第17話
第壱七話 石のノーム
ラヲハがヴェネロペの亡骸を大事そうに抱いている。
すると陽光の射す広場の片隅の石がゴトゴトと動き始め、形を変えた。
その異変に気付いたラヲハが辺りを見渡すころには、すでに何人かの小人に囲まれていた。
ひげを蓄えた三角帽子をかぶった小人の中でも、長老らしい小人が前に出た。
「その子は、死んだと思うか。」
「なっ、何言ってんだ。どう見ても…。」
「死とはなんだと思う?呼吸が止まったときか?心の臓が動きをやめたときか?」
「…。違う。ヴェネロペの意志を継がなくなった時だと思う。」
「そうか。彼女の意志とはなんだ?」
「みんなのために戦った。自信のなかった子がこの王国を救うために、そのために修練して。彼女の意志は貫く意志だ。だから俺ももっと強くなりたい彼女のように。そう何も失わないように。」
「それが彼女とお前の意志なのだな。固いようだな。」
すると、小人たちはラヲハからヴェネロペを預かった。
「どうするつもりだよ!」
「お前の意志はお前が通せばいい。我々は彼女の意志を繋ぐために来た。」
「でも、ヴェネロペはもう。」
「そこに意志がある限り、それは生きているのだろ。」
そういうと、小人たちはヴェネロペの亡骸を担ぎ、トコトコと歩いてスッと消えてしまった。
「今のはノーム…。土の精霊だよな。」
「何を辛気臭い顔をしているの?」
癇に障る声がした。そこにいたのはカランとコロンの二人だった。
「お前ら無事だったのか!」
「あんな敵に手こずる姉様ではないのです。もう魔力は残っていませんが。」
「…。コロン。余計なことは言わなくていいわ。それで、落ちこぼれはどこに行ったのかしら。」
「…だ。」
「え?聞こえないわ。はっきり言いなさい。」
「死んだって言ったんだよ!」
涙目になったラヲハがカランに向け怒鳴った。
「…。そう。…それは、残念ね。本当に残念だわ。」
「ラヲハ君、ヴェネロペの最後はどのようだったのですか。よかったらお聞きしたいのです。」
ラヲハはコロンに話し始めた。聞いているか聞いていないかわからないカランは置いて、起きあったことをすべて話した。ヴェネロペの魔法と自分の技を共鳴させたこと、ヴェネロペの魔法に救われたこと、最後に王国中に合成人形を溶かす雨を降らす大魔法を使ったこと、彼女の意志がみんなを守りたい一心だったこと、小人のノームに亡骸を持っていかれてしまったこと。ありとあらゆるすべてを話した。
カランとコロンは一言も発さず、ひたすらラヲハの話を聞いていた。
時より、コロンがラヲハをさすっていた。
カランは腕を組みそっぽを向いたまま空を見上げていた。
―――――
「カイルを知らないか?レーティア先生を探しにアカデミーに戻ったんだ。」
「アカデミーなら跡形もないわ。」
「は?」
「ここにくる途中に遠くから眺めただけなのですが、アカデミーのあった場所は、砂漠になっていたのです。」
「じゃあ、カイルは?」
「わからないのです。けどカイル君のことを私たちはあまりよくわかっていないのです。実力の底もよくわからないので、もしかしたら彼がやった魔法かもしれません。」
「なら、まだそこに行けばいるかもしれないな。」
「探しに行くのですか?」
「当たり前だろ、仲間だろ…。」
「そうなのです。私もついていくのです。姉様は?」
「…仕方ないわね。コロンが言うなら行くわ。」




