第29話
第弐九話 騎士団長との一騎打ち
魔法団の戦いを騎士団たちも見ていた。皆、感嘆の声を上げていた。
「ローランドのじじいよりは、はるかに劣るがやるじゃねぇか」
ヨウがあごに手を当て言った。
「よし、お前らにも一ついうことがある。そこに俺の弟子がいる。名をラヲハという。そいつを騎士団長と勝負をさせる!もし、弟子が勝ったら、今回の魔族領には俺と弟子だけで行く。弟子が負けた場合…は、特に考えてねぇ。負けると思っていないからな。」
「ヨウ殿!何を考えているんですか!?」
レリウスが駆け寄って言った。
「そうだよ!いくらあんたと修行したとはいえ、騎士団長に勝てるレベルじゃないし、魔族領の敵数もわかってないなら大勢で行くべきだろ。」
「馬鹿だな。魔王は長距離の転移魔法が使える。いつでも王国内に侵入できる。そしたら誰が守るんだよ。しかも、これは侵略戦争のようなもんだ。攻め入るほうが不利にできてんだよ。だからこそ、人数は少ないほうがいい。とりあえず、騎士団長とラヲハの一騎打ちをしろ。全力でな。」
―――――
「ラヲハ君申し訳ないね。ヨウ殿の気まぐれには私も困っているんだよ。」
「いや、それは俺もです。」
二人は嘆息しながらも、お互いに剣を握り向き合った。
「しかしながら、ヨウ殿は言ったことは曲げないし、曲がらない。よって私は自分の役割を果たすために君を倒すよ。」
「俺も全力で行きます。『熱喰』」
ラヲハは赤いオーラを纏った。体温を上げ身体能力を上げるラヲハの武技だ。
「ほう。これはすごいじゃないか。でもまだまだなようだね。『風纏い』」
そうレリウスが言った瞬間、高速の踏み込みでラヲハの距離を詰めてきた。さらに、
「『水連閃』」
静かで目にも止まらない一閃がラヲハを襲った。
「ガキン!」
剣と剣がぶつかった。
「見えてますよ。ぎりぎりヨウの普通の剣のほうがもう少し早いかもしれませんね。」
「そうか。これでも追いつけないのか。剣豪とは、ほど遠いな。しかし、まだ私も一手使っただけだ。君は何か策があるのかい?」
「ありますよ、何個かねっ!」
鍔迫り合いを押しのけラヲハが踏み込み武技を放った。
「『陽炎』」
レリウスの視界はぐにゃりと曲がり剣がどこから来るのかわからなくなった。
「面白い。目がおかしくなったのか、それとも君自身が歪んでいるのか。しかし、攻撃を回避することも基本だろ。」
「『水泡冷脚』」
ラヲハの剣は当たっている、しかし、当たった瞬間に逸らされる。攻撃が当たってからの反応がとてつもない早さであった。
「ここだ!」
「隙は作らせた方が勝ちなんだ。もちろん自分の隙もわざと作って狙わせる。」
ラヲハが首筋に渾身の一撃を叩き込もうとした時だった。
「『水連閃』」
下腹部に鈍痛が走り、口から吐血した。
「ぐはッ!」
「まだやるかい?戦闘は練習とは違う。経験値の差だよ。実践に駆り出されている騎士団には到底及ばないさ。」
「今の一撃はもらいました。」
「うん?」
「俺は大器晩成型なんで、あとから強くなるんですよ。『熱喰:蒼』」
一段と増したオーラはガスバーナーのような青色をしていた。
「これはすごい。闘志が目に見えるようだよ。さて、ここからが本気みたいだね。」
二人は目にもとまらぬ速さで打ち合いをしている。剣同士の火花が散り、砂埃が立っていく。
押しているのは、若干ラヲハのようだが、レリウスは涼しい顔をしている。
陽炎も駆使しながら緩急のある攻撃はレリウスを捉えているが、今一歩決定打に欠けてしまう。
「攻撃は最大の防御ではないよ?体力ばかり削られてしまうだろ。そんなに振っていても。」
と、ラヲハの目の前に剣を刺し、動きを止めたレリウスが言った。
「『風水陣』」
レリウスが独特な構えをした。
「なっ!隙がねぇ。一歩でも近づいたら切られる。」
「いや、一歩も近づかなくても切られるんだよ。これは。」
そういうと、レリウスが一瞬で消え、ラヲハの間合いに入り込んできた。
「やべえ。」
ラヲハは背筋が凍った。あぁやられると。
「『泗水連撃』」
「…こんなところで負けてたまるかよ!」
その四連撃は弾かれた。何か硬いものにぶつかるように。
「なんだ!今のは!確かに体に当たっていたはずなのに弾かれた!」




