第13話
第壱参話 救済の雨
残り2体の火の像がラヲハの前に立ち、しゃがんでいるラヲハを守っている。
「ぐっ!」
片膝をつき右肩を抑えるラヲハ。額から脂汗をだし必死で耐えていた。擦り傷や打撲の痛みなら高揚感で打ち消せたが、肩を貫かれたのだ。耐え難い痛みに歯を食いしばっていた。
ヴェネロペが自分のローブを引き裂き、ラヲハの肩へ縛り付け止血した。
「立てますか?」
「あぁ。けど、右手はもう動かせないな。」
「私が回復魔法を使えたら…。」
「自分を責めるなよ。勝って療養すれば治るだろ。」
「そうですね。勝ちましょう!」
ヴェネロペの肩を借りながら立ち上がったラヲハの前に、ほとんど無傷の『乙』の合成人形が言った。
「ゼンセンノセントウリョクハンゲン!ホウカイ!モウオワリ!ゼンリョクデハイジョ!」
そういうと、シューっと全身から煙を吐き、低い体勢になった合成人形が勢いよく飛んできた。
二体の火の像が、その行く手を阻むが、勢いを止めることなく消し飛ばされてしまった。
「あぶねぇ!」
ラヲハがヴェネロペを突き飛ばし、辛うじて回避した。
合成人形は、着地と同時にラヲハ目掛けて高速で突進していく。肩を抑えつつも何とか回避していくラヲハ。ヴェネロペの魔法によって『熱喰』の効果が高まっていたのは、とうに終わっていた。しかしながら、ラヲハは避けていた。
「『土塊の剣山!』」
ラヲハと合成人形の間に土で出来た鋭利な針の壁が合成人形の行く手を阻む。
「ウッザー!ジャッマー!ドッカーン!」
合成人形は、勢いを殺さずそのまま針の壁に体当たりし破壊した。その先にいたラヲハは、衝撃と砂煙で合成人形の視界から消えた。
針の壁の先にあったのは、ラヲハではなく、金属で出来た鋼鉄の塊だった。
「『鋼鉄の処女』」
その拷問器具に閉じ込められた合成人形は、ガシャンガシャンと暴れるが脱出することができない。
さらにヴェネロペは魔法を唱える。
『火炎の渦』
拷問器具の周りを業火が渦を巻き高熱に熱する。鋼鉄は赤くなっていき、中の合成人形もただでは済まない。
「グギギギギ…!」
ドーンと轟音を立て当たりを吹き飛ばし、拷問器具から出てきた合成人形の体は溶けた鉄が付着しギリギリと音を立てていた。
その背後にいたラヲハが左手で握った剣で渾身の斬撃を叩き込んだ。
『熱塊夜!』
刀身が赤くなった一撃は、合成人形の背中をとらえた…。
しかし、大きな裂傷はできたが、切り倒すことはできなかった。両手であれば今ので終わっていただろう一撃は、不完全に終わった。
一撃を受け吹き飛ばされた合成人形の辺りには砂埃が舞っている。
体勢を崩したラヲハが倒れている。その後ろには、ヴェネロペが杖を構えて肩で息をしている。
――――――
ぎりぎりの戦いの中それは起きた。
バシュッ!と何かが射出される音ともにラヲハの後ろでヴェネロペが倒れた。
合成人形が自らの腕を射出しヴェネロペに突き刺したのである。
ごぼっと口から吐血したヴェネロペは、微動だにせず倒れている。合成人形の攻撃は、砂埃からの完全な視覚外の攻撃であった。
「ヴェネロペ!」
身体を起こし、ヴェネロペに駆けよるラヲハ。
合成人形の腕の攻撃は、完全に致命傷だ。助からないと一瞬で判断できた。
「頼む!死ぬな!ヴェネロペ!」
「ラ、ヲハ、くん…まだ終わっ…てない。」
ごぼごぼと血を吐きながらヴェネロペが小さい声で言った。
ヴェネロペは近づく死を前にラヲハを守ろうとした。そして、第二撃目の腕の射出を何かで消し飛ばした。射出された腕はドロドロの液体となって飛び散った。
そう死を自覚したヴェネロペは、齢13歳にして火属性と土属性の複合属性の極致『熔属性』の魔法を発動させた。
『溶銑の慈雨…。』
王国全体を曇天が包み込み、空から雨が降り出した。
それは、人体には影響のない、合成人形だけを溶かす救済の雨だった。
そして、ヴェネロペの目から光が消えた…。
その死は、あっという間の出来事であった。
――――――




