七歳
幼少期に入りました。
「はぁぁっ」
カンッと硬質な音がして木刀が宙に舞う。びりびりと手が痺れて、力が入らない。
「ここまで、だな」
「……ありがとう、蒼月」
対面していた蒼月に礼を言い、その場に座り込む。肩で息をしていれば、目の前にコップが差し出された。
氷の入った水だ。一息に飲み干せば、膝を付いた蒼月と視線が合う。
「まだいるか?」
「ううん、大丈夫」
そうか、と呟くと蒼月の掌に浮かぶ水球が消えた。
「筋は良い。さすがは主だ。だが、フェイントにも良く反応してしまうのが難点か。身体強化の魔法もずいぶん上達した」
「蒼月の教え方が上手だからだよ」
コップに残った氷を放り込んで、口の中で転がす。
時刻は深夜。場所はベルセリウス辺境伯家領の森の中。五つの時から始まった鍛錬は、もう二年続いている。
ユリウス・ベルセリウス辺境伯の養女――正体を隠すため、シャリーナ・ベルセリウスと名を付けられた私は、七歳になっていた。
両親と似た容姿であるのがバレないように、ベルセリウス領に着いた頃から色替えの魔法で亜麻色の髪に赤味の強い茶色の瞳に変えられて、自分が誰かも教えられずに今まで育ってきた。
それは、すなわち、両親が目覚めなかったことを意味する。
まことしやかに囁かれるは、両親は死んでは居らず、長い眠りについているという話だ。
現状国を取り仕切るのは宰相。王にと目されるは長兄だという王子。――あの日、ユズ兄が聞いたとおりだと言うのなら、まんまと両親を襲った奴らの思うとおりになっているということだ。
とはいっても、私はまだ七歳。だから何が出来ることも無く、こうして毎夜屋敷を抜け出し、蒼月から生きる術を学んでいた。
さすがに、貴族の令嬢がこんな歳から魔法や剣術の鍛錬をしていると、奇異に見られかねないしね。こうして鍛錬の時だけは色替えの魔法も蒼月に解いてもらってただのシャナになれるから気が楽だ。
ちなみに蒼月は私付きの従者としてベルセリウス辺境伯家に雇い入れられている形だ。従者姿がいつの間にか様になっていた。
「鑑定」
氷を噛み砕いて言葉を紡げば、空中に文字が浮かび上がる。
シャリーナ・ベルセリウス(シャナ・リアロート)
ユニークスキル:『鑑定』『アイテムボックス』『検索』
文字を理解するようになって、ようやくわかった自分のスキル。異世界転生、といえば定番だろう二つに加えて、前世でこそ理解されるだろうユニークスキル検索。
少なくとも、ただ生きていくだけならこのスキルさえあれば問題無いだろうと思えるものだ。
使い方は――――
スキルを発動させようとしたところで、不意に音が聞こえた。
「何……?」
「どうやら、何者かが魔獣に追われているようだな」
「ッ」
アイテムボックスにコップを投げ入れ、取り出したのはこの世界観には少々似つかわしくないサングラスだ。
顔を隠すためと、どこからか蒼月が持って来たそれと帽子に髪を入れて深く被ると、身体強化を発動して即座に走る。
木々を足場に跳ぶように駆け、声の方に足を進める。途中、薄く魔力を伸ばせば、簡易の索敵が出来る。蒼月に教わったまま展開すれば、数百メートル先に反応が十、十一……いや、十二。離れたとこにもう七つ。
「フォレストウルフが五匹……主の肩慣らしにはちょうど良い相手だが。どうする?」
「わかった。やる」
一も二もなく頷いて、はやくはやくと一層足に力を込めた。