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ナナイロをまとうもの  作者: 緋那真意
第四章 水の盟約
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三十九.白か黒か

 一行が遥平の工房に到着すると、整備場と思しき場所の入口で当人が出迎える。


「川津遥平殿でございますな? それがしは宇野泰輝と申します」

「いかにも。私が川津遥平でござるが……宇野殿は紅城よりここまで旅をされてきたとのこと。それまで整備はどのような形で?」

「週に一度、無論細部にまでは手が及んではおりませぬが……」


 泰輝の言葉に頷いた工匠は続けて、案内を務めた弟子に視線を向けた。


「桐乃、そなたの見立ては?」

「確かに損傷は甚大ですけれど、一番の問題は負荷のかけ過ぎです。真胴並みの動力で動かしていたような劣化があちこちに見られております」

「……なるほどな」


 やや考えながら弟子の言葉に相づちした遥平は、今度は陽向と共に機体から降りて控えているレディを見る。


「お嬢さん、失礼ながら君は何故旅などしているのかな?」

「私は父上と母上の子供ですから」

「ほう」


 意表を突かれた、というようにその瞳を覗き込む。


「親元を離れたくないのは理解も出来るが、待つのは嫌かね?」

「はい」

「川津殿?」

「……いや、これは失敬。細かなことに意識が向いていたようです。それよりも仕事ですな。擬胴を整備場へお入れくだされ」


 遥平は自ら誘導して擬胴を整備場へと迎え入れると、損傷を確認しつつ桐乃と泰輝から聴取を行った。


「ふむ、確かにひどい破損具合ではありますが似たような修理を何度か経験はしておりますのでご安心なされ……ただし、相応の賃金は頂かねばなりませんが」

「直る見込みがあるのですならば費用を惜しむつもりはありませぬ」

「それは結構ですな……なれば、その一割として質問をいたしますが……」


 遥平は泰輝の目を見据えつつ言葉をつなげて問う。


「この機体……亜夏ですな?」

「えええ! お師様、大きさが違いすぎませんか? それに亜夏といったら紅城の……」

「桐乃、余計な口を挟むでない……それでどうなのですかな、宇野泰輝どの?」

「なにゆえ……そうだと思われるのですか?」


 泰輝は即答を避けて、理由を先に質した。偽りを伝えるつもりはないものの、あまりにも見破られすぎであるうえ、先ほどレディにした質問が少々気になってもいる。

 工匠は頭に浮かんだ考えが確信へと変わっていくのを感じつつ、慎重に言葉を選んで口を開いた。


「……私は若い頃、白華にて技術の修行をしておりましてな。一番最初に内部構造を教わった際に教材として与えられたのが和夏わか……亜夏の雛型として採用された最初期の真胴です」

「……」

「白華での修行は座学よりも実修が重んじられておりましてな。和夏を与えられたのも『それを稼働出来る状態にせよ』というのが最初の指示でありましたゆえのこと」


 まあ無茶もよいところでしたが、と苦笑いを浮かべつつ遥平は最初の答えを示す。


「構造を見ただけですぐにわかりましたよ。特に腕部の構造は教練所の教官より何度となくやり直しを命じられた、私にとっては因縁の深い箇所ですので」

「大きさが異なる点につきましては?」

「致遠投影でしょう? 分かりますよ」


 当たり前のように用いている術を言い当てられたレディは露骨に嫌そうな表情を浮かべた。現実に慣れてきたとはいえ、またしても白華に裏切られたような心持ちになる。


「それじゃあ、私のことについてもご存じですか?」

「さて、そこまではまだ理解できませんな。似たような方を一度だけお見かけしただけですので、それを思い出したに過ぎません」

「白華……で、ですか?」

「そこは明確に違うと申し上げておきます。私が水盟に移り、桐乃が弟子入りする前の話になりますな」


 その答えを聞いた七色の髪の少女は当てを外されたと言わんばかりに首を傾げ、それを見た泰輝と陽向は不思議そうな目で顔を覗き込んだ。


「どうしたのレディ?」

「あ、いえ、ちょっと思い込みが過ぎていたみたいです……それより修理のほうは引き受けて頂けるのでしょうか?」

「そのように心配なさらずとも大丈夫ですよお嬢さん。私も真胴の工匠です。たまには本業に勤しまねば腕が錆びつきます」


 やや心配そうに訊いてくる少女をなだめるようにしながら、遥平は居住まいを正して泰輝に最後の確認を行う。


「先頃噂になっていた三つ巴はあなた方も関わっておいでですな……お相手は白ですか、それとも黒でしょうか?」

「いえ、あれはどちらでもありませぬ」

「ほう」


 興味深そうに息を吐きだす工匠に、泰輝は自らの考えを伝えた。


「彼らは我々より先を行くもの……その身にまとう色が何であれ、まずは追いつかねば白黒を判ずることもできませぬ」

「なるほど、敵味方を定めるにはまず己が対等にならねばならない、と?」

「何卒、ご助力を願います」

「よろしいでしょう。わが手腕に誓って万全、いえそれ以上に仕上げましょう」


 その言葉に泰輝は深々と頭を下げ、陽向とレディもそれに合わせる。遥平は桐乃に書面の用意を命じ、自身は修理の手順を頭の中で組み立て始めた。


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