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サルビア王記  作者: 柚ノ木 静加
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予言


 城下の路地を少し歩いた場所に、馬車が用意されていた。闇に溶け込むようにひっそりと置かれたそれに乗り込めば、ユリウスの指示で馬車が動き出す。


「数日かけて、我が領地に辿り着きます」

「そうか。お前にも聞きたい事があるが、しばし俺は意識を傾ける。邪魔をするな」

「心得ました」


 それだけ言って蒼月が目を閉じる。意識を傾けるとはなんなのかは分からないが、ユリウス卿は邪魔をするつもりはないらしい。


『――主、聞こえているか』

「ぅあっ!?」


 突然頭に響いた声に驚きの声を漏らせば、ユリウスがびくりとするが、もぞもぞと蒼月の胸元に顔を埋める恰好を取れば、何事もないと思われたのか、声をかけられることも無かった。


『主が幼い今、触れてないと使えんが、テレパシーを使っている。主はただ、話したいことを思い浮かべるだけで良い』


 ちらりと視線を上げれば、悪戯が成功した子どものように蒼月が笑みを浮かべていた。

 テレパシー……? もしかして、彼が、蒼月と名乗ったのは、偶然でもなく私がそう名付けたいと思ったからだろうか。あの時は、触れてなかったはずだけど。


『あれは無意識に主が名を与えようとしたから特別だ。本来、我らのような神獣は名を授かることで正式に主従の契約を交わす』

『契約?』

『ああ。神獣は、自身に合った魔力で目覚める。その目覚めが他者より与えられたときは、目覚めの対価として、仕える契約をする。……とはいっても、普通は同族か自然の魔力で起きるが。他者の魔力で起きたとして、よほど気に入らぬものであれば、契約破棄して契約者を始末することもある』


 びくり、と蒼月の腕の中で体を固まらせれば、ふ、と彼の表情が緩む。


『安心を。契約を破棄する気があるのなら既にしている』


 それもそうか、と納得する。赤ん坊である私は何の抵抗も出来ない。彼が自分の意志でこうしていてくれるのだろう。何故かはわからないが彼は私を主と認めてくれているらしい。浮かんだ疑問をぶつけてみる。


『なんで私を主としてくれたの?』

『何故、と問われても。……本能のようなものだ。間違いなく、あなたは俺の主だ。きっと、ずっと、俺はあなたを待っていた』


 笑みを浮かべた蒼月に、嘘をついている様子は無い。


『じゃあ、兄様たちが言っていた、あなたを目覚めさせたら良き王となるというのは……?』


 確か、神獣を目覚めさせた王族が良き王となる、だったか。彼の口ぶりでは自然と目覚めていた可能性もあったようだけど。


『まるきり嘘ではない。千年前の神獣が予言をしていた。遙か先の王家に生まれた者が、我が主となり、良き王となり、国導くだろうと。――その言葉通り、主、あなたが俺を目覚めさせた』

『……私が、国を繁栄させるって?』


 私は、前世の記憶がある。けれど、私はあくまで一般人だった。今世が王族に生まれたからと言ってそんな人間になれるとは、到底思えない。


『予言はその通りだ。そも――神獣がいれば、大抵の災厄や戦争の心配はしなくて良いからな』


 なるほど。予言はさておき、いるだけで他国への牽制にもなり、平和がもたらされるのならば、神獣を従える王が良き王と長い歴史の果てに歪曲されていても不思議では無い。

 それにしても。


『あなたは、生まれたばかりなのだろうけど。何でこんなにも詳しいの?』

『神獣とはそういうものだ。卵の頃から自我を持ち、ある程度の知識を持っている』


 卵の頃から……? だって、あの卵は千年も前のものだって。


『主?』

『……それはとても、寂しかったね』


 卵として生まれて、いつから自我を持ったのかは分からないけれど。あんな場所で、誰も来ない中、ひとりぼっちは、きっと、ずっと寂しいことだ。

 まだ小さな手で彼に手を伸ばせば、瞬いた彼がそっと指を伸ばしてくる。握りしめれば、くしゃりと蒼月の顔が歪む。


『――ああ。そうだな』


 その顔は、迷子の子どもがようやく親を見つけたかのように、どこか安堵を滲ませていた。


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