第33話
第参参話 進軍
進軍準備を進めていた王国の選抜隊に進軍命令が下った。
選抜隊は、ヨウを筆頭に、ラヲハとロペのコンビ、カランとコロン。そしてフィリッツとその護衛。
フィリッツたちは、基本的に魔城外にいる魔族の殲滅。それ以外が四天王の対処とカイルの奪還である。
人数的にフィリッツの役割が厳しくなっているが、フィリッツがローランドの次に強いとされている腕前と護衛達の統率があれば長時間戦線を維持でき、かつ壊滅的な魔法を叩き込むことが出来ると踏んでのことだった。
「魔族領までは、数週間かかる。それまでいくつかの町を経由して出来るだけ温存した状態で進みたい。特に魔族領の中にも人間族がいる。それを利用し出来るだけ悟られないように進む。いいな。」
ヨウは、今回の指揮を執ることになっているため、道中のルートやその他の役割も柄ではないが、頭に入れている。
「王国の警備を手厚くする必要があるため、戦力は最小限。時間も長期戦には出来ない。各々が戦闘のなかでより成長していくことを祈る。」
フィリッツが体躯に合わないもの言いで、気合いを入れる。
「んじゃ、そろそろ行くか。」
ヨウが声をかけ、選抜隊が王国を出発した。
――――――
そのころ、魔城では、ニブルスと四天王そしてカイルが、集まっていた。
「王国より選抜隊と思わしき部隊が魔城に向かっていると偵察隊から報告がありました。」
ノワールがニブルスに報告した。
「そうなんだ。カイルを取り戻す準備ができたんだね。で、カイル自体はどうなんだい?」
「…。友人と話はしたいと思ってます。」
「正直言うと、その友人との関係に僕が口を出すことじゃないと思ってるけど、もうさ、いいんじゃない?」
「もういいっていうのは?」
「いや、カイルは過去に囚われすぎだから、もうこの際全部リセットしてしまえばいいんじゃないかってこと。友人って言ったって数年の付き合いでしかないでしょ。」
「…。それでも彼らは僕のために迎えにきてくれることに答えたい。」
「違うよ?王国は、反乱を魔族のせいにしたから、討伐対をこっちに寄こしているんだ。カイルの奪還ていうのは、おまけのようなものだよ?」
「は?なんて?」
「いや、だから王国は反乱を魔族のせいにしたんだよ。だからこれから戦うんだ。それとカイルの人外の力を取り戻すために友人まで使ってさ。まさに人間の考えることだよね。少しむかつくよ。」
カイルはそう聞かされて、自分の信じていた仲間がいる王国に強い不信感を抱いた。
「友人たちは利用されているだけだと思うので、見逃すことはできませんか?」
「それはカイルはもう人間族のところに帰らないということかな?」
「はい。僕はもうここを出ていこうと思っています。」
「うん?聞こえなかった。もう一回言ってみて?」
ニブルスの淀んだ目がさらに黒くなった。
「僕は魔城から出ていこうと思っています。皆さんに迷惑かけることになるし、僕が戻れば王国も進軍をやめるかもしれないので。」
「あのさ、カイル。友人として言わせてもらうけど、人間族に利用されているのは君なんだよ?そもそも自国の反乱を魔族のせいにして進軍してくるやつらに僕らが何もしないで迎え入れると思う?さすがにここまで寛容な気持ちにはなれないよ。」
「わかっていますが、争いごとは何も生まないってこともわかってもらいたい。」
「うーん。攻撃してくるのは人間族のほうなんだけどね。僕を説得するんじゃなくて人間族に言ってもらいたいよ。」
「なので、魔城から出させてください。」
「うーん。どうしようかな…。まぁ止めても行くんでしょ?仕方ないや。好きにするといいよ。その代わり僕も好きなようにさせてもらうからね。」
「ありがとうございます。」
――――――
身支度を整えたカイルは、魔城を後にしてカオス・エンドへ向かった。




