第1話
第一章
第一話 転生というなの生誕
「結局のところ、正解が分からないまま終わってしまったなあ…」―――
漫然とした日々の不安に耐え兼ねて、僕は自らの命を投げ捨てた。良いことも嫌なことも半分くらいずつだと思っていたが、なぜだろう25歳を過ぎてから嫌なことのほうが多くなっていき、苦しい日々からの逃避をずっと考えていた。希死念慮というやつだ。それは静かにいつも隣に寄り添っていた。
「無」こそが、死後の世界…と思っていた。しかしながら、それはいた。形容するなら「神」なんだと思う。それは、自ら命を絶ったことへの『罰』だという。何が何だかわからないが、光が僕を包んでいく気がした…。
見知らぬ天井。硬いベッドの上に僕は横たわっていた。
「目が覚めたの?」
鈴の音が鳴るような綺麗な女性の声のする方を見た。そこにいたのは、すらっと伸びた足を組み、片手には本を持った綺麗な女性がいた。
「命の恩人にお礼はないの?」
綺麗ではあるが、その言葉に棘があるように感じた。第一印象は「怖い」だ。
「あ、え、えっと。ここは?」
こういうタイプの人の前でおどおどするのは、相手を不快にさせるだけだが、しょうがない。わからないものはわからないのだから。
「はあ…私はあなたの命の恩人で、まずあなたはそれに感謝をすればいいわ。」
状況を呑み込めない僕に対して、冷めた目を向けてくる彼女は、静かに言った。
「すみません。記憶がなくて状況が全く分からないのですが…」
ギシギシとベッドから音がなるのを感じながら、身体を起こし彼女に言った。
「質問を質問で返して来て、挙句の果てに記憶までないなんて、厄介者を拾っちゃったわ。でも、私はそこまでお人よしじゃないから期待しないことね。」
彼女は、パタンと呼んでいた本を閉じ、ため息をつくと懇切丁寧に説明してくれた。
要約するとこうだ。
まず、ここは人里離れた森にある彼女レーティアの家だそうだ。
僕は、森の中で山菜を採取していたレーティアがたまたま見つけたとのこと。意識を失っていたので、担いで家まで運んでくれたそうだ。なんとも、恥ずかしい。
レーティアは、錬金術の研究のため人里離れた場所で生活しているのだと教えてくれた。かなりのお人よしだ。見ず知らずの男を森から家まで運んで、目が覚めるまでそばにいてくれたのだから。
僕は死んだはず。ぼやけた頭が晴れていく中で思い出した。前世の漫然とした苦しい日々から逃避するために自ら命をたったことを。
レーティアに発見されなければ、第二の人生も野垂れ死んでいた訳だが、あれの言っていた罰とは、野垂れ死にではなかったのだ。
「ありがとうございます。見ず知らずの僕を助けていただいて。」
「まあ、こんなところに人族がいるなって珍しいし、私もそこまで鬼じゃないから。今日はゆっくり休むといいわ。あとで食事を持ってくるわね。」
冷たい声とは裏腹になぜか優しさが伝わってくるのはなぜだろうと感じながら、部屋の外へ出る彼女を見送りながら頭を下げた。
ふと、窓の外を見ると辺りには、森の中とは思えないほど綺麗な花がたくさん咲いていて、とてもさわやかで少し肌寒い風が窓から入ってきていた。そう、僕は前世の記憶を持ったまま別の世界に転生していた。
――――-―――
「あなた、子どもなのに言葉使いがいいわね。それなりの教育は受けているみたいね。」
レーティアは、あごに指をあてながら観察するように言った。
僕も驚いている。体が子どもになってるなんて。縮んでしまったもろもろを憂いながら思った。心の中では現状、憂いより転生系の話なら第二の人生期待のほうが大きいのではあるが。
「働かざる者食うべからず。だから体力が戻ったなら私の研究の手伝いをしてもらいます。教育を受けているってことは、それなりに魔力もあるでしょう。採取のときの護衛だったり、錬金術の手伝いなんかもしてもらうわ。」
「ん?魔力ですか?何ですかそれ?」
レーティアには転生のことを言っていない。目を丸くしたレーティアは、この世の理を教えてくれた。
魔力とは、空気中、植物、動物、物などすべてに含まれており、人族などはその魔力を利用して、肉体強化や魔法、錬金術などを行使するとのこと。
レーティアは、錬金術師であり、自分の魔力を使ってマジックアイテムや道具などへの魔法の付与を行える。
「魔力を知らないということは、仕事を頼むこともできないわね。家事は当たり前のようにあなたの担当ではあるのだけれど。それ以外の仕事も頼みたいの。」
「僕にできることがあるのでしょうか。戦ったこととかありませんよ。魔法なんて夢物語ですし。」
「戦闘が不向きでも魔法が使えなくても、手伝ってもらうことは山ほどあるわ。それよりもあなたはここで生活するのであれば死に物狂いで働きなさい。まずできることを確認しましょう。この世界では何を置いても魔力次第なの。その総量を調べましょう。」
レーティアは、戸棚から銀色の装飾のされた箱を取り出した。
「これは魔力の量を図るマジックアイテムよ。魔力量は生まれたときから多い人もいるし少ない人もいるの。その最大値は努力次第で増やすことができるけど、最初から多いに越したことはないから。」
というと、銀色の箱から小さい水晶を取り出した。
「その水晶を掌に乗せなさい。」
レーティアの手にある水晶はキラキラと輝いていた。レーティアはそっとその水晶を僕の掌に置いた。すると、今までキラキラと輝いていた水晶が、黒く光を失った。
「…。あなた、魔力がないわね。」
レーティアは、驚きを隠しながら冷静に言った。
「どうしましょうか。」
魔力やら魔法やらが夢物語だった前世からしたら変化がないのは、正直落ち込むが、もともと前世ではなかったのだから何とも言えない。
「魔力がないとなると、採取の手伝いくらいしかできないわね。何せこの家のほとんどは魔法陣に魔力を注いで発動させるようになっているから。もしかしたら、現状魔力がないだけで努力したら総量が増えるかもしれないわね。」
「かなりポジティブですね。そういうものなのでしょうか。」
「魔力を少しでもいいからひねり出さなきゃ、家事も任せられないじゃない。」
「そういうことですか。努力って何をしたら魔力は増やせるんですか?」
「基本的には、魔力を使うと徐々に増えていくの。でもあなたはそのきっかけとなる魔力がないから魔力のあるものを食べて、無理やり魔法を使えば個人の魔力量が増えるかもしれないわ。」
「魔力を得たとして、魔法を発動させるためにはどうしたらいいんですか?魔力というものを全く感じないんですが。」
「まあ、まずは魔力量の多い物を摂取したらわかるんじゃないかしら。ものは試しよ。これを食べてみなさい。」
レーティアがとりだしたのは、ムンクの叫びのような顔をした木の根っこらしきものだった。明らかに口に入れていいものではない気がした。
「これいけますか?」
「錬金術師の素材を受け取らないなんて失礼な子どもね。」
「いや、これ食べ物じゃないですよね?」
「男がぐちぐちと…。良いから食べなさい。」
手にあるムンクの叫びのような顔をした木の根っこらしきものから小さい音でキーキーと鳴き声が聞こえる。
『これはレンコン、これはレンコン…。レンコンも生で食べたことないけど…。』
自己暗示しながら、恐る恐る木の根っこをかじった。咀嚼することはできそうになかったので、そのまま胃に流し込むように呑み込んだ。吐き戻しそうになるのを堪えていると、目がバチバチし始め、血液とは違う流れを感じることができた。
「成功のようね。まあ理論的には成功するはずだから当たり前ね。」
「これが魔力ですか。すごいですね。暖かくて心地いいです。」
「あら、生まれつきあるものだからそんな感覚になったことはないのだけど、無い人からするとそういうものなのね。」
「この後どうしたらいいんですか?この魔力。」
「一時的なものだから時間が経つと消えてしまうから、今のうちに魔法陣に魔力を注いで魔法を発動させましょう。」
そういうと、レーティアは魔法陣の書いた紙を取り出して渡した。
「魔力を感じられるなら注ぎ方もわかるわね?」
「ちょっとやってみます。」
そういって、魔法陣に手をかざし魔力を注いだ。すると魔法人の中心に小さな火が点った。
「上出来だわ。これを繰り返して総量を0から1にしましょう。1になったらあなた個人の魔力で魔法陣を発動させて総量を増やしましょう。」
「ありがとうございます…。ってことはあの木の根っこみたいなのをまた食べるんですか?」
「そういうことになるわね。」
「きっつう。」
――――――
料理をするときの火や、水を出す、明かりをつけるなど些細な事をするにもすべて魔法陣に魔力を注がなければならなかった。そのたびにあの木の根っこを呑み込み魔力を取り込む必要があった。このまま魔力がなくてもいいんじゃないかと思いながらも、一か月程度たった時のことだった。
「もうそろそろマンドレイクはいいかしらね。魔法陣を発動させるくらいならもうそろそろ少しは魔力があってもいい頃でしょう。魔力量を測ってみましょう。カイル。」
そう、カイルとは、僕の名前だ。記憶喪失ということで名付け親はレーティアである。
由来は、遠い昔の優秀な錬金術の人の名前らしい。このまま錬金術師になるのだろうか。
とは言え、魔力がなければ錬金術師にもなれないわけなので、この一か月の苦行の成果が出ることを心の中で祈る。心なしか魔力を感じることができる。
レーティアが銀色の装飾のされた箱から水晶を取り出す。キラキラと輝く水晶をカイルの手の上に置いた。すると水晶は、またも黒く光を失った。
「…。どういうことですか。」
「…。カイル、残念ながらあなた個人の魔力はないみたいね。」
「いや、でも魔力は感じるんです!身体を覆っているくらい十分に!」
「…。この水晶に誤りはないわ。でも、魔力を感じるってどの辺りに感じるのかしら。」
「なんというか、身体全体にぼわっとした感じで!」
「前にも話したけど、空気中にも魔力はあるわ。それを感じる人はいないけどカイルならもしかしたら感じ取れるのかもしれないわね。そのぼわってした魔力を使うことはできそうかしら?」
「やってみます!」
身体に纏うぼわっとしたものを掌に集中するイメージしてみた。しかし、そのイメージとは裏腹に物凄く重たい物を動かすかのような負担がのしかかってきた。
「ぐっ!」
歯を食いしばりながら、空気中にある魔力の操作を試みた。徐々にではあるが流れている気がする。すると。
「パキッ!」
水晶に縦に筋が入った。
「なっ!」
レーティアの驚く声が聞こえた途端、ふと意識が薄れていき床に倒れた。
―――――――
見慣れた天井だ。くらくらする頭を振り起き上がる。レーティアがうたた寝をしている。また、そばで見守っていてくれたのだろう。
先ほどの感覚は一生忘れることができない。いや、むしろ現在進行形で魔力の流れをはっきり感じることができる。感じることはできるが、使うには相当の労力が必要のようだ。これを使いこなせたらこの家での役割をこなすことができるのではなかろうか。
そう考えていると、レーティアが目を覚ました。
「ごめんなさい。また、倒れたみたいで。」
「起きてたのね。身体に負担がかかったみたいで倒れたのよ。あの水晶は、もう使えないから、カイルの魔力を測ることはもうできないわ。状況からしてカイルは、あり得ないことに自然にある魔力を操作できるみたいね。訓練すれば私たちのように魔力で肉体強化や魔法、錬金術といったものが使いこなせるかもしれないわね。…毎回倒れてたら話にならないけど。」
レーティアは、眠そうな目を擦りながら言った。
「僕は大きすぎる魔力を動かそうとしたんだと思います…。大きな岩を動かす感覚になりましたから。」
「まあ、そもそも自然にある魔力を操るなんて、誰もできないし、もしかしたらカイルは特別なのかもしれないわ。少しずつ訓練していきましょう。」
「ありがとうございます。」
「今日はもう休みなさい。」
「はい。」
―――――――
言葉に冷たさを含むレーティアに拾われて、しかし、日々その行動に温かみを感じながら、さらに幾月か経った頃だった。
「レーティア。おはようございます。」
「おはよう。早いのね。」
「いや、もうお昼ですよ。また遅くまで研究ですか?」
「そうね。言っていなかったかしら?私はここでいろいろな植物から錬金術で薬を作っているのよ。」
「聞きましたけど、薬って何に効く薬なんですか?」
「効能はいろいろだけど、今やっているのは剣術士用の魔力操作を円滑に促すための薬かしら。」
「難しそうですね…。」
「まあ、剣術士用の魔力操作を促す薬は、アカデミーに入学した訓練生が一時的に飲むものでアカデミーから依頼されているのだけれど成果はないわね。この薬が出来たらカイルの自然魔力操作にも応用できると思ったのだけれど。上手くいかないわ。」
「それなんですけど!聞いてください!僕魔法使えちゃったかもしれないです!」
キラキラと目を輝かせたカイルは、興奮気味にレーティアに言う。
「そんな急に?」
「僕も考えていたんです。操作しようとする魔力が大きすぎるから動かせない。だったらもっと微量な魔力をコントロール出来たらって!」
「当たり前のことだと思うし、言うのは簡単だけれど。」
「いいから見ててください!」
カイルは、小さな手を天井へとかざした。するとふわふわととても小さな水滴が出てきた。
「今はこれくらいが限界です。」
ぜえぜえと肩で息をするカイルの魔法を見てレーティアは言った。
「水属性の魔法に間違いないわね。その量の魔力なら動かせるようになったってことよね?」
「はい。感覚では、筋肉トレーニングと同じかと思いました。感じる魔力をそのまま動かすのではなく、もっと繊細に感じ取れるように意識して微量の魔力を使う感じで…。」
「なるほど。ならもっと訓練して私の手伝いができるようにしてもらわないと。」
「はい!ずっと発動できるように訓練してみます!」
魔法の発動という前世では味わえなかった感覚に興奮を抑えきれない様子のカイルだったが、レーティアの過酷な訓練がこれから始まるとは知らなかった。
――――――
レーティアは四六時中、寝ているときでさえ頭の上に水球を維持し続けろと言ってきた。
最初のうちは、集中力が切れたら小さい水球が落ちてきて頭が少し濡れる程度であったが、そのうち大きな魔力を使えるようになると全身ずぶ濡れになってしまった。
「びしょびしょに毎回なるのは嫌だな…。」
「部屋を濡らすのだけはやめて頂戴。失敗するなら外でお願いね。」
と言われるが、家事をしながら魔力コントロールも調整しているという状況でいつ気が抜けるかわからない。カイルは失敗するたび自分の家事が増えるだけだったので、死に物狂いで家事を終わらせほとんどを外の花壇の近くで過ごしていた。
「かなりの魔力を操作できるようになったみたいね。」
「はい。操作できる自然魔力の量が多くなったんでしょうか、気を失ったりしなくなりました。」
「そうしたら、お願いがあるんだけど森にいる『ジャック・ジャッカー』という蜂の蜜を取ってきてほしいんだけど。一応昆虫型の魔物だから注意が必要よ。大丈夫そう?」
「複数体相手じゃなければ大丈夫だと思います。自分なりに本も読んで魔法を発動できる形にはしたので、この辺りで実践したいと思ってました。」
「じゃあ、森の東側にいつも採ってる巣があるからそこに行ってきて。あとこれも持っていきなさい。」
レーティアが渡したのは小さな鈴だった。
「これは?」
「何かあったときのお守りね。鳴らせばどんなに離れた場所でももう一つのこの鈴がなるようになってるの。どうしようもないときは鳴らしなさい。」
「わかりました。ありがとうございます。」
さっそくカイルは森の東へ向かった。
『ジャック・ジャッカー』という蜂に刺されると激痛、幻覚、さらには死に至るという危険な魔物ではあるらしいが、刺激しなければ襲ってこないとレーティアは話していた。
蜂の巣の前に野生の小動物が何匹かいたので、魔法で狩っていった。
『水刃』
出来るだけ傷をつけないように小さく鋭い刃を的確に急所に当てていくカイル。
「水鉄砲の要領で、花壇に水撒きしててよかった。」
動物の解体方法もレーティアから教わっていた。レーティアはいろんなことを教えてくれる。
カイルの出来ることを見極め、出来るであろうギリギリのところをいつもレーティアはお願いしてくる。そのため、出来ることが増えた今はとてつもなく成長している気がしている。
そんなことを考えていると大きな木のある開けた場所に出た。
「あれが巣だな。大きいな。」
何匹かの偵察蜂が巣の周りを飛んでいる。刺激しないようにしなければならないので、近づかずに遠くから様子をうかがっていた。
すると、頭に大きな角を付け、右肩には肩当のような鱗を付けた大きな熊の魔物が現れた。
蜂たちは一斉に巣から飛び出し、熊を容赦なく攻撃している。
「あれは天敵なのかな。見つけただけで攻撃してる。」
その大きな熊は、太い腕を振り回し蜂を跳ね除け、巣を破壊しようとしている。
「あの熊も蜜が狙いか。巣を壊されたら採取し続けられなくなっちゃう。倒さないと。」
隠れていたカイルが飛び出し、魔法を放った。
『水刃』
大きな熊に命中した水の刃は、かすり傷程度のものだった。
「なっ!硬すぎるだろ。」
以前、蜂と交戦していてカイルには気づいていない様子の熊に対して、カイルが次の一手を放った。
『風刃』
風をまとった刃は、鋭く熊に深く傷をつけた。しかし、致命傷にならない。というより熊の生命力が高いのだ。
「ぐおおう。」
低く唸った熊が、巣にあと一歩で手が届く瞬間、カイルはとっておきを使った。
『氷の針』
バキバキと地面が一瞬で凍り付き、そこから無数の針の形をした氷の棘が熊を襲った。
氷の棘は熊を貫き、動けなくし、さらに氷像に変えた。
「ふぅ。こんなもんかな。あとは蜜だけだ。って蜂が臨戦態勢のままだ。どうしよう。」
今後のためにも蜂は殺せない。静かになるのを待つのも大変だ。カイルは悩んだ末、鈴を鳴らした。
「チリーン」
高い音が森に広がった。すると、カサカサと茂みの中から小さな合成人形が出てきた。
「これはレーティアの…。付いてきてたのかな。」
トコトコと合成人形はカイルに近づき、ここに隠れろと言わんばかりに小さい体を動かしている。
「君がどうにかしてくれるの?」
大きく頷いた合成人形は、巣の近くまでトコトコと歩いて行った。巣の周りをぶんぶん飛び回っている蜂は合成人形に気づいているが攻撃をしてこない。
合成人形が巣の真下まで行くと、巣に小さな穴をあけた。そこからトロリと金色の蜜が出てきた。
合成人形は大きな口を開け蜜を飲み干している。
カイルが持ってきたビンよりもはるかに大量に採取している。というより飲んでいる。
「なんで刺されないんだろう?」
カイルが不思議に思っていると、トコトコと合成人形が戻ってきた。
「わかんないけどレーティアに助けてもらったんだろうね。ありがとう。一緒に帰ろうか。」
カイルがそういうと合成人形と一緒に帰路についた。
―――――
「ただいま戻りました。」
カイルは、合成人形と一緒に森の中にある家へ戻った。
「おかえりなさい。目的は達成できたみたいね。」
レーティアが奥から出てきてそういった。
「いや、僕だけでは蜜は取れませんでした。レーティアの合成人形ですよね?」
「そうよ。念のためにあとをついて行ってもらってたの。というより、その子は蜜を取るため専用の合成人形なのよね。」
「へ?じゃあ、わざわざ僕が行く必要はなかったじゃないですか。」
「そうね。だけど、ネイルベアを倒してくれたでしょ?」
「あの熊のことですか?」
「そう。この合成人形では一方的に破壊されて、巣も壊されてしまうから、カイルにお願いしたってわけよ。」
「そうだったんですか。熊が出るなら、そう言ってくれてもよかったのに。」
「突発的な危機にも対応できていたじゃない。一部始終を合成人形からの映像で見ていたわ。それはそうとカイル。氷属性の複合属性を使えたのね。」
「あ、はい。本に書いてあった魔法というか、イメージしやすい魔法ならほとんど発動できます。」
「そうなのね…。複合属性を扱える人なんて珍しいから、カイルはこんな場所じゃなくてもっと活躍できる場所がありそうね。考えておくわ。それと蜂蜜ありがとうね。」
そういうとレーティアはカイルではなく、合成人形の頭を撫でた。