第37話
第参七話 八つ当たり
カイルは、王国の選抜隊を止めたいという思いで必死だった。王国の反乱が魔族のせいにされている状態は許せるはずもない。だからこそ、選抜隊と合流して王国へ帰るつもりだった。しかし、それは叶わなかった。選抜隊とすれ違い、さらにはカオス・エンドからでも確認できるほどの戦闘が魔城で起きていることが分かったので、カイルは自分が選択した魔城を出る判断が間違ったことに気づいた。
カイルは急いで魔城に戻った。そのとき、巨大な爆発はカイルのすぐ近くで起きた。
誰と誰が戦っているのかが、気になってしまう。
魔城の仲間と人間の仲間同士がやり合っていたら、どうしようかと思うほど焦っていた。
しかし、そこにいたのは焦げ付いたストレンジラブと見知らぬ魔法使いだった。
「お前、ストレンジラブに何をした…。」
「君は!カイル君だね?探していたんだ!」
「うるさい。誰だろうが、僕の友人に手を出したのはお前か。」
「聞いてくれ!これは君を奪還するための任務だ。抵抗してきた魔族を倒したのは話し合いにならなかったからだ。」
「話し合い?王国の反乱が魔族のせいだって擦り付けたのは王国だろ?話し合いなんてもとからないじゃないか。」
「それは私たちも本意ではない。しかし、王国の現状を考えると仕方ないと割り切るしかなかった。申し訳ない。」
フィリッツは頭を下げた。
「ストレンジラブ。聞こえるかい?今治してあげるからね。『再生』」
焦げ付いた皮膚が本来の色を取り戻していく。瀕死状態だったストレンジラブは、カイルの手で元の姿に戻った。
「カイル様ぁ。お戻りになられたのですねぇ。あいつらはカイル様を連れ戻そうとしている王国の者です。どうか、どうか…行かないでください…。」
そういうとストレンジラブは気を失った。
「瀕死状態からの回復だと?魔法の領域を超えているじゃないか。」
「死んでいたら助けられなかった。運がよかったで片づけるほど僕の心は優しくないぞ。」
空気が変わった。フィリッツは怖気を感じ臨戦態勢になった。
「私たちは戦う意味がないと思うのだが、どうだろう?」
「そうかもしれないね。けど、僕は今八つ当たりをしたい気分だ!『雷電』」
激しい雷がフィリッツを貫いた。
「がは!」
『雷の複合属性だと!?しかもこの威力…。王国がこの子を取り戻したい理由がわかったかもしれないな…。今は回避に専念するしかない…。しかし、魔力の流れが自然体過ぎて攻撃が読めない。』
「『異次元移動』」
フィリッツは、瞬間的に別の次元へ移動し回避を試みた。
「そういうのいいから。『氷塊爆裂』」
次元のゆがみの先から勢いよくブリザードが噴き出した。
「なっ。彼の魔法は他次元にすら干渉できるのか!?」
ローブで氷の嵐を防いだが、片膝をつきダメージを堪えるので精いっぱいなフィリッツは、カイルの桁違いな魔法の暴力に縮こまって耐えるしかできなかった。
意識を失いかけているフィリッツは、反撃する隙も見いだせず、ただただ八つ当たりを受け続けた。
そして、最後に聞こえたは、『リプロ…。』というカイルの声だった。フィリッツは気を失った。




