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サルビア王記  作者: 柚ノ木 静加
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この世界


 カタコトガタンと馬車が揺れる。目的地の辺境までは数日かかるらしい。王都郊外に別の馬車を待たせていたらしく、幾人かの侍女と騎士たちが一行へと加わっていた。

 蒼月のことは、兄二人からの推薦もあり私の護衛として付いてくることになった者だと周囲に伝えられたようだ。色々省いているだけで嘘ではない。

 人の習慣に慣れないらしい蒼月のフォローは、ユリウスと護衛として蒼月のことを知った二人が率先してくれており、後から合流した人は蒼月がまさか神獣だとは思っていないだろう。

 そして私は赤ん坊だからほとんどが寝て過ごしているが、起きた時はほぼ蒼月の腕の中だ。

 なにせ意思疎通が出来るのは蒼月だけ。せっかくの時間は有効活用したいと言うことで、彼から話を聞いている。

 わかったことはいくつか。この世界は魔法があるだけでなく、魔物やエルフ、ドワーフ、獣人族なんて王道の存在もいるらしい。いつか見てみたい。

 それから、やっぱり気になるのは魔法の使い方。どうやら誰にでも魔力はあるそうで、大なり小なり何かしらの魔法は使えるようだ。

 そして、スキル。生まれ持っていたり、成長過程で取得できることもできるもの。ちなみに生まれ持ったスキルはユニークスキルと呼ばれ、数も種類も完全ランダム。といってもほとんど一つ二つ程度で、ありふれたスキルが多いらしい。

 なにせ、父様は国王でありながらユニークスキルは手芸。手編みのレース作りが特に上手かったのだとは、旅の間にユリウスが蒼月へ教えてくれた。

 一応、ユニークスキルの中には、替わりが利かないようなレアスキルがあるにはあるが、それこそ何万分の一くらいだそうだ。

 スキルを知るには専用の道具か鑑定スキルが必要だそうで、ユニークスキルはどのようなものか知った上で初めて使えるのだとか。

 自分のスキルが何か、ものすごく気になるところではある。


『俺もおそらく鑑定系スキルはないしな……』

『私が持ってたら良いんだけどねぇ』

『試してみるか? 鑑定したいものを視界に入れて、心の中で鑑定と唱えるだけだ。主の世界には空想とはいえ鑑定スキルがあったのだろう? それを“知っている”のなら、試す価値はあると思うが』


 蒼月の提案になるほど、と納得する。生前読んでいたファンタジー小説にも、鑑定スキルは出てきていた。

 知っている状態だとでも言えるだろう。どうせ暇なのだし、駄目元でやってみよう。


『蒼月に使ってみて良い?』

『ああ』


 蒼月を見たまま、鑑定、と心の内で唱える。

まあ、そんな出来たら苦労はな――――


 **:*****

 *******:『*****』『**』『******』


「う!?」

「シャナ様……?」

「うー、あ」

「問題無い」


 突然声をあげた赤子に反応したユリウスを、手を一つ上げただけで制止した蒼月は、表情こそ変えてないものの、まさかと目を丸くしていた。


『鑑定が、使えたのか?』

『使えちゃったね……』


 空中の、何も無いところに浮かんだ文字。おそらくはそれが鑑定の能力なのだろう。

 ――――ただ。


『文字、読めない……』

『……そうか』


 うん。読めない。日本語でも英語でもない文字だ。この国の文字だろうけど、まったく解読不能である。

 生まれて周囲の声が認識出来る時点で、お? これは異世界お約束の言語チートかな? と思ってたのだけど読み書きには対応していないようだ。考えても仕方ないので、そういうのもだと認識しておく。


『早く読めるようになりたいな』

『これからいくらでも時間はある。俺が教えよう』

『ありがとう』


 確かに、蒼月の言うとおり私には時間が出来る。今赤子である以上、体を使って出来ることはないが、読み書きくらいなら蒼月がいてくれたら勉強できそうだ。


『主、他になにか望みはあるか?』

『望み?』


 唐突に問いかけられて、ぱちぱちと瞬いて問い返す。


『先も言ったとおり、主が自由に動けるようになるまでそれなりに時間が出来るだろう? 読み書きだけではなく、何か――ッ』


 馬の嘶きが聞こえ、急に馬車が止まる。頭に響いていた蒼月の声が途切れ、強い力で抱きしめられた。


「どうしたッ」


 馬車の窓から身を乗り出して、ユリウスが外へと声をかける。


「フォレストタイガーの群です!」

「こんなときに……! 蒼月様はシャナ様とこちらでお待ちください。すぐに片付けてきます」

「手伝いはいるか?」

「いえ。あの程度、どうということはありません」


 馬車の扉を開けると、ユリウスが飛び出していく。それを視界の隅で捉えて、ぺちぺちと蒼月の体を叩く。


「ああ、すまない、主。痛かったか?」


 私と蒼月以外いなくなったことで、頭に響く声ではなく、耳に響く声が労るようにかけられる。


『大丈夫。何かあったの?』

「魔物が出た」


 ――魔物。前の世界には存在しなかった生き物。


『みたい』

「……勧めはしない」

『お願い、蒼月』


 見たいと思った。私が生きていく世界を。

 城にいた間は見れない世界。多くの人が生きている世界の一端を。


「……わかった。ただし、ここから見るだけだ」


 そう言って、窓の外が見えるよう、蒼月が抱き方を変えてくれる。

 薄暗い森の中、紅い瞳が爛々と光っていた。

 ぞわり、と背筋が震える。

 深い緑の毛並みを持つ、大きな虎のような生き物が数体。二本の牙が、長く伸びて口から見えいている。フォレストタイガーと呼ばれた魔物は、素早く動いて近くの者へと襲いかかる。

 一人の騎士が盾で抑えるも、その重さに蹈鞴を踏む。

 別の騎士が横から斬りかかり、魔物の体から鮮血が飛んだ。

 別の方では、岩が槍のようにフォレストタイガーに襲いかかっていた。それをひらりと躱して、方向転換をしたフォレストタイガーが、鋭い爪が騎士の腕を切り裂く。

 魔法だ、なんて。気にしている余裕はない。これ、は。


「主、ここまでだ」


 ぽん、ぽん、と背を撫でられて、体が強張っていたのに気づく。


『そうげつ』

「多くの魔物は人を餌としてみる。あれはこの世界では当たり前の光景だ」

『あたり、まえ』


 当たり前のように剣と魔法があり、人を襲う魔物がいて、血が流れる。そんな、世界。これが、私が生きる、生きていく世界。


「あの様子なら無傷とは言わないが死ぬものはいないだろう。おまえが望むなら、誰かが命を落とす前に手を出す」

『ん。それは、お願い蒼月』

「心得た」


 即答された返事に安堵して、少しだけ力が抜ける。それでも、覚えた恐怖はなくならない。

 戦う音が続いてしばらく。蒼月の出番が来るよりも先に、カタはついたようだ。外の音に剣の音が混じらなくなった。


「全員、無事のようだ」

『そ、か』


 漂う鉄の匂い。――血の匂い。

 死んだ人はいないけど、きっと怪我をした人はいっぱいいた。


『蒼月、お願いがあるの』

「主?」

『私に、生きる術を教えて欲しい』


 この世界で生きる方法を。



と言うわけで赤ん坊編まで急ピッチで。

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