第30話
第参〇話 ノーミーデス
尻もちを着いたラヲハがきょとんとしていると。
「お前の仕業か。」
レリウスがフルフルと震えている。
「精霊ノーミーデス!」
突如として現れた精霊に試合会場がどよめいた。
その精霊は、起伏のとんだ体つきで褐色の健康そうな顔つきでにこやかにラヲハのほうを見ている。
「なんだ!?」
精霊は手を差し出すとラヲハを起こした。
何も言わずに、ラヲハを抱きしめた。
「な、あ、なんなんだよ!」
顔を赤らめたラヲハはあたふたしている。
「精霊を使えているなんて聞いていないよ。」
「いや、俺も今初めて見たんだよ!」
「…ラヲハ」
精霊がボソッとラヲハの名を呼んだ。その声でラヲハは思い出した。
「お前、まさか。ヴェネロペか?」
「…?」
精霊は聞きなれない名前にきょとんとした顔つきをしている。
「俺の力になってくれるのか?」
「…ラヲハ!」
精霊は強くラヲハを抱きしめて答えた。すると、スッと精霊は消えラヲハの体の中に入り込んだ。
ラヲハは体に白銀の鎧をまとった。
「これがお前の力か…。」
鎧と鎧の隙間からは、青白い炎のオーラが噴き出している。
「レリウス団長。2対1じゃ卑怯かもしれませんが、これが俺の本気みたいです。」
「精霊と共闘するなんて並みの精神じゃできない芸当だね。受け入れれば即精神が焼ききれ廃人となってしまうだろう。そんな精霊をいともたやすく。」
「たやすくじゃありませんよ。本人はわかってないみたいですが、俺はこの精霊を知っている。わかるんですよ。繋がっていたし、これからも繋いでいくことをね。行きます。『炎喰岩鎧』」
「これで攻守ともにさらに高みに行くわけか。やはり末恐ろしいことだね。」
爆発的に増えたオーラを纏ったラヲハは、一撃一撃がとてつもない威力の剣撃を繰り出していた。
「くっ!なんて重たい一撃なんだ。」
レリウスは上手く捌いているが、掌がびりびりとなり、少しでも気を抜けば押しつぶされてしまう剣に圧倒されていた。
素早い体捌きで躱し、力を逃がしていくレリウス。消耗戦になった場合不利になるのは、わかっていた。距離を取ったレリウスが言った。
「埒が明かないので、この一撃で決める。『風水陣』」
「くっ!さっきのやつか。こっちもこれで決めるぜ。」
両者距離を取りお互いに構えなおし、集中した。
「『極・水連風刃斬』」
大波のような質量の攻撃力を持った刃の連撃は、暴風のようにラヲハに迫ってきた。
「『炎天火』」
目を見開いたラヲハは一閃。斬撃の暴風雨の中に飛び込みすべてを蒸発させた。
レリウスの放った斬撃は、すべて蒸発し跡形もなくなっていた。
バキッと鈍い音が鳴った。レリウスの剣が折れていたのだった。
「これは、負けだ。」
「それまでだ。」
試合の全体を把握できていたヨウが言った。
「なんというか。まぁ。途中、ラッキーもあったが、ハイレベルな戦いだったんじゃねぇか。騎士団長もやっぱり強いじゃねぇか。」
「慰めはいらないですよ。」
「はぁはぁ。ありがとうございました。レリウス団長。」
「いやはや。精霊騎士と手合わせることになるとはね。思ってもみなかったよ。」
「今の試合、どうなっていたかわかっている騎士は、そんなにいないだろうな。目で追えるような剣撃じゃあなかった。」
「そうですね。常に武技を発動していなければ一瞬でやられていましたよ。」
「ところで、いつまでラヲハの後ろに隠れてるんだ?」
ひょこっとラヲハの後ろから顔をだしたのは、ノーミーデスだった。さきほどの妖艶な体つきとは違い小さな体になっており頭にはキノコがついていた。
「力を貸してくれてありがとな。」
「ラヲハ!ラヲハ!」
「こいつ俺の名前以外しゃべれねぇみたいだ。」
「そいつはノーミーデスっていう土の精霊だ。珍しいというか、本来人間の近寄る場所にはいないんだけどな。お前のことを気に入っているみたいだな。」
「わかっているんです。こいつは、きっとヴェネロペの生まれ変わりなんじゃないかって。ノームに連れていかれた後に精霊になって、俺の意志に共鳴してくれたんじゃないかって。」
「まぁ、細かいことはわかんねぇけど、精霊を携えた騎士なんておとぎ話みたいなもんだ。お前のその意志ってやつが揺らがないようにしろよ。」
「はい。頼んだぜ、ロペ!」
「んじゃ、まぁ。試合結果の通りだ。こいつと俺で魔族領へ向かう。その間の王国の守りはレリウス騎士団長中心によろしく頼んだ。すまんが、魔法団長は魔族領に行くみてえだからよ。魔法団のほうもよろしく頼んだレリウス騎士団長。」
「わかりました。全力で守って見せましょう。」




