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ナナイロをまとうもの  作者: 緋那真意
第三章 奇才、野望ばかり
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二十六.それぞれの隠し事

 宮里の町役人から事情聴取を受けたあと、宿を取った泰輝たちは改めて喜央斎たちについて話し合う。


「お疲れですね泰輝さま。次はどうなりますかね?」

「俺に聞くなレディ。お前こそ奴を見て思うことがあるのではないか」

「そうですわね。真胴を無くすのがあなたの目的なのでしょう?」

「それはそうです。でも、だから殺せというのも乱暴かな、とは思います」


 力でねじ伏せるのならばもっと簡単に出来るしやっていた、と真面目くさってレディは言うが泰輝にはその裏の意図がうっすらと見える気がした。


「お前の言う『真胴を無くす』には喜央斎のような奴も必要ということか?」

「目的と矛盾しませんか? そのような考え方は」

「……あの人から真胴を取り上げるのは不可能だ、と言うのは正しいです。ですけれど、喜央斎さんみたいな人がいるならそれはそれでも構わないと私は思います」

「市井の意見まで無理に変える必要はないと言いたいのか?」


 泰輝の言葉にレディが答えるより早く陽向が「それでは都合が良すぎるのではなくて」と口を挟むものの、少女は小さく首を横に振り、ここまでの間に記録だけではない不二の実情を目にしてきたと語った。紅城に蒼司、黄路……白華の臣にも会い、天海では知り得なかった黒荘の存在にも触れることで、考えるところがあったという。


「天海は不二に真胴をもたらしました。それが不二に生きるもののためであると認識していたからです」

「そもそも、何故天海は真胴などというものを我々に与えたのだ? お前なら知っていよう」

「それが生きるために、不二にとって求められていたから……」

「生きるために真胴が求められるほど、不二は危機に脅かされていた、と?」

「少なくとも、ことの起こりはそういうことです陽向さま」


 では、その危機とは何だったのかと泰輝は問おうとしたところでそれを止めた。レディから強い否定の意思が伝わってくるのを感じ、話を切り上げる方向に質問を変える。


「白華にたどり着くまでに、それが分かるということか?」

「そう思っていてください。そして、私の使命もその過程で柔軟に変えていく必要があります。御名方さんの言っていた通り、本当に不可能ならば天海の意思は私を見捨てるかも知れませんけれど」

「白華はあなたを受け入れるのに否定的みたいだったけれど……」

「入口の話だけで拒絶するほど愚かでもないですよ。つながりがありそうな黒荘たちはどう思ってるか知りませんが」


 あの人たちもどうしたいのですかね、と言うのに泰輝の心は奇妙な納得を感じた。レディは自分のやり方が正しいのかを試しているのかもしれない、と。陽向はまだ釈然としていない様子を見せたが、それ以上は何も言わず静かに酒を口に含んだ。



 翌日の昼頃、紫建の本拠である東風谷舘こちやたてでは領主である義詮よしあきらが腹心の大貫おおぬき大座だいざに政策課題の一つについて意見を求めている。


「交易協定の見直しは進んでおるのか?」

「黄路が譲歩を表明したことで白華も納得したようです。来月にも更新が終わる見込みとなりました」


 家老の言葉に領主は満足そうに頷いた。白華との協調を国是とする紫建にとり関係の悪化は避けたいところであり、他国間交渉においてもそれは変わらない。今回は黄路が白華の示した条件に対し難色を示していたため、交渉が長引いていた。


「紅城と蒼司の戦いもまた激化の兆しが見えつつある。水金や緩竹の流通にも影響は必ずでてくるであろう」

「紅城といえば、例の輩が我らの領地に入っているそうですな」

「うむ」


 義詮は頷きながらちら、と天井を仰ぎ見る。


「天海の使者を伴い、白華を目指しているという……」

「天海のことは白華に任せればよいが、わざわざ南回りで向かうとなれば考えることもある」

「途中、水盟の東岸を経て藍掛に向かうとなれば、領内を抜けるのにあと半月以上はかかるかと」


 大座も主君と同じように天井を見やると、体を近づけて声を潜める。盗聴されているのは承知の上だった。


「喜央斎めが付け狙っておるようで」

「彼奴の動きが紅城の輩に向いているのは我々にとっても望ましい」

「左様でございますな」


 白華から半ば追い出される形で転がり込んできたあの技術者は我が強く、これまでも何度か騒動を引き起こしては遁走することを繰り返している。一応要請があって保護という体裁をとってはいるが、紫建としては腫れ物のような扱いであった。それが別な方向に視線を向けているのは歓迎すべき事案といえる。


「この際、道連れとしていただくと助かるのですが」

「紅城の宇野泰輝……生真面目な男と聞いている。定紀めに貸しを作る意味でも好きにさせておくのがよかろう」


 主従はほくそ笑みながら頷きあっていた。多少の不利益には目をつぶればよい。



 同時刻、紫建と藍掛の境にある楢木山の奥深くでは黒衣に身を包んだ男たちが会話を交わしている。


「天海の娘は我らの地に近づきつつある」

「だが、目的はあくまで白華のはず」

「今動くのは得策ではあるまい」


 活発に発言が飛び交う中、一同の長と見られる壮年の髭男が沈黙している隻眼の男に問いかけた。


「鵜珠来よ、そなたはどう考えている?」

「仕掛けるのであれば藍掛に到るまで待つべきかと……しかし、紫建にいる間であれ何らかのけん制は必要でしょう」

「あの男は動けるのか?」

「措置は終えております。顔を見せる程度なら問題はありません」


 鵜珠来喜都は淡々と報告を行い、それを聞いた長は末席に控えていた若い男に目を向ける。


「名嘉よ、天海の娘をそなたはどう見た?」

「あの力は未だ本来の力ではないと捉えました」

「ほう」

「体を借りている故だけではなく、恐らくは白華に意を見抜かれぬよう天海の手で意志の制限を施されているのでは、とそれがしは考えております」


 あり得ますな、と同意の言葉が誰かから上がった。彼らが天海から身を隠しているのと同じように、天海もまた白華に真意を隠す必要があったのだ。両者の関係は友好ではない。

 ひと通り意見を揃えた長は断を下す。


「良く分かった。ならば鵜珠来よ、そなたは水盟との境へ赴き娘を迎えてやれ」

「はっ」

「白華に対する抑えは如何に?」

雑出さいで伊良いらに任せる……名嘉よ、そなたは今しばらく伏せておれ。捲土重来、我々はまだ耐えねばならぬ」

「……承知しております」


 その言葉を確認した長はその場から姿を消し、他の一同もそれぞれの役目を果たすべく散っていった。

 最後まで残った鵜珠来と名嘉は短く言葉を交わす。


「今回は私に任せるのだな、お前はまだ若い」

「お気をつけて。せっかく手に入れた新しい手駒を失いたくは無いでしょう?」

「驕りはしない。案ずるな」


 鵜珠来は淡白に応じると無表情のまま姿を消し、名嘉も舌打ちを残してその場を後にした。


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