第14話
第壱四話 転機
王国中に雨が降り始めて数分が経った。
がちがちと軋む音をたて、王国騎士団を苦しめていた合成人形の動きが止まり始めた。
ラヲハは、今まで戦っていた『乙』の合成人形がどうなったかも確認せずに、ヴェネロペの亡骸を抱きしめていた。
その後ろの少し離れたところで、両腕の無くなった合成人形が立ち尽くし動かなくなっていた。
「ガガガ…。」
機械の声を発しながらも、まったく動く気配のない合成人形は、完全に沈黙した。
――――――
王国に降り出した雨は三権の元にも届いていた。
「おや、これは厄介な雨なのだよ。しかし、『丙』には通用しないがね。賢者の仕業だとしたらこの期に及んでまったく鬱陶しいのだよ。」
「これほどの魔法を使う輩が他にいたということに、わしも驚いているじゃよ。なんとも広範囲で繊細な魔法なんじゃ。」
「ようよう。そこの合成人形も少しは動き鈍らせてもいいんだぞ。さっきから七面倒な攻撃ばっかりじゃねぇか。」
そういったヨウに対し、ヨウの姿をした合成人形が技を繰り出した。
「『七陽刀』」
素早い七連撃がヨウを襲う。しかし、ヨウが使う『七陽刀』とは違い、高速で刀が振動している。
「受けると弾かれるんだろ。厄介だぜ。」
緩急のつけた足さばきで、すれすれで回避していくヨウ。少し切り傷を負いながらも自分の技の上位互換を躱していく。
『風刃』
鋭い風の刃がヨウの姿をした合成人形に襲い掛かる。
『水の壁』
ローランドの姿をした合成人形がヨウの姿をした合成人形を守る形で魔法を発動させた。
「それは悪手じゃな。魔法をよく知らんのか。」
風の刃は水で出来た壁を切り裂き、そのさきのヨウの姿をした合成人形に襲い掛かった。
しかし、バキキ!と音を立てヨウの合成人形が、風の刃を握りつぶした。
「それができるなら、じじいの合成人形の魔法いらなかっただろ?」
「お主、わしを馬鹿にしておるのか?」
「本当に付き合いきれないのだよ。模倣を超越したところにいる合成人形相手に遊んでいる場合ではないのではないのかね。」
「言うじゃねぇか。それじゃあ、名刀を見せてやんよ。どんな鈍らも使い手次第で名刀になるってことをな。」
「『夜鬼裂き』」
ヨウが一瞬ガクッとしゃがむと、ヨウの姿をした合成人形の懐に一瞬で踏み込んでいた。
右下から左上への刀の一閃が合成人形の肩に直撃した。
ひゅるひゅると回転しながら飛んでいく合成人形の右腕。ヨウは、あり得ない硬度の合成人形をいとも簡単に切って見せた。
「ちっ。硬いな。」
「よく言ってくれるのだよ。本来であれば刀のほうが折れてもおかしくないのだけどね。」
「じじいのほうは、任せていいのか?」
「わしにも考えがあるのじゃよ。しかし、まぁなんじゃ。若い者に譲ってもいいのじゃよ?」
「いいや。魔法使いとはやり合いたくねぇな。」
「ふぉふぉふぉ。わしもじゃよ。」
「『超重力の網』」
そういうとローランドは、自分に似た合成人形へ向かい魔法を唱えた。
目の見えない超重力が、合成人形を押しつぶした。
「指一本たりとも動かせんじゃろ。おとなしくしておれ。」
ギシギシと軋む音を立てローランドの合成人形がひれ伏している。しかし、その周りに魔法陣が出現した。
「やはり動きを止めたとて反撃してくるのじゃな。」
「『氷の大筒』」
ローランドの合成人形がそういうと辺りの魔法陣から氷でできた大きな大砲が出現した。
「氷魔法は苦手なんじゃけどな。よくもまあそのレベルといともたやすく。」
氷の大砲から射出された大きい氷塊は、ローランドとヨウ目掛けて飛んでくる。
「『火球連弾』」
大きい火球を複数出現させ氷塊とぶつけ相殺したローランド。
取りこぼした氷塊を一刀で断ち切ったヨウ。
両者とも余裕の姿だが、力は拮抗していた。
すると、ここでそのバランスが崩れた。片腕をなくしたヨウの合成人形が踏み込み身体をねじり高速でヨウへ向かい体当たりしてきた。
「なんだそれ。」
軽く躱すヨウに左手に持った刀の一閃が振り下ろされた。
ヨウはそれを自身の刀で受けた。そう受けてしまった。
ヨウの右腕が血しぶきを上げくるくると飛んでいた。ヨウは痛む腕よりも何が起きたのか理解しようとした。それは至極、単純なものだった。
ヨウの合成人形の腕が切り落とした以外に5本に増えていたのだった。その手には刀が5本握られており一つの刀にべっとりと血がついていた。
「くッ。不可視化の魔法かよ。じじいの闇魔法じゃねぇか。」
「なに協力し合うのは、君たちだけではないのだよ。」
自身の作成した合成人形が痛恨の一撃を与えたことに喜びを隠しきれないミシェルが言った。
「『生命力の聖域』」
すぐさまローランドが数少ない回復魔法を発動させた。
「切断された腕を戻すことはできん。これで多少の回復にはなるじゃろ。」
「すまねぇ。見くびってたぜ。」
腕を失ったとは、思えないほどの胆力のヨウが言った。
「これで、バランスが崩れたのだよ。いくら強くても片腕がなければ厳しいのだよ。」
「じじい。考えがあるんだろ?今使わないときついぜ。」
「わかっとるわ。お主次第じゃ。しくじってくれるな。」
そういうと、ローランドの周りに一際大きな魔法陣が展開された。




