第40話
第四十話 絶命
傷だらけの体を引きずりコロンの下へ急ぐカランだった。
コロンは老鬼と戦っているはず。実力的には明らかにコロンが不利の状態であることはわかっていた。
カランの加勢を待っているはずと、カランは急いだ。
開けた広間の中央に、コロンが茫然と立っている。老鬼の姿はない。
「コロン!」
カランはコロンの下へ駆け寄るが返事がない。というよりも放心状態というべきか。何にしろ生を感じない。
カランがノワールと戦っている同刻、コロンと老鬼の戦いにまで遡る。
――――
「小童にしては、やると思っとった。じゃがその程度じゃまだまだじゃのぉ。」
ナイフも届かず、ひらりと躱されるだけの戦いだったが、消耗しているのは明らかにコロンであった。
「はぁ、はぁ。まったく当たらないのです。」
「そらそうじゃろうて、ただ遅いんじゃ。速さこそ剣の神髄。姑息な手ほど読みやすいものはないんじゃて。」
瞬間移動からの奇襲は全く通用しない老鬼相手に苦戦を強いられていたコロンだった。
「わしがお主に手ほどきする理由はないのじゃからこの辺で終わりにするかのぉ。」
『「虚空」』
老鬼は刀に手を添えた。見えたのはそれだけ。コロンは切られていた。
「がっ!?」
おびただしい量の鮮血を吹き出し、体温が奪われていくのを感じるコロンは、その場に倒れガタガタと震えだし、絶命した。
「一瞬じゃのぉ。」
老鬼がそういったのが聞こえた瞬間、コロンはふと老鬼の横に立っていることに気が付いた。
「え?」
「なんじゃ?」
二人とも理解しえない状況に戸惑いを隠せない。今明らかにコロンは斬殺された。しかし、生きて立っている。先ほどまで倒れていたところには何もない。
すると、コロンが急に息を荒くし膝をついた。
「がっ、はぁ、はぁ…。」
コロンは、たった今死んだ現象を追体験したのだった。身体が痺れ、絶命するその瞬間を。
しかし、生きている。
「斬撃の耐性じゃないようじゃな。」
老鬼の追撃に辛うじて瞬間移動で回避したコロン。一度死んだという状態は心を抉り戦える状態ではなくした。
死して発動する影纏いの能力だった。
絶命した時、瞬時に蘇生する。というシンプルな能力。しかし、死の苦痛を追体験し、心を蝕んでいく。コロンは理解した。老鬼との技量の差を埋めるためには、この能力を使わざるを得ないと。
 




