第31話
第参壱話 魔城にて
そのカイルは、自分に割り当てられた部屋に引きこもっていた。
何をやるわけでもなくベッドの上で一日中過ごしていた。たまに来るのは、食事を運ぶメイドと、診察Dr.ストレンジラブくらいだ。
レーティアの死をきっかけにすべてどうでもよく感じてしまっているカイルは、抑うつ状態になってしまった。というよりも、前世でも抑うつ状態であった。何もない日々に何かする活力も湧いてこない。ただただ時間がすぎるのを待ち、眠るの繰り返し。こんな生活をしている自分に自己嫌悪し、どんどんイライラが積み重なってどす黒いものになっていくのがわかる。今では、何に対して不安や不満、嫌気がさしているのかもわからなくなっている。とりあえず、ベッドの上に横になることで何もないことを実感し、正常を保っている。
頭では何も考えているつもりもないが、ふと気づくといろいろなネガティブなことを考えている。
それをやめようと違うことを考えるが行きつく先は、いつもバッドエンディング。何もしていないのに非常に頭が疲れ、むしろ痛い。
「また同じことの繰り返しか。」
カイルがぼそっと声を出した時だった。
「コンコンコン」
ノックがなった。どうぞという前に扉は開き、そこにはニブルスがいた。
「調子は…。よくなさそうだね。カイルのことだ、また思い詰めていたんじゃないかな?」
光のない瞳からは到底聞こえてこないであろう、優しい言葉。
「もう、どうしたらわからないよ。」
「手伝ってほしいことがあるんだけどいいかな?この前も少し話したけで人間族が魔国領に侵略戦争を仕掛けてきそうなんだ。だから、そのための兵士集めをしたいんだよね。」
「いいけど…どうやったらいいの?」
「兵士にしたい種族の長を倒せば、その部族は瓦解する。だから魔王軍に入るしかないってわけ。城下町のカオス・エンドにはいろいろな種族が暮らしているでしょ?そのなかでもいろいろな場面でゴブリンは役に立つんだ。それで、長年多くのゴブリンを率いてる南の小鬼をカイルに仲間にしてきてほしいんだよね。もちろん、一人じゃ行かせないよ?老鬼もついていかせるから。全然気を負わなくいいからね。老鬼もいるし、あ!でもなるべく長以外は殺さないように。せっかくの労働力を減らすことになったら困るからね。」
「わかったよ。今日はそれをやってみる。」
ぐったりとした体を起こし、ベッドからでるとメイドが服を着させてくれてた。
―――――
昼下がり、カイルは老鬼と南のゴブリンの集落へ向かってゆっくり歩いていた。
「お主と、しっかり話すのも初めてじゃな。よろしく。」
「あぁ。こちらこそよろしくお願いします。」
「ところでお主、深い話と浅い話どっちらが好みじゃ?」
「今は浅い話でしょうかね。」
「なるほどじゃあ、深い話をするとしよう。」
「え?聞いてました?」
「わしは、この世界で唯一の鬼族の生き残りじゃ。もう跡継ぎも伴侶も同じ種族も誰もおらん。みんな死んでもうた。じゃが、なにも悲しいことはない。わしが生きている限りは、種族が絶えるわけでもないし、死は平等に訪れるものなんじゃし、そのとき、どう生きたかが重要じゃろうよ。」
「…。長い時間があるとどうしても辛いことが多くて。それで…。」
「そらそうじゃろ。長い時間があれば辛いことに遭遇する率は高くなり、それについて考えることも長くなる。辛さとは、なにかに没頭してこそ消せるものなのじゃよ。一日何もしないで横になっていたとして心が浄化されるなんてことはありゃせんよ。」
「そうですね。」
「わしもお前さんが好きなんじゃ。愛くるしい孫を見ているみたいでのお。間違った道なんぞないし、お前さんを怠惰だんて言わんぞ。そんな奴がいたらわしが殺してやろう。」
「老鬼様ありがとうございます。」
「ふぉふぉ。老鬼でかまわん。ほれ、もう少しで見えてくるぞ。」
そこには、ゴブリンが作ったであろう張りぼてだが知性を感じさせる砦があった。
「足音からしてざっと1,000体くらいはいるのお。まずは交渉と行こうか。」
扉に近づくと、見張り台のゴブリンが鐘を鳴らしている。
「早くも敵と思われてますかね。」
「カイル様、交渉してみてくだされ。」
「え?えーと。私は魔城のカイルと申します。この度は南のゴブリンの集落の長に会いたくて参った次第です。どうか面会させてもらえませんでしょうか?」
「なぜ人間族がここにいる!」
「そりゃあ、四天王のわしの連れだからだぞい。」
老鬼を見たゴブリンが慌てて見張り台から降りた。
扉がゆっくり開いた。50人はいるであろう臨戦態勢の武器を構えたゴブリンがいた。
その奥に一際大きなゴブリンがいた。
「あなたが、ここの長ですか?」
「そうだ、見たらわかるだろう。それで何ようだ?」
「近々、人間族が魔族領に侵攻してくるという話を受け、魔城の城下町のカオス・エンドの強化を図りたく皆様をご招待しにきた次第です。」
「なるほど、しかし、我々はいかん。人間族風情にやられるこの種族ではない。」
「王命に逆らうんじゃな?カオス・エンドでは、お前たちのようなはぐれものを受け入れる準備もしている。どうするんじゃ?」
「あんなごった煮の街に行くくらいなら、戦士として戦場で華々しく散ったほうがいい!」
「…カイルやれるか?」
「わかりました。『雷電球』」
火花を散らした球体の電気が、一際大きなゴブリンに衝突した。すると、
「ばぁぁぁあぁぁん!!!!!!」
と、轟音が鳴り響いた。大きなゴブリンは一瞬にして炭化し倒れ崩れた。
大きな音が出たことでがやがやしていたほかのゴブリンも静まり返った。がしゃりと次々に武装を解除して手を上げていくゴブリンたち。
「次に序列の高いものを呼んでくるんじゃ。」
老鬼がそういうと、後ろから小さなゴブリンを抱いた、メスのゴブリンが現れた。
「お前さんクイーンじゃな?さっきの話聞こえていたろ?」
「わかりました。長のいなくなった部族では、統率がとれなくて衰退するしかありませんので。従わせていただきます。」
「では、荷造りを始めてくれ。必要品はこのリストに書いてあるからのお。いらないものは置いていけ、あとはカオス・エンドまでの護衛は我々でする。それとこれじゃ。ほい。」
老鬼が投げた四角いアイテムから骨で出来た馬と荷馬車があった。計4頭分。
「これでスムーズに引っ越しができるじゃろ。まぁ徒歩でいくやつもいるだろうがな。」
「お疲れ様でした。老鬼」
「いやいや。ゴブリンキングを一撃で倒すなんて人間族の出来る芸当ではないじゃろ。ちょっとしかお礼できんじゃったが、魔法を発動している間に爪を切っておいたんじゃ。あんまり籠ってないでじじいの相手もしてくださるとうれしいですわい。」
「ほんとだ。あの一瞬で爪を切ってるってしかも全部の爪がきれいになってる。」
「さて、報告しに帰りますぞ。」
「何も見えなかった…。切ってる素振りなんて…。どういうこと?」
―――――
そのころ、魔城の一室では、ニブルスとギルニアとノワールとDr.ストレンジラブが集まっていた。
「最近のカイルの調子はどうかな?」
ニブルスがにこやかに聞いた。
「恐れ入りますが、発言させていただいてもよろしいですか?」
「うん、いいよ!Dr.ストレンジラブ。」
「兼ねてより、安定剤等の投薬を行っていますが、改善は見られません。私からすると肉体年齢よりも精神的に成熟しすぎて苦悩等をリセットする力が働いていないのだと愚考します。ゆえに、苦悩は蓄積し、似たような事象が起こればフラッシュバックしてまた一から傷つくの繰り返しをしているようです。」
「そうだよね~。僕もそう思うよ。どうしたらいいかなぁ。この際、カイルが煩わしく思うものすべて破壊するのはどうかな?」
「それは、ご冗談を。」
口を押えながら上品にノワールが笑った。
「でも、半分本気だよ?この世界もいつまでも同じじゃないし、誰かが壊さなければ、成長はないよ。その時は、みんな頼んだよ。」
「その言い方だとニブルス様はどちらかに向かわれるのですか?」
ギルニアが悲しそうに言った。
「どうだろうね。カイルが人間族の王になって魔国王の僕と一生遊んで暮らしてくれるのが一番なんだけど。黙ってない人間族もおおいだろうね。本当にうるさい種族だよ。」
「では、カイル様に人間族の王となっていただくべく、現状の人間族を滅ぼしますか?」
「君たちはしなくていいよ。今もまだカイルを探しに来る人間族がいるんだろ?会わせてあげようよ。」
「はっ!」
ギルニアが頭を下げた。
「でも、カイルはどんな気持ちになるんだろう。どうせたくさんの人が死ぬのは変わらないし、下手したら僕たちもやられてしまうかもしれないのに。そしたら、本当の孤独を味わうのはカイルだと思うんだけどね。」
「私は、ニブルス様も大切ですが、カイル様もとても好意を持っております!もし、ニブルス様にもしものことがあった場合、カイル様の面倒はこのDr.ストレンジラブが永遠に見続けます。」
「はぁ。まぁ、僕死ぬことないんだけどね。その時はよろしく頼むよ。」
「未だ、あの若造と直接話したことがないのですが、どのような人物で?」
ノワールが言った。
「んー。卑屈で傲慢で、上手くいかないと死のうとする。子供みたいな子だね。」
「わかりました。私の嫌いなタイプということが。」
「ノワールは苦手かもねぇ。まぁ、二人で何かさせることはないと思うけど、あんまり嫌わないであげてよ。魔術が好きだからノワールの闇魔法にも興味持つかもよ?その時は優しく教えてあげてね。」
「はっ!承知いたしました。」
「僕も早くカイルと遊びたいなぁ。おやつ用意させておこうっと!」




