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ナナイロをまとうもの  作者: 緋那真意
第一章 ナナイロの力
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十.吉日旅立ち

 七日後の出発に向けて三人は屋敷の整理整頓及び清掃を行いつつ、旅支度を行う。


「定紀様はこれを持って行けと仰られたが……」


 泰輝は立て膝の姿勢を取る愛機を見上げる。残り少ない亜夏一機を役目に必要とは言え気前よく与えてくれる辺り信頼がうかがえるのだが。


「このままではただの的だな……期待されているぞレディ?」

「分かってますよ泰輝様……暗がりに証せり……その権能の許に望む……『致遠(ちえん)投影(とうえい)』……許可確認」


レディが呪言を唱え終わると徐々に機体が小さくなっていき、二分の一ほどの大きさになったところで変化は止まる。作業などに用いられる擬胴ぎとうと変わらない大きさだった


「どういう仕掛けなのかしら?」

「簡単に言えば、遠くにいるかのように大きさを錯覚させる術ですね陽向様。そう見せているだけですからここからナナイロを展開させることもできますし、戦闘も可能です」


 ただしこの状態での戦闘はおすすめはしませんよ、と付け加えた。遠くから攻撃しているのと同じような感覚で戦力が弱まるという。


「あくまで目くらましということか」

「亜夏の大きさのままで動くよりは楽ですから……っとそうそう」


 レディはややこじんまりとなった操縦席に登っていくと最初と同じように掌に光を集めて照らしていった。


「今度は何だ?」

「最初の時は突貫作業で細かな設定が出来なかったから再調整を。それと陽向様用の座席も用意しないと」

「私は真胴に乗ったりしないわよ」

「あくまで非常用です。ここから先は何があるか分かりませんし、全員がひとところにいたいときに陽向様だけ外では悲惨な事になりかねません」

「……ありがとうレディ」


 少し間を開けて陽向はくすりと笑い礼を言う。泰輝もそれを見て自然と笑みをこぼす。


「その代わり私はお屋敷の様子は今ひとつなので」

「はいはい、お掃除は私の仕事ね」

「俺も行く。レディ、用があったら呼んてくれ」

「はーい、最終調整にはお呼びしますねー」


 二人は操縦席であれこれと作業を始めたレディを残して屋敷に入り掃除を再開する。泰輝の両親は既になく、居ない間は陽向の家族が管理してくれることになっている。


「まさかお前と一緒に旅へ赴くことになるとはな」

「泰輝様はお家勤めが忙しいですから、旅など想像もなさらなかったでしょうね」

「そう言えば、陽向がちょくちょく姿を見せなかったのは……?」

「芸事の修行ですわ」


 芸に達者でなければ世を忍びつつ人と交わることなど及びもしませぬ、と笑って話した。陽向はかなりの腕利きとして名が通っているようで時折見知らぬ旅人が家を訪れることもある。


「最初はお前が忍びだと全く気づかなかったが……父上も一言くらい申してくれれば」

「そこは泰輝様のご両親が徳の高いかたでしたもの」

「型破りな親ではあったな」


 泰輝の父泰正(たいせい)は物事を深く気にかけない自由奔放な性格で知られ、流れの芸人であった陽向一家を幕下とし、子ども同士の縁組をするなど紅城家中でも首を傾げられる行動を取っていたにも関わらず定紀からは厚く信頼されていた。


「定紀様はレディの物言いに父を見たのやもしれんな」

「ですわね……泰輝様の許嫁にと告げられたときは子供ながら何を仰られているのかと呆然としたものです」

「何を言う……小躍りして喜んでいたではないか」

「細かいことを言い募る方は宜しくありませんわ」


 突っ込みを軽やかにかわした陽向はほうきを取りに向かい、一人になった泰輝は神棚の掃除をしていく。信心は深い方ではないもののしばらくは見ることもないのが何となく心残りであった。


「親父殿、しばしのお別れだ。明かりをよく灯し、天に届けよ……と、今は天海より来た娘がいるか」


 父が生前しばしば口にしていた文句を唱えつつ丁寧に清めた神棚に祈りを捧げる。何気なく言ったものの、案外この言葉が縁となってレディと出会えたのかもしれない。


(やだなあ、泰輝様も夢見がちなんですね)

(いきなり割り込んでくるな)


 耳聡いと呼ぶべきか、レディが思考に割って入ってくる。


(でも、いいとこついてますよ。天海にいた頃から泰正様にもお引き立て頂いてまして……)

(嘘だな?)

(なぁんだ、信じないんですか?)

(そんな都合の良い話があるものか)


 一笑に付したのを感じ取ったレディの思念は若干へそを曲げた。


(いいんですよーだ)

(そんなことより、調整は済んだのか?)

「あ、そうですそうです! こちらにどうぞ!」


 念話から一転して大きな声を出して呼んでくる彼女に泰輝はやれやれと言いつつ再び庭へと向かうと、小さな亜夏はナナイロをまとっている。出力試験をしていたらしい。


「全力は出せそうか?」

「問題ありませんね。ナナイロを展開してもしっかり動けますし、そぅでなくても他所の真胴に簡単に押し負けないよう基本性能自体の底上げも施しました」


 レディが明るい顔で言うのに彼も頷いた。具体的には装甲の強化と操縦性の向上、及びナナイロを伴わない最大出力の増強ということで、そうそうナナイロを使うような事態に遭遇するとは思わないが亜夏の底上げは泰輝も望むところであった。


「不二も広い。紅城を出たことがない俺には想像もつかぬ真胴もあるのだろうな」

「真胴も場所ごとに求められることもかなり違ってますからねー……陽向様?」

「そうですとも。地の利を得ることの大切さは忍びも真胴も変わりませぬ」


 いたずらっぽく首を傾げるレディの視線の先に掃除を終えた陽向がいて調子を合わせてくる。その姿勢にかえって泰輝は安堵していた。


「ははは、頼もしい限りだな二人とも。地の利があって、天の利と人の利を備えれば何の心配もいらぬ!」

「油断大敵ですよ義父上様。旅先で策略に遭うことだってありますし」

「……それでなくとも女子に弱いですものね泰輝様は」

「何だその視線は……?」


 唐突に雰囲気が変わり顔を引きつらせるが、二人は露骨な作り笑いを浮かべて「ひと安心ですね陽向様」「そうねレディ、よくよく泰輝様を支えねばなりませんよ」と煙に巻こうとする。宇野泰輝という男は女に弱い、というのは紅城の女衆の中では公然の秘密であった。色男という意味ではなく女性に対する免疫が極めて低いのである。陽向が泰輝を射止めたのも純粋な好意の他「陽向なら彼を抑えきれる」という互いの親の意向があったことを泰輝は知る由も無い。


「……お前たちと言うものがありながら、俺がよその女にうつつを抜かすとでも言うのか?」

「そのことについてはレディが居りますゆえ何も心配しておりませぬ」

「流石に見え見えなんなら陽向様に即通報ですよ……見え見えじゃないならそれはそれで見てみたいですけれどねー?}

「……世知辛いものだな」


 張り切っていたのも束の間、泰輝は疲れたように肩を落とす。信頼はされているようであるが旅の間中この調子では、戦いの前から疲れ果ててしまいそうだった。一方の二人は目的は果たしたとばかりに晴れ晴れとした表情に変わっている。


「良かったですね陽向様」

「そうですね……ときに、私用の座席というのは?」

「そうそう、それもありました。こっちです」


 レディに促されて操縦室をのぞいた二人は正面を頂点として三角に配置された座席を見た。それぞれ席の大きさが異なっていて誰の席かがすぐに分かる。


「泰輝様が正面であるとして私たちの席の配置は?」

「利き手側の範囲を広く取りたかったんです。どちらがどちらという訳ではなく、身体の構造の問題ですね」


 小さいレディが右手側なのは万が一泰輝が重傷を負った場合にスムーズにレディが操縦を引き継ぐためでもあり、左側の陽向が利き腕で泰輝を支えやすくする工夫であるという説明に二人は納得した。


「ちゃんと考えてくれているのね」

「せっかく三人で乗るんですから、全員を生かせる形がいいじゃないですか」

「……ますます気合を入れなおせばならんな」


 さっきは出鼻をくじかれてしまったが、こうして旅支度が整ってくるといよいよ気持ちも高ぶってくる。女に弱いと言われてはいるものの、一方で子供のような純粋さを見せることもある真面目な男に一目置くものは数知れない。


「あとは出発を待つのみか」

「水や食料の調達もお忘れなく」

「陽向様、替えの服とか用意できますか? これ一着しかないのはすこーし不便で」

「レディ、そういうことはもっと早くに言え」



 上手く行っているようでぬけているような忙しさで準備を終えた泰輝たちは、定紀や家中の人々に見送られ、まずは北方の黄路きじを目指して旅立っていった。


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