第15話
第壱五話 葬送
「お別れなんだね、レーティア…。これが終わったら、僕は…。」
レーティアの合成人形が雨にうたれている。
ヴェネロペの『熔魔法』でも『丙』と呼ばれる合成人形を溶かすことはできなかった。
ふらふらとレーティアの合成人形の攻撃を避けるカイル。
レーティアの合成人形は、レーティア自身の模倣品である。しかし、魔力のほとんどない状態で合成人形と変えられ、ヨウやローランドの合成人形のように改造を施しているわけでもない。ただの硬い人形であった。
魔法や錬金術の使えないレーティアの体術では、カイルをとらえることはできない。
レーティアの面影を合成人形に感じているカイルは、攻撃を避けるだけでなかなか反撃することができなかった。
涙と雨が混じったものが、ほほを伝う。レーティアの合成人形は、雨がほほを伝って涙ように見える。
雨の降っている音だけが、聞こえる。お互い何も言わずただただ一方は攻撃し、一方は避けるの繰り返し。
しかし、カイルは避けながらも覚悟を着実に固めていた。
回避しながらも自然魔力を己の体にため込んでいた。その時のために。
レーティアはもういない。目の前にいるのは、レーティアではない。そうわかっていても、決断する勇気がなかった。
レーティアの前傾姿勢の人生観をカイルはうらやましいと思っていた。
前世からの年齢を加えればもう人生の2分の1は終わっている。そんなカイルよりも若いレーティアの姿がかっこよかったのだ。
毎日が、キラキラしていたし、レーティアといれば自分もなんでも出来るような気がした。
忘れていたものを思い出させてくれたレーティアとの日々は、とても充実していた。
最初に起こしてくれたのもレーティアだった。魔法の特訓をしてくれたのもレーティアだった。アカデミーへ誘ってくれたのもレーティアだった。しかし、これからも救ってくれると思っていたレーティアがもういない。
この感情を吐き出しても、何も変わらない。戻らないものは戻らないと頭ではわかっている。しかし、割り切れない。頭のなかがぐずぐずになってしまっている。
少しずつたまっていく魔力を感じながら、カイルは決断しかねている。
まだ、レーティアを救う方法がこの世界にあるんじゃないか。合成人形を人間に戻す方法が。
そんなことをまとまらない頭で考えていた。
レーティアの合成人形は、そんなカイルをお構いなしに攻撃してくる。
無尽蔵の体力のレーティアの合成人形が止まることはない。ひたすら目標を破壊するまで攻撃をやめない。
カイルが避けていた攻撃が徐々に当たるようになってきた。
合成人形が攻撃パターンを分析して、徐々に当たるようになってきた。時間をかけ過ぎたようだ。
カイル自身もわかっていた。もうすぐ終わりが近いことを。
レーティアの合成人形と距離をとり、振るえる手を前に突き出し、カイルが唱えた。
「『星屑への葬送』」
とてつもない膨大な魔力が一気に解放された。
カイルを中心に大きな光の柱が空高く伸び、レーティアの合成人形を含め、そこらの瓦礫や草花、ありとあらゆるものが『塵』になっていく。
風魔法と土魔法の複合属性の極致『塵魔法』の一つ『星屑への葬送』を発動させた。すべてを塵と化し空高く吹き飛ばしてしまう魔法。カイルの自然魔力を用いたオリジナルの魔法だった。
――――――
その魔法は、王国中に雨を降らす曇天すらも吹き飛ばした。
あぁ。レーティアさん…。




