第18話
第壱八話 なにものか
カイルは砂になったアカデミーの真ん中で倒れていた。
意識はあるが起き上がろうとしない。なぜならレーティアをこの手で破壊したからだ。
決断したが、それを受け入れることはまた違うことであり、後悔として一生残る。
だから、立ち上がれなかった。
するとそこへ、ラヲハたちが駆け付けた。
「カイル!大丈夫か!」
一番にラヲハが駆け寄り声をかけた。
「…。」
「何かあったんだな?今はいい。ここから離れよう。立てるか?」
「カイル君が先ほどの雨雲を吹き飛ばしたのでしょうか?」
コロンが砂になったアカデミーを見渡しカランに言った。
「こんな魔力があるなんて、聞いてないわ。にしても砂どころじゃなくところどころ空間すら歪んでるわね。どれほどの魔力があればこんなこと出来るのかしら。」
カランが呆れ顔で言った。
「今はいいだろ。そんなことよりも手伝ってくれよ。カイルのやつ自分で立とうとしないんだ。」
ラヲハがそういった時だった。
辺り一面砂だらけの場所に突如、黒い扉が現れた。
その扉は重々しく、しかし、繊細な装飾のされた扉だった。その扉がゆっくりと開くと中から、角を生やし赤黒い髪をした背の低い少年が現れた。
「とてつもない魔力を感じてきてみれば、子どもが4人。さて、誰の仕業かな?」
透明な声とは裏腹に、その目は黒く淀んでいるようだった。
「あなたは誰なのです!」
コロンがカランの前に出てナイフを抜いた。
「あぁ。僕のことだよね。僕は魔王国から来た正真正銘の魔王。ニブルス・アルマだよ。知っているかな?」
4人を品定めするように見渡し、魔王は名乗った。
「な、なんで魔王がここに来るんだよ。」
ラヲハの額から汗が出ている。
「さっきも言っただろ?とてつもない魔力を感じたから誰がやったのかなって興味本位さ。あれれ?君すごいねぇ。魔力を全く感じないのに、びりびりするよ。なんだろ?怒ってるの?」
一瞬でカイルの元へ移動し、顔を覗き込む魔王が言った。
「…。」
「なんだ。この世の終わりみたいな顔して。それともこの世を終わらせたいと心から思っているのかな?それなら、魔王国の四天王と目的は一緒じゃないか。一緒に来てほしいな。どうかな?」
「一方的に話を進めてんじゃねぇ!」
ラヲハが剣を抜き魔王に切りかかるが、空を切った。
「大切なものをなくした顔をしているねぇ。僕も同じようなことを体験したことがあったような気がするよ。慰めにはならないかもしれないけど、僕といれば、少しは考え方が変わるかもしれないよ?」
「魔族に人間の心が理解できるはずないでしょ。」
カランが鋭い目つきで言った。
「心外だなぁ。僕だって悲しいことは悲しいと思うし、そんなものがなければいいと思っているよ?魔族と人間が違う種族だからって、心の作りは同じだよ。」
「そんな見え透いた嘘、誰が聞くんのですか!」
コロンがじりッと一歩踏み出していった。
「そんなにその子が大事なんだね。なおさら、来た甲斐があったよ。僕もその子に興味があるし、その子も僕に興味があるんじゃないかな?」
「…。見逃して…。」
カイルが小さい声で言った。
「おや?興味を引いたのは君のほうさ。だから、手足を切って引きずってでも連れていくよ?」
「ふざけんな!させるかよ!」
ラヲハは叫んだ。
「…。みんなを見逃してください…。」
「…!?カイル!何言ってんだ!置いていけるわけないだろ。」
「なんだぁ。話が早くて助かるよ。君が僕と来て、魔城で僕の話し相手になってくれればそれで充分だよ。彼らには手出ししない。約束するさ。」
「信用してはダメなのです。カイル君は私たちを帰るのですから。」
「ヴェネロペがいないじゃないか…。」
「カイル。それは…。今は話せるときじゃないだろ!」
「死んだんだろ?わかるよ。みんなの顔見れば。ここでこれ以上失ったら僕は奴らと同じにこの世界を嫌いになってしまいそうだ。だから…。」
「大切なものをたくさん失ってしまうとどうしても前に進めなくなっちゃうよね。わかるよ。だからこそ、僕と行こうよ。そんな君を僕が許容して、いろいろ導いてあげるよ。」
手を広げ、すべてを受け入れると豪語する魔王が言った。
カイルはだらりと立ち上がるとラヲハたちの前をとぼとぼと歩きだし魔王のほうへ向かった。
「君たちは彼に頑張ってほしいのかい?こんなボロボロに擦り切れてしまった心をさらに奮い立たせて、まだやれと?苦しみは人それぞれさ。誰かが理解できるものじゃない。無責任な激励ほど傷をつけるものはないよ。」
「違う!俺たちは…。一緒に…。一緒に分かち合いたいだけだ。」
「理解できると?それで何になるというんだい?」
「今はただ…。同じ苦しみを分かち合う時間が欲しいんだよ。」
「それもまた君たちのエゴだね。彼はとても優しいんだ。君たちの身を案じて、自分を差し出すくらいお人よしさ。力づくで連れ去るって言ったけどね、あれは嘘さ。けど、より彼を気に入った。」
「頼む。連れて行かないでくれ。」
「彼が決めたことさ。君も今は別の空気を吸った方がいいとは思わないかい?こんな荒廃した王国ですすの匂いが立ち込める場所にいたらそれだけで滅入ってしまうだろ?だから連れ出すんだ。僕もお人よしなんだよ。それと本当に彼を理解できるのは、僕くらいしかいないんじゃないかな?まぁ、そんなに彼が大切なんだったら今の君たちの心の傷を早く癒して、魔王国に取り返しにくればいいじゃないか。その時は、いいお茶を用意して歓迎するよ。」
そういうと、魔王はひらひらと手を振り扉の中へカイルを連れていった。
「どうなんってだよ…。」
ラヲハは、拳を砂に打ち付けた。




