第25話
第弐五話 コロンの魔法
フィリッツが王宮の訓練場に赴くと、そこにはコロンが一人で練習をしていた。
「朝から精が出るな。」
「おはようございますなのです。今コロンに出来ることは練習をして強くなることしかないのです。」
「そうか。それで調子はどうだ?」
「はい、フィリッツ様に言われたとおり、『影』について考えていたのです。」
「ほう。影といえば実態のない分身を作ったり、諜報に役に立つ魔法だな。それをどうする?」
「見ていてください。」
そういうとコロンの影がぐにゃりと動いた。その影を実体化させ自由に動かしている。
「この短期間でそこまでの影を操るとは、すごいな。やはりもともとの才か。」
「でも、これではあんまりコロンが思っているものと違うのです。」
「なぜだ?近接戦闘を得意とするお前にぴったりだと思うがな。デコイとしても使え、フェイントとしても使える、または捕縛のためにも使える。万能じゃないか。」
「魔族との闘いなのです。そんなにうまくいくと思っていないのです。コロン自身の攻撃力は今までと変わっていないのです。だから、補助系の技じゃなくて必殺技が欲しいのです。」
「必殺技ねぇ。魔力の消費が激しい魔法は、戦闘において命と引き換えにすることを意味する。コロンの能力は、繊細な瞬間移動からの近接戦闘、かつ影による補助での攻撃精度の向上だと私は見ているが。」
「何か、それ以外にないのですか?コロンには…。」
「なんだコロン。何と比べている?」
「いや、そんなことは無いのです…。」
「カランだな。あいつの魔力も魔法も一線を越えて超人レベルだ。しかし、コロン。お前も人間の領域ではない。そもそも、短距離とは言え、転移魔法を使えるのは、極めて少数だ。長距離の転移魔法に至ってはおとぎ話のレベルなんだぞ?それをお前は使いこなしている。魔法団でもそれが出来る奴はいない。そこは自信を持っていいところだと思うが?」
「ありがとうございますなのです。でも、力が欲しいです。この身体じゃ、軽くて傷をつけるだけで倒しきれるかどうかなのです。」
「ふう。では、参考になればいいが。闇とは黒だ。黒をより黒くするには重さを重たくしろ。そして押し固めろ。すまん…抽象的だったな。頭の中で丸く漆黒の球体を想像して、そこに吸い込まれるイメージをしてみろ。そこからやりたいことをイメージするんだ。」
目をつむったコロンが、言われた通りに魔力を溜めながらイメージした。
「やはり、お前は近接戦闘に特化しているみたいだな。」
目の前のコロンから黒い靄が出て体に纏わりついている、それは、次第に黒装束の衣装になりまるで忍者のようだった。
「これは…。力がみなぎってくるのです。」
「お前がお前の魔力を最適化した姿だな。『影纏い』とでもいいべきか。」
「これがコロンの力。」
「そうだな。お前は魔法団よりも騎士団に指導してもらった方がいいのかもしれないな。魔力の制御や魔法についてよりも、近接戦闘の体捌きを徹底して教えてもらった方がいいかもしれない。掛け合っておくとしよう。」
「何から何までありがとうございますなのです。」
「これだけは、言っておく。何にも憧れるな。お前はそいつにはなれない。だからこそ、お前というものの高みはお前だけでしか超えられない。忘れるな。」
「…。お姉さまにコロンは追いつきたかったのです。守りたい。ずっとそばにいたいと思っているのです。そのためには、今回見たいなレベルで躓いている場合ではないと思ったのです。お姉さまの魔法は特別なのです。二人だけの特別な魔法なのです。そんなお姉さまを次の戦いで失いでもしたらコロンはどうにかなってしまいそうなのです。」
「そうだな、きっとカランもそう思っていると思うがな。」
ポンとコロンの頭に手をのせたフィリッツが優しい目をしていった。
「大丈夫さ。自分の強さも弱さも、他人が決めることじゃない。強くなりたいと思ったのは、きっかけがどうあれお前自身だったのだから。コロンの魔法は特別な魔法だよ。もう少し練度が増したら私と手合わせをしようか。強くなりたいと思うやつに手は抜かないからな。」
「はいなのです!フィリッツ様のおかげで、今は晴れやかなのです!」
「では、午後には騎士団と合流できるようにしておく。しかし、ほどほどにな。」
「ありがとうございますなのです。」
今回、発現した『影纏い』がただの身体強化魔法ではなく、カランにも負けず劣らず、特別な能力だとは、この時点では誰も知らなかった。




