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ナナイロをまとうもの  作者: 緋那真意
第二章 黄天の霹靂
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二十一.奪還

 泰輝たちは勘亀を蹴散らしながら其角院の門前までたどり着く。


「レディ、何が感じられるか?」

「特に反応はありませんねえ。もっとも、いきなり飛んで出てくるかも知れませんけど」

「もう少し便利にならないの?」

「そんな、今が不便みたいな言い方しないでくださいよ陽向さま」


 見えない相手を探知するのも楽じゃないんですから、とすねたように口をとがらせたレディだったが内心では事が思い通りにならないもどかしさに悩みも抱いていた。天海から出るときには想像もできなかったことばかりである。

 泰輝はそんなレディの悩みを感じ取りつつも目の前にいる敵の片腕を切り落とし、黙ったまま水面画みなもえを見つめた。ここまでにかなりの数の擬胴も倒してきたが、これらはまだ雑兵に過ぎない。正面からはくちなし色に染められた真胴が六機迫ってきている。


「泰輝様!」

「ここからが本番だぞ陽向……レディ?」

「照合は終わってますよ。あれが高雅こうが、黄路制式の真胴で間違いありません」


 ひと目で分かるほど分厚い装甲に覆われた機体は普通の太刀程度では通じるように思えず、揃って光弩こうどを構えていた。汎用性を重視した亜夏や阿尾とかは異なり守勢に力点を置いているのがわかる。それを見た三郎は身震いした。


「泰輝どの、このままじゃまずいですぜ?」

「レディ、周りに異変は?」

「駄目です。どこかでこちらの動きを見られてるんじゃないですかね?」

「虎穴に入らずんば虎児を得ず、か……やむを得まい。レディ、ナナイロを!」

「了解でーす!」


 返事と同時にレディは詠唱を開始し、赤色の擬胴はみるみるうちに七色に彩られた真胴へと変化していく。高雅はそうはさせじとばかりに光弩を斉射するが、それらは全て届く前にあらぬ方向へ弾かれてしまう。


「すげえな、おい!」

「こんなこともあろうかと偏光防壁を展開済みです。それより三郎さん、今まで以上にしっかりついてきてくださいよ!」

「押し通す……遅れるなよ桐生!」


 泰輝は踏圧板を力強く踏み込みナナイロを突進させた。待つのは性にあわない。雨あられと放たれる光弩の矢を防壁で弾き間合いを詰め、三郎の操る勘亀がその後を必死の思いで追走する。

 光弩の雨を物ともせず接近してくる七色の真胴に高雅隊は少なからず動揺を見せながら攻撃を強めるも効果がない。そして最前列にいた一機が腕を切り落とされた。


「流石です泰輝さま!」

「まだ一機だけだ……陽向、すまぬが急ぎひと仕事してくれ」

「成高様のことでございますね?」


 陽向は素早く返事を返すと、座席を離れてレディの用意していた非常口から機体を降りて其角院内部に向かっていく。その間に先程斬った相手を蹴り飛ばし別の相手にぶつけて戦意を削いだが、その隙を突くように残った機体が太刀を抜いて同時に斬りかかる。


「四機同時にか」

「まともに相手するだけ損ですね」


 泰輝は無理せずナナイロを後退させて間合いを仕切り直した。改めて向かい合う真胴たちの前に、不意に一機の黒い擬胴が現れる。


「名嘉沢倶!」

「久しいな宇野泰輝、そして天海の娘よ」

「私たちが手を出すのを待ってた訳ですか……性格が悪いですね」

「貴様らこそ考えなしも良いところだな。其角院に自ら争いを招くのか」

「それこそ今更だな。我々が無視したところで貴様のやることは変わらないのだろう?」


 名嘉の嘲笑にも泰輝は動じない。


「宇野泰輝! 父上は……?」

「愛依様! ご安心を……成高様に危害を加えるつもりなどありませぬ」

「それは貴様には決められまい。既に貴様は黄路にしかけているのだぞ?」


 名嘉は余裕を見せて、逆に挑発する。すると今度は三郎が食ってかかった。


「おい、あのときの黒野郎じゃねえか」

「ほう、三下風情が私を覚えているか。報酬は前金で渡してやったはずだが」

「うるせぇ! 最初から人を捨て駒にするつもりだったんだろうによ!」

「愚かなやつだ。それを理解しながら宇野泰輝に助力するとはな」


 問答を繰り広げられているうちに、今度は鎧で身を固めた成高がその場に姿を見せる。


「貴様ら、ここをどこだと思っておるのだ? この黄路成高の前で狼藉を働くか」

「おや、成高様。約束には少々お早いかと」

「父上!」

「愛依、無事であったか……! 良くやった黒荘とやら」

「確かに居場所は伝えました……見せただけですがな」


 名嘉はそう言いつつ擬胴に光弩を構えさせ成高に向けた。


「な、何を……!」

「あなたの役割はこれで仕舞と言うわけですよ……黄路の真胴をお分けくださり言葉もございません」


 言うなり光の矢が放たれるが間一髪のところで陽向が現れて成高を強引に抱きかかえてその場を離れる。


「父上!」

「ちっ、仕留め損なったか……まあいい。すぐに私の力を見せてやろう」


 名嘉は後ろで騒ぎ立てる愛依を無視して呪言を発した。


「暗がりに証せし……ごうを制し介す……多重着装『報黒託生ほうこくたくしょう


 唱え終わるや否や、状況を見守るばかりだった高雅隊の機体の色が黒く染まっていく。


「あれは何だ? 我らの真胴が……?」

「話は後で……今は下がらねば危険です」

「そなたは……」

「これ以上、領家の当主を失うわけにはいきませぬ!」


 陽向はそれだけ言い、成高をひとまず三郎の勘亀に預けようと手を引きつつ離脱した。それを確認した泰輝はレディに問う。


「あれは複数に効果を出せるのか?」

「見た通りが全てです。私は知りませーん!」

「……やれやれ、このままでは負けられぬか」

「違いますよ、負けないんです泰輝さま。そのためのナナイロですから」

「最初と言っていることが違わないか?」

「たった今そう決めました! こうなったら何とでも戦いますよ」


 またしても自分の知らない術を目の当たりにしたレディがやけくそ気味に言い放つのを泰輝は苦笑いで受け止める。どうやら良い方向に気持ちが高まっているようだ。

 黒く染まった高雅たちが一斉に黒い光を射ってくる。


「レディ、光槍を使う!」

「了解」


 ナナイロの掌から虹のような光を放つ槍が生まれ、黒い光を薙ぎ払いそれを撃った真胴たちごと吹き飛ばす。

 その光景を見た名嘉は歯ぎしりした。


「おのれ! この程度で勝ったと思うなよ! 我が力は……」

「力が何だって?」

「むっ!」


 いつの間にか三郎の擬胴が名嘉の目の前に立っており、不意に体当たりを食らった名嘉は対応できずに直撃を受け、その衝撃で操縦口が誤作動から開いてしまった。それを見逃さず動かなくなった擬胴から三郎が飛び移ってくる。


「悪いが姫様は返してもらうぜ黒服野郎!」

「雑魚がっ!」

「生身の喧嘩で負けるかよ!」


 怒りの形相で殴りかかってくる相手を反対に殴り飛ばし、三郎は後部に縛り付られていた愛依を解放する。


「あなたの働きに感謝します」

「話はあとだ。逃げるぜ姫様」


 長居は不要とばかりに三郎たちはさっさとその墓場を離れていった。


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