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海色の自転車

作者: 椋鳥君

※手紙形式の短編小説です。


マリンからお母様に、自転車を買ったご報告です。

空を舞うエイは、今日も微笑んでいるでしょうか?

頑固者のお母様は、今日もしかめっ面なのでしょうか。

 親愛なるお母様、

拝啓

 ハマナスの花が咲く頃。いかがお過ごしでしょうか。

 わたくしは、陽射しを避けながら町を巡る日々です。


 思えば、わたくしが「地の上を、自分の足で歩きたい」と飛び出してから、1年が経ったのですね。

 その節は大変ご迷惑をおかけしましたが、今でもあの選択は間違いではなかったと考えております。なぜなら、これまで遠巻きに眺めるしかなかったこの町は、想像していたより何倍も美しいのです。


 ただ、一つだけ訂正するべきことがあります。

 私の足で立って歩く、と言いましたが、実は最近自転車を買ったのです。海に映える、エメラルドグリーンの自転車です。乗れるようになるまで何度も転んでしまい、買ってそうそう傷だらけですが……(私自身は、プロテクター?のおかげで、何ともありません。ご心配なく)。

 これがあれば、暑さを忘れて風を感じることができます。


 それでも時々、そちらでの暮らしを思い出します。

 特に、頭上を泳ぐマンタがにっこり微笑んでくれることがないのが、ちょっとだけ寂しいです。

 ■■■■

 ほんのちょっとだけですが、またそちらに行きたいなと、思うこともあります。

 お母様も、私の顔を見たら、マンタみたいに微笑んでくださるかしら?なんて。


 これからの季節、暑さだけでなく嵐にも気を付けてお過ごしください。

敬具

                  あなたの娘 マリナより、愛をこめて


‘_` ←マンタのお顔



**********************



漆原麻里奈 様


拝啓

 天気予報が梅雨を告げましたが、雨の降る様子はありません。こちらは変わりなく、強いて言うなら不要な程の冷房で凍えそうです。

 

 親しき中にも礼儀ありという言葉があります。書き損じを黒線で塗りつぶす癖はいい加減直しなさい。それから、後半は筆に動揺が見られます。他人様の前で堂々と出来ているか心配です。その他の事には、目を瞑ることにします。


 貴方が車椅子の練習を放り投げた時はどうしたものかと思ったものですけれど、歩くために十分努力している様も伝え聞いているので、その件についてとやかく言うつもりはありません。自転車についても、乗れるようになったのなら文句はありません。お医者様からも、大事無いという話を聞いています。

 とはいえ、自転車を買うのは良いけれど、そろそろ意地を張るのはやめて口座の番号を教えなさい。あなたの働く喫茶店の店長からも、頑張りすぎと報告が出ています。野菜の箱に封筒を仕込むのも、あなたや敦人さんがはしたないというから止めていたけれど、改善が見られないようならまた包みます。

 

 水族館くらい、いつでも見に来れば良いでしょう。ただ、東京はそちらと違って酷暑なので、きちんと備えてくるように。服に関しては、着る者のいない服を増やすなと言われているものがあるので、不要です。私が愛用していた洗濯機は捨てられたけれど、新しいのが入ったから、いくら泊っても問題はありません。


 また連絡しなさい。指定が無ければ、9月の連休に合わせて予約をしてしまいますので、そのつもりで。


追記、

 何度も言うようですが、あなたが見たのはマンタではなくエイです。


                  敬具

                  漆原 明日香


**********************

※登場する都市および施設は、実在のものとは関係ありません。


二作目です。

「自転車」と「海」をキーワードに短編を書いてみました。


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