第20話
第弐拾話 いのり
研磨の反乱がおきて二か月が経った。
王国内の小高い丘にこの件でなくなった人たちの集団墓地が出来ていた。その中をカランが一人歩いている。カランは迷うそぶりもなく真っすぐに目標の墓標にたどり着いた。
そこには、「ヴェネロペ・ルーシュ」と記載されていた。
「あなたを馬鹿にしたことを謝罪するわ。あの乱戦の中で戦いを終息させたのは、あなたの魔法だったとラヲハから聞かされた。そんなことは私には出来ない。けど、あなたのおかげで何かぼんやりだけどわかった気がするわ。今度会うときはもっと自信持ちなさいよね。ヴェネロペ…。」
手に持った小さな花束を墓に置くと、カランは去っていった。
――――――
「はい、1人死亡。はい、2人死亡。…。おいこのままじゃ全滅だぞ。」
「ヨウ様、あなたのような体捌きができる人間なんていませんよ。」
膝をついた騎士が肩で息をしながら言った。
「弱音は聞いてねぇ。誰か俺に剣を当ててみろ。いねぇのか?じゃあ、なんだ?俺1人で魔族領に行けってことか?」
「まだまだぁ!」
吹き飛ばされたラヲハがヨウに向かっていく。しかし、見向きもせず軽くあしらわれてしまう。
「騎士団がこんな調子じゃ、アカデミー生に顔向けできないぞ。」
「騎士団は単体での戦いを想定していませんので…。連携すればなんとか…。」
「じゃあ、やってみろよ。何人でもかかってこい。」
「では、四小隊の陣!」
四人の男たちが模造刀でヨウに切りかかる。しかし、ヨウは華麗に避けている。反撃の一刀を入れる瞬間、目の前の騎士と背後に隠れていた騎士が入れ替わり、カウンターを仕掛けてきた。
ヨウはとっさに足を払い、騎士を転ばせた。しかし、ヒョロヒョロとカウンターの剣がヨウの袖に触れた。
「…。なるほどな。まぁ悪くねぇじゃねぇか。お前らはそういうやり方が合ってるんだろうよ。」
四人の男たちはどっしりと座り、疲れ切っているが、ヨウに認められたことを嬉しく思っているようだった。
「まだまだぁ!」
「お前はいつまでやってんだ。」
ラヲハの一刀を避け、頭にカウンターの一刀を入れる瞬間、ラヲハはヨウに体当たりをした。
ドサッとヨウの足元で倒れるラヲハを見てヨウは目を丸くした。
「こいつ、気絶したまま剣を振るってたのか?ん?こいつ…。」
瓢箪から水をジャバジャバとラヲハの顔にかけたヨウが言った。
「おい坊主。これから真剣に特訓してやる。いつものメニューとは別で俺が稽古つけるからそのつもりでな。」
「え?あ、はい!ありがとうございます。」
騎士団長がヨウのところへ駆け寄ると、
「ヨウ様、あの子に何を見たんです?」
「わかんねぇのか?あいつ、あの若さで三種持ちだし、『精』に至っては多分『終』まで行ってんな。」
「まさか!並みの騎士よりも精神力がはるかに強いと?」
「気絶したまま、まともな剣振るう騎士ってお前の団にいる?」
「いませんが、信じられませんよ。」
「だろうね。何があいつをそこまでにしたかは知らんが、強くなりたい奴をそのままには出来ねぇな。それはそうと、レリウス騎士団長も修練した方がいいんじゃないか?」
「まったく嫌味を言う。私は修練する時間などないですよ。他の騎士の底上げが仕事ですから。」
「それじゃあ、あのガキに抜かされちまうな。」
「それは全力で抵抗させてもらいます。面子があるので。」
「ははは。子どもは怖いぞぉ。」
「そうですね。恐ろしいですね。」
――――――
「くそ、途中から記憶がねぇ。剣を当てることに必死になりすぎてるのか?特別訓練を付けてくれることになったけどもっと強くならねぇと。」
ラヲハは自分が成長していることに気づいてはいなかった。




