。


「泰輝殿、捕らえた賊は……」

「……間に合わず、だ」


 苦虫を噛み潰したような硬い表情で返事をする。開け放たれた静航の操縦席では一人の男が事切れていた。念の為に所持品を改めてみたものの所属を示すようなものはなく、機体にも相手の正体に繋がるような手がかりは残されていない。


「手抜かり、とは言いませんがこれでは成果を出したとも言えませぬな」

「……連れが追跡を仕掛けているゆえそれに期待しましょう。我々はひとまずこの機体を持ち帰り、川津殿に検分を依頼するべきかと存じます」


 提案を受け入れた防人と共に鹵獲した機体を運搬しつつ、泰輝はこの先に待ち受けている展開を危惧していた。


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